003.『できちゃった!』

検査薬の陽性反応を見て、その日のうちに病院へ行った。

モニターに写し出された、小さな小さな命。

 

一人前に動く心臓を見ていたら、

なんだかとってもあたたかい気持ちになって 涙がこぼれた。

産むことはすぐに決めた。

不安だったのは、ベジータが何と言うだろうかということだけ。

 

どこかに修行に出た彼が、戦闘服の予備をとりにC.C.に戻ってきたのは

つわりもとっくに治まった、ある夜のことだった。

 

今言わなくては、と口を開きかけるとベジータは、

まだ目立たないおなかを見つめてこう告げた。

「俺は、何もできんぞ。」

 

わかってるわ。 とだけわたしは答えて、自室に戻って床についた。

 

わかってる。 期待なんかしていなかった。

わかってた。 あいつは『気』というもので、もう知っていた。

 

部屋の扉が開く音がして、彼がベッドの中に入ってきた。

わたしは涙をぬぐって言った。

「なによ。」    「休むだけだ。」

 

お互い、横になったままでいた。

しばらくしてから寝息のしない彼の胸の上に、自分の頭をのせてみた。

 

ベジータの心臓の音が聞こえてくる。

わたしのそれと重なった気がする。

わたしの中で生きている、命がきざむリズムとも。

 

彼の手をとって、そっとおなかに当てる。

「ここにいるのよ。 もうすぐ、動くわ・・・。」

 

ベジータは何も言わなかった。

けれど、その夜は一緒に眠った。

彼とわたしと、小さな命の三人で。

 

 

翌朝、窓を開ける音で目が覚めた。

 

あっという間に空に浮かんだベジータに、わたしは小さく手をふった。

彼はこちらを見下ろして、ほんの少しだけ笑ったように見えた。

 

その時。

『ポコ』 と、おなかの中で何かが動く気配を感じた。

 

「いってらっしゃい、って言ったのね。」

おなかに手を当て、話しかける。

 

昨夜、触れていてくれたベジータの手の温かさを思いながら、

わたしはずっと、彼が飛び去った青い空を見上げていた。