203.『ごめんネ!』
ある日の午後。
自宅の居間で二人になった時、ベジータは久しぶりにブラの方から話しかけられた。
「パパのお母さんって、どんな人だったの?」
ブルマに生き写しの娘。
妻の両親が元気だったトランクスの時とは違い、小さい頃はよくベジータが相手をしてやっていた。
だが、10代の半ばあたりから次第に扱いにくくなっていった。
ブルマはほとんど意に介さず
「そういう時期なのよ。 そのうちに・・・ 」と、意味ありげに笑うだけだ。
ともあれ、
ようやく刺々しさが消え始めた娘からの質問に、ベジータは自分なりに言葉を探して答えた。
幼い頃からフリーザ軍に身を置いていた彼は、正直あまり覚えていなかったのだが。
夜。 寝室。
「あいつも、自分のルーツについて考えるようになったか・・・。」
平和になってから生まれ、力を使う訓練も 結局させなかった娘について、
ベジータは短いながらも、しみじみした口調で語った。
「ああ・・・ そうかも、 ね。」
隣で横になっていたブルマは、笑いをこらえるのに必死だった。
ブラが父親にその質問をした理由に、心当たりがあったからだ。
つい先日、居間で二人になった時のこと。
飾ってある写真を手にとって、ブラがぼやいた。
『ママもおばあちゃんもグラマーなのに、どうしてわたしはこうなの・・・?』
『まだ10代じゃないの。 これからよ。』
しかし・・・ 確かに
自分はその頃、既にああではなかった。
『ブラにはおばあちゃんが、もうひとりいたはずよね。』
ブルマはつい、そんな言い方をしてしまったのだ。
「どうした?」
ベジータが、珍しく言葉の少ない妻の顔を覗き込む。
「何でもないわ。」
ブルマは夫の手をとって、自分の胸に当てさせた。
それにしてもブラったら、ずいぶん気にしてたみたいね。
少し前から思ってたけど、やっぱり恋人ができたのかしら・・・
なんとなく、以前と雰囲気が変わったものね。
ベジータはショックを受けるでしょうけど、イライラしたかんじが無くなることはうれしいはずだわ。
どう扱っていいのか、本当にわからなかったみたいで、なんだか気の毒だったもの・・・。
「何を考えてるんだ?」
反応をあまりしない妻に、ベジータは不満そうだ。
「ん・・? あんたのことよ。」
そう言って、唇に短いキスをする。
ところで、ブラの体型って、ほんとにベジータのお母さんに似てるのかしら。
じゃあ、もしかして、トランクスの背が高いのもベジータのお父さんからの隔性遺伝?
わたしの父さんも小柄だったものね・・・。
「チッ・・・ 」
舌打ちをして、ベジータはついに背を向けてしまった。
「もう・・・ 怒らないでよ。」
半身を起こして、後ろから耳たぶに唇を寄せる。
「ほんとにずっと、 あんたのこと考えてたんだから・・・。」
そうよ。 あんまり関係ないってこと。
背が高くなくたって、 胸が小さめだって。
ブラもそのうち、 きっと気づくわね。
ベジータが向きを変えたのは、ブルマがベッドに身を沈める前だった。
「もう、 なによ・・・ 」 「・・・。」
いつものように、背中に腕をまわす。
そして、口づけたばかりの耳元にささやく。
「ごめんネ!」