Close to You

[ 2万ヒット直前記念?に(自分の方から・笑)

リクエストを伺ってしまいました。

未来飯ブルです。

未来編」と併せてお読みいただけましたらうれしいです。]

柔らかい。 ベッドの上だ。 ここは、あの 冷たい地面じゃない。

僕は、生きている。

 

「悟飯さん!! 母さん、悟飯さんが目を覚ましたよ。」

トランクス・・。 そうか、君が連れて帰ってくれたのか。

「・・・。」

ブルマさんが、涙を拭っている。

トランクスの前では 彼女は決して、泣いている姿を見せようとしない。

 

 

一月後、包帯がとれた。

「すごいわね。 驚異的な回復力だわ。」

「ブルマさんのおかげですよ。」

人造人間との戦いで、僕は左腕を失った。

治療・・ いや、手術だ。 それはブルマさんによって行なわれた。

 

「すごいな。科学者兼外科医って名乗ってもいいんじゃないですか?」

「やあね。にわか仕込みよ。 普通の人には 怖くて、とてもできないわ。」

そう。 

ブルマさんは、僕やトランクスが大けがをした場合に備えて

独学で外科の技術を身につけてくれていた。

 

「あんまり無理しちゃダメよ。

ほんとなら、長いことリハビリしなきゃ いけないんだから。」

いつもと変わらない調子で言った後、ぽつりと付け加えた。

「仙豆が、あと一粒だけでも残っていればね・・。」

仙豆。 カリン様の手で栽培され、ほんのわずかしか収穫できない不思議な豆。

病気に対しては効果は無かったけれど、どんなけがでも治してしまった。

「・・仙豆が無かったら、僕はとっくに死んでいました。5歳の時、ナメック星で。」

ブルマさんの表情が変わる。

「僕たちはそういう、特別なものに頼りすぎていたのかもしれません。」

 

仙豆だけじゃない。 

地球を見守っている 神様のような人たちから可愛がられていたお父さん。

そして、ドラゴンボール・・・。

そこまでは口にしなかった。

 

少しの間 黙っていたブルマさんは、明るい声でこう言った。

「なら、メディカルマシンがあればよかったわね。

 あれは、科学が生み出した物でしょ?」

ナメック星で重傷を負ったお父さんを回復させた、

薬液の入った水槽のような機械を、僕は思い出していた。

あれはフリーザ軍の備品だった。

「わたしも見てみたかったわ。 わたしだって、ナメック星に行ったのにね・・。」

 

確かに。 

現物を目にしていたら ブルマさんはきっと、見事に再現していたことだろう。

「昔ね、ベジータにずいぶんバカにされたのよ。」

ブルマさんが はっきりとその名前を口にするのは久しぶりだ。

「科学者のくせに、メディカルマシンも作れないのか、って・・・ 」

心の中では、何度も思い浮かべていたのだろうか。

それとも、あえて思い出さないようにしていたんだろうか。

言葉は、いつしか嗚咽に変わっていた。

 

ブルマさんは、僕と二人の時にだけは涙を見せる。

僕はベッドから立ち上がった。 濡れた頬に、右手で触れる。

「片腕だけになってしまったこと、僕はそれほど悲しんでいませんよ。

 こうして ちゃんと、触れることができるんですから。」

手の甲に、彼女の涙が伝って落ちる。

「ただ、くやしいのは・・」 「え?」

「両腕であなたを抱きしめられないことです。」

 

顔をあげようとするその前に、華奢な肩を抱き寄せる。残された右腕だけで。

多分、驚いた顔をしている。 だけど 彼女は抵抗しない。

僕が あわれだと思っているのだろう。

それでもいい。 それだって構わない。

けれども僕は 腕を解いて、彼女から離れた。

ドアの向こうに、トランクスの気を感じた。

 

 

外で体を動かしていたトランクスに 声をかける。

「・・悟飯さん。もう起きても平気なの?」

ああ、と返事をした僕にトランクスは言った。

「無理しないで。 悟飯さんに何かあったら・・オレもだけど、母さんがすごく悲しむよ。」

そして、数秒ほどの沈黙ののち、こう尋ねてきた。

「母さんと、結婚するの?」

 

僕は正直に答えた。

「そうしたいって、少し前に言ったんだ。 でも、断わられちゃったよ。」

どんな顔をすればいいものか、トランクスは迷っているようだ。

「だけど、何も変わらないよ。」 一旦、言葉を切る。

「これからだって 君たち親子のそばにいるし、

結婚っていっても こんな世の中じゃ、どこかに届けを出すってわけじゃないしね。」

 

僕は さらに続けた。何かを言いたげなトランクスに向かって。

「許しをもらうとすれば、トランクス、君にだけだよ。」

「オレは・・・。」

父親にそっくりの、そして母親と同じ色の目を上げる。

「反対なんか、するわけないよ。」

顔を上げて、まっすぐに僕の目を見る。

「お父さんって呼ぶには ちょっと若すぎるけど、

オレは悟飯さんのこと、本当の兄さんだと思ってるもの。」

「ありがとう。」 頭を下げた後、僕は言った。

「僕も、君をほんとの弟だと思ってるよ。 だけど・・ 」

 

ブルマさんのことをお母さんだと思ったことは、一度も無いんだ。

 

付け加えた言葉に、トランクスは答えなかった。

「もう、戻ろう。 悟飯さんも、まだ無理しない方がいいよ。」

 

トランクスの後ろ姿を見つめながら、僕は思っていた。

ごめんよ、トランクス。

せめて君にだけは もう少し時間をかけて、ちゃんと納得してもらいたかった。

僕はブルマさんが欲しいんだ。

ブルマさんの心が、僕のものにならないことはわかってる。

それでもいい。

男として、もう待ちたくないという気持ちもある。

けど、そのほかに・・

多分 そう遠くないうちに、僕は死ぬことになるだろう。

 

少しでも多くのダメージを負わせてやるつもりではあるが、

二人組である人造人間を抹殺することは、おそらくできない。

僕には もう、あまり時間がないんだ。

 

あなたと一緒に生きていきたい。そう言った時、ブルマさんは 答えた。

『今は特殊な状況なの。 だからそんなことを考えてしまうのよ。』

 

違う。 あの時は言いそびれたけど、そうじゃないんだ。

 

4歳の時、カメハウスの前で初めて会った時、なんてきれいな人なんだろうと思った。

地球がこんなことになる前、トランクスが生まれる前から、僕はブルマさんが好きだった。

ベジータさんがブルマさんと出会う前・・

二人が恋に落ちる、ずっとずっと前から。