012.『ちょっとお買いもの』
娘が、自宅の玄関で見知らぬ男に金を渡していた。
「おい。 今のは誰だ。」
呼びとめて問いただすと、ブラはそう大きくない包みを 後ろ手で隠した。
「配達員の人よ。ちょっとお買い物しただけ。通販で・・。」
「ツウハン?」 聞きなれない単語だ。
「通信販売のこと。 代引きでお金を払ってたの。」
「何だ、それは。」
「もうっ、いちいちうるさいなあ。 ママに聞けばいいでしょ。」
近頃はだいぶ治まってきていた癇癪を起こし、ブラは立ち去った。
俺は、ブラが口にした未知の言葉の意味をブルマに尋ねた。
・・そういえば以前、
わざわざ人混みの中を買い物に出かけたがる妻に質問したことがあった。
『おまえの家は裕福なんだろう。 なぜ、商人のほうに品物を持ってこさせないんだ。』
『そんなの、つまらないじゃないの。』
あきれたような顔でブルマは言った。
『おしゃれして街に出て、店員さんとあれこれ話しながらするから、買い物は楽しいのよ。』
そういうものかと思ったが、どうやら娘の考えは、母親とは違うようだ。
ドアをノックする音がして、ママが部屋に入ってきた。
「通販で、いったい何を買ったの?」
わたしは仕方なくチェストの引き出しを開けた。
「おこづかいで、少しずつ集めてたのよ。 カードか代引きでしか、支払出来ないんだもの。」
わたしはまだ、自分のカードを持ってない。
・・そしてママは、わたしの話を聞いてない。
「わぁー、カワイイ・・・ ちょっとよく見せて。」
ママは、引きだしの中にきちんと整頓してあったわたしのコレクションを抱えて、ベッドの上に広げる。
一枚一枚手にとって、服の上から体に当てる。
「すっごくカワイイわね。 これ、お店じゃ買えないの?」
お店だと、店員さんにサイズを聞かれるからイヤなのよ。
「もっと大きいサイズって、ないのかしら・・・。」
この気持ち、ママにはわかんないわよね。
そう。 わたしが集めていたのは、かわいい下着。
「このキャミソール、いいじゃない。この間買ってあげたサンダルに、ピッタリじゃない?」
「えっ・・・ 外に着て行けっていうの・・・?」
さすがに、それ一枚だけじゃ・・・。
これだから、パパはいつもママのことを怒るんだわ。
「ねぇ、ちょっと着てみてもいい?」
えーっ。
いくらママが若く見えるっていっても、それは、さすがに・・・
だけど、あっと言う間に着ていたものを脱ぐと、さっさと身につけてしまう。
わたしの新品のキャミソールを。
「うーん、 ちょっと胸がきつすぎるわね。」
わたしの服を着た時、ママはいつも こう言うのよ。
「あら・・・。」 ママが窓に駆け寄る。
「ベジータ。」 庭にパパがいたみたい。
『気』なんてわからないはずなのに、パパのだけは、なんとなく感じるみたいよ。
窓を開けて大きく手を振るから、何事かと、パパが文字通り飛んできてしまった。
「なんだ、その下品な格好は。」
「カワイイでしょ? ブラね、通販でこういうのを買ってたんですって。」
そうなの。 こういうのを・・ って。
「きゃーーー。」
わたしは、ママがベッドの上に散らかした下着を両手であわててかき集めた・・・。
翌日。
わたしは、もらった合鍵を使って好きな人の部屋で、彼の帰りを待っている。
門限があるから、帰りが遅いと会えない日も珍しくない。
だけど、今日は・・・
「おかえりなさい。」 わたしは勢いよくドアを開ける。
戦う訓練はしていないけれど、彼の気配だけはよーくわかるの。
「ただいま。 雑誌読んでたのかい? 試験が近いんだろ。 ちゃんと勉強してるの?」
年上だからって、らしくないこと言っちゃって。
「ちゃんとしてるわよ。 それに、これ雑誌じゃなくてカタログなの。
こういうので、お買い物するのよ。」
「へぇ・・・ 」 彼は、チラッと見ただけだ。
『これに載ってる、かわいい下着をいつも着けてるのよ。 見てみたいって、思わない?』
ママならきっと、そんなふうに言うんだろうな。
それを聞いたら、パパは何て言うのかしら。
まずは怒って、それでもしっかり見ちゃうのかしら。
「さ、 もう遅いから、急いで帰らないと。」
悟天は、車の入ったカプセルを手にする。
帰りたくないって、言ってみたいな。
だけど、こんな時でもパパとママのことを考えてしまうわたしは、まだ子供。
だから、ちゃんと帰ってあげる。
今はね。 なんて、ね。