314.『墓参』

セル戦後に生まれた悟天、ブウ戦後に生まれたブラ。

「未来」の世界には存在しない この二人が、一緒になればいいのになあ!

という、管理人の捏造&願いを込めました。]

ある休日の朝、わたしは久しぶりに中庭に出た。

たくさんの花が咲いている その場所を、ゆっくりと歩くのは いつ以来だろう。

 

わたしが生まれる前は、おばあちゃんが手入れをしていたという。

だけど今では手伝いロボットと、通いの庭師さんに任せきりだ。

お兄ちゃんに社長の椅子を譲り、時間ができてからも ママは、あまりさわろうとしなかった。

やり始めても、続かない。

センスがないわけではないのだけど、

結局、家を整えるようなことには 興味が薄いみたいだ。

 

そんなことを考えつつも わたしは、迷いながら花を選んで、自己流で花束を作った。

お店に行けば、素敵な物がいくらでもある。 でも今日は、うちのお花が一番いい。

だって今日、わたしはお墓参りに行くのだ。

おじいちゃんとおばあちゃんが眠るお墓に、悟天と二人で、結婚の報告に行く。

普通は、家族そろって行くものなんだろうか?

実は何日か前、ママも、 『行かなくちゃね。』 と言っていた。

でも お兄ちゃんは忙しいし、パパは皆で出かけるのを嫌がりそうだし…

第一、     なんだか照れくさい。

だから、先に行ってしまおうと思ったのだ。

 

待ち合わせの場所に、悟天は 少しだけ遅れてやって来た。

昨夜は仕事で遅かったらしい。

ごめんごめんと謝りながら、「花束が よく似合うね。」 なんて、お世辞を口にしていた。

ふふっ。

「そうでしょ。 この次 花束を持つのは、結婚式ね。」

そんな言葉を返した。

 

墓地は 車を三十分程走らせた、緑に囲まれた所にある。

実を言うと、ここ何年かは ご無沙汰していた。

でも お墓の場所は、ちゃんと覚えている。

持ってきた お花を供え、その後は、心の中で話をする。

残念ながら わたしは、おじいちゃんとおばあちゃんのことは、

写真や みんなの話でしか知らない。

だけど天国から、ずっと見守ってくれていたらしい。

だって いろいろなことがあっても、わたしたちは とっても幸せだもの…。

 

静けさの中、悟天が口を開いた。

「お墓って、いいもんだね。」

「えっ?」

「ちょっとヘンな言い方だけどさ。 

何ていうか、そばにいない大切な人に向かって、いろんなことを語りかける場所って感じ。」

そばにいない、大切な人。

お父さんである、悟空さんのことを言っているのだろうか?

「でも 悟空さんは、死んじゃったわけじゃないでしょ? 

 どこか別の世界に行ってて、また いつか、戻ってくるんでしょ?」

いつなのか、いつまでいるかはわからないけど。

もちろん、それは付け加えない。

 

「うん、お母さんも そう言うよ。 

 昔、おれがチビだった頃にね、お父さんのお墓はどこにあるの、って聞いたときにも

 同じように答えてた。」

「…。」

セルという敵との戦いで、命を落とした悟空さん。

戻って来たのは7年後。 さらに大きな戦いが、皆の力で 収束した後だった。

「そうだ。 おれさ、よーく覚えてることがあるんだよね。」

「? なに?」

「まだ4つか5つの頃だったと思うんだけどさ。 あのね…

 

悟天の話は こうだった。

ある昼下がりのこと、うちのママが孫家を訪れた。

お兄ちゃんは一緒ではなく、一人だった。

仕事で東の方へ行ってきた帰りに、顔を出したのかもしれない。

何故、そんな話になったのだろうか。 チチさんに向かって、ママは尋ねた。

『ねえ、わたしのことを恨んでる?

