135.『一時のあやまち』
[ 未来トラが訪れた直後が舞台の、IFストーリーです。
「若い母さんも、がんばってください。」
ブルマは
知らなかった。
20年後の未来からやってきたという少年が、タイムマシンの操縦席でつぶやいていたことを。
「いいか、貴様。
そんなことをしやがったら、ぶっ殺すぞ。」
なんて恐ろしい形相。
とてもいい考えだと思って言ったのに、そんな言葉で恫喝されて、
ブルマはひどく気分を害した。
クリリンのフォローにも耳を貸さず、不機嫌な声で訴える。
「あーあ。
おなかすいちゃったわ。 もう夕方じゃないの。
バーベキューの途中だったのに。」
そう。
ヤムチャと・・ C.C.で奇妙な同居生活をしているベジータが、
フリーザらのすさまじい気を感じ取ったのは、昼食の真っ最中だった。
「メシか。
そういえば、オラも腹減ったな・・。」
腹のあたりを手で押さえながら、悟空が
ぼやいた。
「あんたは家に帰りなさいよ。チチさんが待ってるでしょ。」
うーん、と口ごもった後、悟空は自分の息子に尋ねる。
「なぁ、悟飯。
チチのやつ、怒ってっか?」
「あ・・
はい、少しだけ・・。」
当たり前だ。
たくさんの予期せぬ出来事が起きたためとはいえ、
連絡もなしに
何年も家をあけてしまったのだから。
「じゃあさ、チチさんを連れて
うちに来なさいよ。 一緒に夕飯を食べましょう。」
皆を見まわしながら、ブルマが提案する。
お客さんが増えるからよろしく。 母にそう伝えるよう
ヤムチャに頼むと、
ブルマは悟空の腕につかまり、孫家に同行した。
瞬間移動というものを、体験してみたかったのだ。
「悟空さ・・・。」
玄関の扉を開いて
夫の顔を見上げた、その時のチチの顔。
言葉がうまく出てこなかったらしく、泣き出しそうな顔をしていた。
悟飯くんだけあずかって、二人っきりにしてあげればよかったわね。
取り乱すことなくC.C.に来て、夫と息子に料理を取り分けてやっているチチ。
少し離れた場所で
その姿を見つめながら、ブルマは思った。
あの場にいた皆に声をかけたつもりだったのに、
天津飯と餃子、ピッコロは来なかった。
だが意外にもベジータは、隅の席について
黙々と皿をあけている。
彼はC.C.を、地球での基地だと考えているようだ。
アルコールを飲まないメンバーだったためか、ソフトドリンクが足りなくなった。
取りに行こうとブルマが席を立つ。
大型の冷蔵庫を開け
適当に見つくろっていると、誰かがキッチンに入ってきた。
「あら、孫くん。」 「それ、持ってけばいいのか。」
「あ、待って。
こっちの方が冷えてるかも。」
ドリンクのボトルを選ぶブルマの後ろ姿に向かって、悟空が言った。
「今日は助かったよ。
おかげで、チチに怒られずに済んだ。」
・・・泣かれずに、でしょ。
「瞬間移動だっけ?
あんなすごい術が使えるんなら、これからは修行の合間に
ちゃんと帰ってあげなさいよ。」
「わかってっけどさ。 修行してっと、つい忘れちまうんだよなあ。」
「まったく、勝手なんだから。」
少しだけ笑った後で、ブルマはちょっとした疑問を口にした。
「未来から来たって言ってた
あの男の子・・ あんたの子じゃないでしょうね。」
「な、
何言ってんだ。」
悟空はあわてた。 だが、真実を口にするわけにはいかない。
家に戻った際に着替えた、おなじみの道着。
「さっきのヘンな服をくれた星の女に産ませたとか・・。」
「オラはそんなこと、絶対にしねえよ。」
いつになくきっぱりと言う。
「どうして
そう言い切れるの? チチさんが怖いから?」
「それも
あるけど・・・ 」
ブルマがほほ笑む。 「チチさんのことが、大好きだから、ね。」
その笑顔は、何故か寂しげに見えた。
「なぁ、
おめえ ヤムチャとはどうなってんだ? うまくいってないんか?」
「・・みんなと一緒の時は、いつもどおりなんだけどね。」
彼女は首を横に振った。
「孫くんに言ったって、仕方ないわよね。
だけど、」あんたって、いいやつね。
向かい合った悟空に近付きながら、小さくつぶやく。
「口元に、何かついてるわよ。」
「ん? そうか?」
あわてて拭おうとした手を、そっと抑える。
「ちょっとかがんで。
