183.『婿養子!?』
[ セル戦後のベジブルとC.C.一家です。
トランクスは幼稚園年少、4歳くらいをイメージしました。]
深夜、 C.C.。 仕事で また、遅くなってしまった。
子供部屋を覗いて、トランクスの様子を確かめてから、寝室に入る。
こちらに背を向けて、横たわっている ベジータ。
まだ眠っていないくせに、声一つかけてくれない。
ベッドの上で 背中に寄り添い、そっと頬を押し付ける。
寝息は まったく、聞こえてこない。
それなのに、彼ときたら 黙ったままだ。
よーし、 だったら・・
背後から、ある個所に向かって 手を伸ばす。 こうしてやれば、無視なんて できないはずだ。
案の定、 ベジータは口を開いた。
「やめろ。」
きっぱりとした口調で言い放ち、手首を掴んで払いのける。
「さっさと寝ろ。」
・・・フンだ。 なによ。
「わかったわ。 おやすみなさい。」
返事はないけれど、付け加える。
「でも、そう言って油断させておいて、寝入ったところにガバッ!なんていうのは やめてね!」
「なんだと! 誰が、」
「あら、何度か あったわよ。 あとね、朝方にモゾモゾ触ってくるのも勘弁してね!」
「くそっ・・・。」
ちょっと、言いすぎただろうか。
だけど ベジータはそのまま、背を向けた姿勢のままで眠ってしまった。
どこかに行ってしまうことなく、同じベッドで休んでくれた。
そのことに、わたしは安堵する。
だけど、朝、目を覚ました時には 彼はいなかった。
シーツにも、カバーにも、彼の匂いと ぬくもりが残っている。
「あーあ。 あんな言い方、しなきゃ よかった。」
抱いて、って ちゃんと 素直に言えばよかった・・。
「いっけない! こんなことしてる場合じゃないんだわ!」
わたしは飛び起きた。
早朝から予定が詰まっているし、それに 朝ごはんの時だけでも、トランクスと一緒にいてあげたい。
このところ 時間がなくて、あの子と ゆっくり向き合えていないのだ。
身支度だけを急いで済ませて、食堂に向かう。
「おはよう、ママ!」
「おはよう、トランクス。 ちゃんと起きて、えらいわね。」
・・・
食堂にも、ベジータの姿は なかった。
また、重力室だろうか。 それとも、外に出て行ってしまったのだろうか。
夜。 夕食の時間だが、 あの女、ブルマは まだ帰っていない。
別に、めずらしいことではないのだが。
それはそうと、さっきから耳障りな金属音が響いている。
トランクスの奴だ。
皿の上の 肉や野菜を、やたらと小さく 切り刻んでいる。
だが、口にしやすいよう切り分けているわけではない。
表情から察するに、奴は ひどく ふてくされている。
それに気づいた ブルマの父親は、自分の皿と取り替えてやり、誰にともなく こう言った。
「ブルマは、少し忙しすぎるなあ。
手を広げるのは ほどほどにしないと きりがなくなってしまうと、いつも言ってるんだが。」
「そうよねえ、 ずっと この調子じゃ、トランクスちゃんが可哀想。 それに、ベジータちゃんだって・・ 」
母親の言葉が終わる前に、俺は口を挟んでいた。
「フン、甘ったれた奴だ。」
もちろん、トランクスに対してだ。
あまり、話しかけたことはない。 けれども 自分に言っているのだと、奴は 理解したようだ。
「おれ、甘えん坊じゃないよ!!」
「なら、 黙って食え。」
「・・・。」
何か、言い返そうとしていた。 が、結局、口をとがらせるだけで終わった。
給仕ロボットが ちょうど、デザートの皿を運んできた。
それに ブルマの母親が、
「そうよね、甘えん坊とは ちょっと違うわ。 ママのことが大好きで、体をこわさないか心配なのよね。」
そう言ったせいだ。
夜更け、 寝室、 ベッドの上。 あの女は まだ、帰って来ない。
いつの頃からか この部屋の、でかいベッドで眠るようになった。
あの女と一緒にだ。
トレーニングで外に出たとしても、夜明かしまではしなくなっている。
俺は完全に、飼いならされたというわけだ。
だが 次第に、こうも考えるようになった。
俺は王子だ。
王であった父が もっと強ければ、 いや、何かが もう少し違っていたなら、
周りの者に傅かれ、城でぬくぬくと暮らしていた。
もちろん 日々 トレーニングを積み、宇宙に出ることも多かっただろう。
しかし あのまま成長していれば いずれは王となり、妻を娶っていたはずだ。
妻となる女の第一条件は、世継ぎにふさわしい、戦闘力の高い男児を産むことだ。
しかし、バカでは困る。 教養も、そこそこ なくては。
だとすると 裕福な家、つまり、それなりの階層の出である方が 間違いはない。
あとは まあ、醜いよりは美しい方がいい。
と、なると・・・
一人の女の、顔が脳裏に浮かんだ。
