『夢のあと』 餃子編

もちろん、最初はキライだった。

 

ボクと天さんの修行する場所は、いつだって山奥だ。 車も入れないようなね。

それなのにろくな装備もなしに、体力のなさそうな金髪女がやってくる。

 

なれなれしくて、図々しい。

 

超能力で意地悪して追い返そうと思うんだけど、

クシャミをするとまるで人が変わるから、気がそがれちゃう。

 

髪の色が黒に変わると、勝手にボクたちの世話を焼いて、ニコニコ話しかけてくる。

母親なんて覚えてないけど、そんなかんじだ。

 

うっとおしくて、あったかい。

 

いつしか、ボクは思うようになった。

ボクがいつも一緒にいるから、天さんは変われないのかも、 って。

 

悟空には、ずっと前から大切な存在がある。

クリリンにも。  あのベジータにさえ。 

(ヤムチャは、相手が悪かった。 お気の毒。)

 

いい加減、はっきりすればいい。 2人とも、もう若くないんだ。

さすがにボクも、気を利かすようになった。

なのに、なかなか進まない。

 

ある日、ボクはこっそり言った。

「ボク、夕食が済んだらしばらく外に出るから。 がんばりなよ。」

 

黒い髪のランチさんは、真っ赤になって

「なに言ってるの。 大人をからかわないの。」なんて。

ボクだって、別に子供じゃないし。

 

 

もういいかな、と思って戻ろうとしたら、彼女がやってきた。

金色の髪が、少し乱れていた。

 

「よぉ、悪かったな。 気をつかわせてさ。」

「うまくいったの?」

「・・・ほんとにサンキュ。 これでやっと、さよならできる。」 

幸せそうに彼女は言った。

 

「なに言ってるの? ランチさん。」

「オレはずっと前に死んだ、ランチの妹なんだ。 名前は・・・。」

声を出さずに、唇を動かした。

「名前はいいや。 オレはもう消えるんだから。 

 餃子、ランチに優しくしてやれよ。 あの2人を、応援してやって。」

 

わかってる、って答える前に、彼女は駆け出していった。

 

 

あれから何ヶ月かたった冬の日。

 

生まれたばかりのちいさな赤ちゃんを見ていたら、天さんが言った。

「餃子、おまえが名前をつけてくれないか。 ランチも、そう言ってる。」

 

ボクは赤ちゃんの金色の髪を見て、彼女の名前を言おうとしてやめた。

 

さよなら、ディーナ。 そして、こんにちは、新しい女の子。

 

「アンなんてどう?」 とボクは言った。