とってあげる。」 ・・・
ほんの一瞬のことだった。
何が起きたのか、悟空はわかっていないようだ。
ブルマの方も、よくわからなかった。
いったい自分はどうしたいのだろうか。
その様子を、じっと窺う
鋭い視線があったことに、二人は気づいていなかった。
翌日。
三年後に現れるという強敵を迎え撃つため、戦士たちはそれぞれのやり方で修行を始めた。
悟空との決着をつけるためだけに地球に留まっていたベジータも、例外ではなかった。
ブルマの父・ブリーフ博士に300倍の重力装置を備えた施設を作るよう
言いつけ、
ブルマ本人には
戦闘服の件がどうなっているかを尋ねた。
地球に来た時に身につけていた物は、もう着られなかった。
そのため、以前から彼女に命じていたのだ。
ブルマは彼を、自分の研究室に連れて行き、コンピューターの画面を指しながら説明した。
机の上には、フリーザとの死闘でボロボロになってしまった
例の戦闘服が置いてある。
「だからね、これは地球には無い素材で作られてるの。生地の分析は大体終わって、
今は配合をいろいろ試してるところよ。」大変なのよね。 仕事だって
あるんだから。
文句を付け加えることも忘れない。
フリーザ軍にいた頃は、命令に口答えをされることなど
ありえなかった。
そんな奴は、即座に殺していた。
そう言いかけたベジータに向かって、ブルマが先に口を開いた。
「でも、頑張るわね。」 にっこりと笑いながら。
「こんなすごい素材を作り出せたら、わたしのキャリアアップだけじゃなくて、
地球のためにも なるはずだもの。」
「知ったことか・・・。」
憎まれ口を返しながらもベジータは、彼女の笑顔に見入ってしまう。
小さな、形の良い唇には、昨日とは別の色が塗られている。
彼は知っていた。 その個所が、昨日、誰のそれと重なったのかを。
「なあに?
見とれちゃって。 わたしのこと、好きになっちゃった?」
軽口と、さっきとはまた違った笑顔に、ベジータは何とも言い難い苛立ちを覚えた。
華奢な腕を掴んで、椅子から立たせる。 「きゃっ・・・
」
近くの壁に、体を押し付ける。 「何するのよ・・。」
その拍子に髪留めがはずれ、ウェーブのかかった前髪が、乱れて額にかぶさった。
そうだ。
今は違うが、初めて言葉を交わした時の、この女の髪は・・・
ある考えが、ベジータの頭をよぎる。
「ちょっと・・どいてよ、ねぇ・・
」 「黙れ。」
壁に追い詰められた女の、日に焼けていない首筋。
鎖骨の下、胸のふくらみ。
厚着を好まないブルマは、上はチューブトップしか身につけていない。
「・・誰彼かまわず、粉をかけるような真似をしやがって。」
引き裂くまでもなく、ベジータの手がそれをずり下げた。
事の後。
大きく息をついて、ベジータは言った。
「・・フン、
下品な女め。何がイヤだっていうんだ。」
確かに、ブルマはずっと
その言葉を口にし続けていた。
ただし、喘ぎ声の
合間に。
「こんな所でするのが、イヤだったのよ。」
男の背中に
きつく腕をまわしたままで、彼女はうそぶいた。
「ね、
キスして。」
返す言葉を探し当てる前に、ブルマの両手がベジータの頬を包む。
「普通は、最初にするものなのよ。」
・・・
唇を離し、乱れた衣服を直しながらブルマは言った。
「あんた、昨夜
見てたんでしょ? 孫くんとの・・。
あれは冗談よ。 つい
なんとなく、ってとこね。」
ふいにベジータが口を開いた。
「カカロットと貴様の子だろう。」
「え?」
「あの、未来から来たとか言っていたガキだ。」
「何言ってんのよ。
そんなこと、あるはず・・・」 そうよ。あんたこそ。
混乱しながらも、強い口調で言い返す。
「さっきみたいなこと、いつもしてるわけ?
あんたの子なんじゃないの。
そういえば、あんたとあの子、顔立ちがよく似てるわ。」
「何だと。 貴様、言わせておけば・・・」
お互いの
怒りの表情を見合わせた二人は、はっとした。
貴様の子。 あんたの子。 もしかして、あの子は
・・・
嘘でしょ。
それじゃあ
わたしが、この男の子供を産むっていうの?
この男とわたしは、この先
一体どうなるの?
前半に、悟空×ブルマ(逆?)要素が少しあります。]