304.『せつない瞳』

[ 『KIMAGURE』のARINA様が相互リンク記念に書いて下さいました

『過ちと後悔』の、ひまママ目線による続きのつもりです。

ベジータ×ブルマ+ターレスに絞って書いてみました。

気分を害したなどの苦情はご遠慮ください。]

意識の無いブルマを抱きかかえて、ベジータは天界へ急いだ。

何かが起きたことを察したピッコロ、ポポ、デンデが神殿の前で待っていた。

 

特にピッコロは、数日前から邪悪な気を感じ取っていた。

しかし都を攻撃されることもなく、その者のパワーも 今の悟空やベジータ・・

おそらく自分にも及ばないであろうことから、とりあえず静観していたのだ。

それが、よもや こんなことになろうとは・・・。

「真っ向勝負では敵わんと ふんで、貴様を動揺させる作戦だろう。 汚い野郎だ。」

 

幸い大きなケガは無かったが、

ブルマの体には ターレスによってつけられた刻印の他に、無数の擦り傷があった。

敵うはずのない相手に、精一杯の抵抗をした証しだった。

デンデがすぐに超能力で体の傷を癒し、ピッコロが衣服を再生してやった。

 

できれば昨夜からの、記憶の修正もしてほしい。

ベジータは そう願い出た。

しかし、地球の神となったデンデにも そこまではできなかった。

「これまでの記憶が全て、失われることになります。」

 

さっきまでの痛々しい姿を思うと、ベジータはそれでもいいと言いたくなった。

だが、やはり それはできなかった。

トランクスから母親を奪い、ブルマから全てを取り上げることになってしまう。

 

安全な天界に妻を託して、敵を追うつもりだろう。

そこにいた誰もがそう思った。

しかし、ベジータは そうしなかった。

 

忌まわしい記憶を消してやることができなかった以上 やむを得ず、

彼は 妻の母親にだけ事情を説明した。

ブルマの母は 大きなショックを受けていたが、

気丈にも自分なりに状況を理解しようとした。

娘の夫は、全宇宙で指折りの強さを誇る戦士なのだ。

そして 挑んでくる敵は、いつも正面からやってくるとは限らない・・・。

 

彼女は娘を、しばらくの間 入院させることにした。

 

病院のベッドの上で、ブルマはようやく目を覚ました。

「トランクスちゃんのことも仕事のことも こっちに任せて、

 何も考えずゆっくり休むのよ。」

いつもの笑顔でそう言いながら 母は、病室の窓のロックを解除した。

 

消灯の時間が過ぎた頃。

窓が開く音が聞こえる前に、ブルマは ある気配を感じた。

そう。 

気なんてわからなくとも、彼女は 夫の気配だけは感じ取れるのだ。

 

ベジータはしばらくの間、

ベッドに横たわって目を閉じているブルマを見つめていた。

少々ためらったが、毛布をめくって 自分もベッドに横になる。

自宅の寝室にある物には及ばないが、

特別室である この部屋のそれも、普通の物よりずっと大きい。

ベジータとブルマは、広いベッドの両端に横になる形になった。

 

「ブルマ。」 妻の名を呼ぶ。「そのままでいいから聞け。」

ブルマが眠っていないことを、彼は気づいていた。

 

「地球にくる前・・ おまえと出会う前の俺は、

自分でも把握できないほど 多くの数の星を征服した。」

静かな声で彼は続ける。

「もちろん住民は皆殺しだ。

殺した人間の数は、それこそ天文学的というやつだ。」

ほんの少しだけ、自嘲気味に笑う。

 

「すぐには、殺してしまわないこともあった。

 わかるか? 俺も・・・ 」

「やめて。」 ブルマが遮った。

「言わないで・・・。」

 

しばしの沈黙の後、ベジータは再び話し始めた。

「俺が許せないのなら、C.C.を出て行ってもいい。

おまえがイヤだと言うなら、もう二度と触れない。

だが、おまえは俺の妻だ。」

 

その一言に、ブルマは体をこちらに向けた。

頬が、涙で濡れていた。 だが、笑顔をつくって彼女は言った。

「わたしと一緒にいて、触れないなんてこと できるはずないでしょ。」

 

その言葉に、ベジータはどれほど安堵しただろうか。

腕を伸ばし、妻を引き寄せようとする。

しかしブルマは、その手を制した。

「でも、今はまだダメ・・・。」

腕を取ろうとした夫の手に、自分の手のひらをそっと重ねる。

「そして、いつ平気になるかも、今はわからない。」

 

「わかった。」 

ベジータは一言だけつぶやいた後、妻の手を握った。

ブルマは再び目を閉じた。

「ここにいてね。」 「ああ。」

「わたしが、眠るまででいいから・・・。」

 

いつもは白いグローブに覆われている ベジータの手。 

数えきれないほど世界を壊し、人の命を奪ってきた手。

けれども今は、愛する女を守り、庇い、心を温めている。

少なくとも 今、この時は。

 

 

その頃。

ターレスは、眠れぬ夜を過ごしていた。

 

力の差を見せつけられて、スカウターも破壊された。

だが、妻が凌辱されたと知ったときの あの様子。

つけ込む隙は、ある。 

とりあえず今は、体を休めておかなければ。 昨夜も眠っていないのだ。

 

昨夜は一晩中、あの女を離さなかった。

初めはラディッツと、相手を交換するつもりだったのだが その気になれなかった。

 

目を閉じると、脳裏に蘇ってくる。

闇の中に浮かび上がってくる、肌の白さ。

ひどくなめらかなくせに、手のひらに、指先に吸いついてくるような感触・・・。

無理やり開かせた体の奥からは、誘い込むような甘い匂いがしていた。

 

王子は夜毎、 もしかすると今 この時も、あの女を抱いているのか。

女は 夫である王子の背中に腕をまわし、割った唇から出した舌を絡め、

自分の方から脚を開いているのだろうか。

 

考えているうちに 呼吸が浅くなり、胸が妬けつくように痛み出す。

「くそっ・・・ 」

こんなことは、今まで無かった。

いったい、おれはどうしちまったんだ。

 

魔性。 これまで、考えたこともなかった言葉が、頭に浮かぶ。

 

そして 今から10数年前、

今は彼女の夫となった男も そんな思いに苦しんでいたということを、

ターレスは知らなかった。