「くそっ・・。」
息を吸い込むと、あの女の肌の匂いが よみがえってきた。
夜、 わたしたちの寝室。
ああ、何日ぶりだろう、 このベッドに横になるのは。
力を入れていた新製品に 重大な欠陥が見つかり、その対応に追われていた。
帰って来れた日もあったんだけど、その夜は トランクスの部屋で眠った。
少しでも、一緒にいようと思ったのだ。
ベジータはといえば 今夜も、背中を向けて眠ったふりをしている。
あの、何日か前の夜と同じように。
背後から、下に向かって手を伸ばす。
「何しやがる・・。」 「ん? この間の続きよ。 恋しかったでしょう?」
「フン、誰が。」
手首を、小刻みに動かしながら 握りしめる。
「ふふっ・・ あんたって、わたしの前では いつも こうなってるんじゃない?」
決して、力を入れ過ぎたりはしないように・・ 「きゃっ!」
体勢を、入れ替えられた。 覆いかぶさってくるベジータ。
あっという間に下着が取り去られ、中指が、ぐいと奥まで 入り込んでくる。
水によく似た、聞きなれた音が 耳に響く。
「ああ・・・。」
「まったく、いやらしい女だな。 おまえの ここは、乾いている時が あるのか?」
そうね、ないかもしれない。 あんたと、一緒の時は・・・。
「あっ、 」
答えるよりも先に、貫かれる。
「あ、 あん、 もっと、してほしかったのに、」 「何をだ。」
「さっきの、指の・・ ああっ!」
繋がったまま ベジータは、指を動かし続けてる。
痺れるような快感を、そちらからも 与え続ける気だ。
「イヤ、 だめ、 そんな・・ 」
「何がダメなんだ。」
「いっちゃう、 すぐに、 あっ・・ 」
けど、それはベジータも同じだった。
短く浅い吐息と共に、わたしの上で、彼は果てた。
「ね、 まだ このままでいて。」
浅く繋がって、仰向けのまま 手を伸ばす。 頬を包み、唇を重ねる。
始まる時も 最中も、そして終わった後のキスも大好き。
仕事で帰れなかった夜、 来てくれればいいのにと思った。
窓を破って、わたしを奪いに来てほしいと願った。
だけど やっぱり、この方がいい。 家で、この部屋で抱かれる方が・・・。
「え? キャッ、 嘘・・」
腰をしっかり押さえこみ、ベジータは また、打ちつけてきた。
なんと あのまま離れることなく、再び 深く 繋がっている。
強く、激しく、何度も 何度も・・。
あられもない姿で声をあげ、のけぞって、果てて、しまいには 気を失うように眠ったはずだ。
なのに、朝 目を覚ますと、女は既に いなかった。
身支度を済ませ 階下に下りると、ブルマの母親が声をかけてきた。
「あら、ベジータちゃん。 ブルマさんね、今 出かけたところなのよ。
今日はね、トランクスちゃんの幼稚園の、親子遠足なの。」
そういえば、そんな会話が 何度か耳に入ってきていた。
トランクスの奴にとっては、自分の母親が参加できるかどうかが、大きな問題だったらしい。
「トランクスちゃん、うれしそうだったわ。 都合がついてよかった。 やっぱり、ママが一番なのよねえ。」
ひとりごちた後で、続ける。
「そうそう、ベジータちゃん、 今日はお出かけなさる?」
「なんで そんなことを聞く?」
「外に出るなら、お弁当を持って行ったら いかが? ついでに、作ってみたのよ。」
カプセルを、差し出す。
「・・・。」
そんな物はいらんと、はねのけても よかった。
だが まあ、受け取ってやった。 腹が減った時、調達をする手間が省ける。
「今日は、いいお天気ね。」
母親は、青い目を めずらしく見開いている。
そうしていると あの女、 ブルマに よく似ていると思う。
都から、少し離れた場所にある自然公園。
バスから降り、皆で散策しているところだ。
おもむろに、トランクスが声をあげる。 「パパだ。」
「えっ?」 思わず、空を見上げた。
「ほんとなの? 見えなかったわよ。」 「うん。 でも、近くまで来てたよ。」
この子は まだ、ベジータと修行してはいない。
だけど悟飯くんや悟天くんとの遊びの中で 少しずつ、
気というものを 探れるようになっているらしいのだ。
「一緒に、来ればよかったのにね。」
小さな声で、つぶやいてみる。
今日は親子遠足だ。
大半の子は お母さんがついてきているけれど、お父さんの姿も、ちらほらと見受けられる。
まあ、その場合の多くは、小さな弟か妹も 一緒なんだけど。
わたしたちにも そんな日が、果たして やってくるのかしら。
「・・・ トランクスのことが気になって、様子を見に来たのかもね。」
そう言うとトランクスは、こんなふうに答えた。
「ママのことが大好きだから、心配なんじゃない?」
その表情は ベジータが、ほんの ときたま 見せてくれる、あの笑顔に似ていた。