224.『手をつないで』
[ 『奇跡の地球』のなぎ様がリクエストで描いてくださった、
天ブラ漫画の続きとして書きました。]
ベジータは、C.C.の敷地内に降り立った。
そのまま家に帰る気にはなれず、庭の方へ歩いて行き、芝生の上に腰をおろした。
ブラが、まだ小さかった頃。
仕事で不在のブルマの代わりに、よくこの辺りで遊ばせた。
しかし、相手がいないとすぐに飽きてしまう。
小さな娘は自分にまとわりついてきて、いつも同じことを言った。
『ひとりじゃつまんない。 パンちゃんと遊びたい。 ねぇ、パパ、おでんわして。』
『トランクスが帰ってくるまで待て。』
『イヤ。 いま、あそびたいの。 ねぇ、いいでしょ・・・ 』
やはり、孫家と関わりすぎたことがよくなかった。
溜息をついてベジータは、草の上に寝転んだ。
しばらくのち。 人の気配を感じた。 娘ではない。
ベジータは目を閉じて、眠っているふりをする。
ブルマは芝生に腰をおろして、夫の頭を自分の膝の上にのせる。
少しの間、二人は黙っていた。 静かな時間が流れていく。
やがてブルマが口を開いた。 「ブラ、とっても幸せそうよ。」
膝を枕にして目を閉じたままの夫に、構わず彼女は話し続ける。
「悟天くんならきっと、ブラを悲しませたりしないと思うわ・・。」
もう、ずいぶんと昔のことを思い出しているような声。
ベジータがぼそりとつぶやく。 「おまえは、よく泣いていたな。」
ブルマは少しだけ笑う。 「あんたにだって、泣かされたわよ。」
返す言葉が思いつかないベジータは、舌打ちをする。
「ねぇ。」 ようやく目を開けた夫に向ってささやきかける。
「そんなに寂しいのなら、これからもう一人作っちゃう?」
「・・下品なことを言うな。」 「冗談よ。 もう、無理だしね。」
妻のこういう言葉に対して、ベジータは何と返していいのか、本当にわからない。
とりあえず、半身を起こす。
「そうだわ。 子供って言えば・・・ 」
ブルマは青い大きな瞳を、さらに見開いた。
「もし、ブラと悟天くんが一緒になったら・・・
その子供は、あんたと孫くん、両方の孫ってことよね。」
ベジータは、考えたくもない、というような顔をする。
「きっと、とんでもない暴れん坊になるわね・・・。
もしかしたら、あんたや孫くんよりも強くなるかも。」
ブルマは、夫の顔を覗き込む。
「ふふ・・ あんた、いま一瞬うれしそうな顔したわよ。」
「フン、 バカなことを・・・。」
ベジータは立ち上がって、家に向かって歩き出した。
妻に背を向けるかたちで、彼は言う。
「ブラはまだ子供だ。 どっちにしろ、そんなことは先の話だ。」
「そうね。」 ブルマは早足で夫を追いかけて、隣に並んで歩く。
「トランクスのお嫁さんも、まだなんだものね。」
そして彼女は、いつもの笑顔でこう言った。
「これから、楽しみね。 ねぇ、ベジータ。」 「なんだ。」
いつの間にか、ブルマの右手がつながれている。
しなやかな指先、 あたたかい手のひらが、
ベジータの左手を やわらかく包み込む。
「これからも、 よろしくね。」