 孫くんが 生き返るのを拒んだのは、わたしが余計なことを言ったからだって思う?』

『…。』

チチさんは、黙って首を横に振った。 そして 言った。

『まず、ブルマさがいなければ、おらと悟空さは出会ってねえしな。

 それは置いとくとしても、ブルマさが薬を届けてくれなければ、

悟空さは もっと早くに、病気で死んじまってただよ。』

『チチさん…。』

『宇宙から、やっと戻って来たかと思えば、あっという間にだ。

 さぞ、無念だったろうな。 おらだって、とても耐えられねえ。

 悟空さが死んで、悟飯も出て行っちまって、そのうえ悟天も生まれてねえなんて。』

 

「それで? その後は、何て言ったの? どんな話をしてたの?」

詰め寄った わたしに、悟天は あっさりと答えを返す。

「なんにも。 いつもどおり、服とか食べ物なんかの話を、楽しそうにしてたよ。

 ああ、だけど…

おかしそうに、笑いながら続ける。

「二人してさ、間に座ってた おれの頭を、代わる代わる撫でるんだ。

 しまいにはギューッて抱き締められてさ、ほっぺにチューまで されちゃったよ。」

その光景を想像し、わたしも 声を上げて笑ってしまった。

 

数秒ののち。 はっとした顔になり、後ろを振り返った悟天。

「? どうしたの? … あっ、」

わたしも気付いた。

気配を感じてから間もなく、ひどく見慣れた人物が、こちらに向かってくるのが わかった。

「ママ!」

「あら! あんたたちも来てたの。 ははーん、だから途中で いなくなったわけね。

 まったく、もう…。」

パパも一緒だったらしい。

なのに わたしと悟天が来ているのを察して、どこかへ行ってしまったようだ。

「近くには いるみたいですけどね。」

悟天が、フォローしてくれた。

 

ママも、持ってきた花を供える。

やはり うちの庭に咲いた花々で作った物で、わたしの花束と、色合いがよく似ていた。

その後 ママは、こんな話を始める。

「わたしのお墓は、この辺りに建ててもらうから。」

いつもと 何も変わらない調子で、自分の両親の墓碑の隣を指さす。

「もうね、トランクスに頼んであるの。

 C.C.社のデザイン室が監修してくれてね、なかなか洒落た物になりそうよ。」

「そんな。 準備が早すぎますよ、ブルマさん。」

悟天の言葉に返事を返さず、ママは さらに続けた。

「仕事や子育てで忙しいだろうから、たまに、思い出した時に来てくれればいいわ。

 お天気のいい日に、ちょうど こんなふうに、庭に咲いてた花でも持ってさ。」

「何言ってるのよ。」

そう口にしたはずなのに、言葉にならない。

「ブラ?」

傍らにいる悟天の、慌てた声。

わたしは顔を、両手で覆った。

 

まただ。 また始まった。

お洒落やアンチエイジングに あれほど こだわっているくせに、ママは時々、そういう話をする。

但し、パパの前では しない。

お兄ちゃんと、わたしにだけだ。

わたしはママの、そういう話を聞くのは嫌いだ。

ママが年をとるのがイヤなわけじゃない。

若いとはいえない年齢で産んでもらった わたしは、ママと過ごせる時間が、他の子よりも短い。

そのことに、気づかされるのがイヤなのだ。

 

ポケットの中を しきりに探っていたけれど、悟天はハンカチを持っていなかった。

代わりに、ママに差し出されたハンカチで目元を拭う。

甘い 甘い香りが、鼻孔をくすぐる。

『ママに洋服を貸すと、香水の匂いがついちゃってイヤ。』

何年か前、 そんな意地悪を言ったことを思い出した。

 

それから。

墓地を出て すぐに、ママは走り出した。

悟天が、カプセルから車を出すよりも早く、

「もうっ。 ここまで来てるんなら、一緒に来ればいいじゃないの、まったく!」

そんなお決まりの、台詞を口にしながら。

「やれやれ。  ママったらね、パパのことになると視力は ぐんと良くなるし、

  脚は、まるで陸上の選手みたいに速くなるのよ。」

呆れた声で訴える わたしを見つめて、悟天は静かに笑っていた。

 

さっき 悟天に向かって、ママは深く頭を下げた。

『ブラのこと、頼むわね。 お願いね。』

その言葉の本当の意味を、わたしは まだ、気付かずにいる。

ううん、違う。

気付いていない ふりをしている。