Innocent Girl

[ ブログの33333打を踏んで下さった 椎野さまより

リクエストしていただいた、ほのぼのトラパンです。

まだ幼いブラとパン、そして 優しいおばあちゃんであるチチさんのお話

というかんじになってしまいましたが・・。]

夏の日の朝。

パオズ山に、一機のジェットフライヤーが着陸した。

ハッチが開く。

C.C.社のマークが大きく描かれたそれからは ブラと、仕事用のスーツ姿のブルマが降りてきた。

 

孫家。 二人が玄関の前に立つよりも早く、勢いよく扉が開いた。

待ちきれない、といった様子で パンが顔を出す。「ブラちゃん。」

「パンちゃん、おはよー。」

幼稚園は、学校よりも一足早く 休みに入っていた。

ビーデルも 今日は既に出勤してしまっていたため、祖母であるチチが一緒に出迎える。

「おはよう、ブラちゃん。 よく来ただな。」

 

「早くから ごめんなさいね。 一日中だと、ベジータも さすがに持て余すみたいで・・。

 それに、パンちゃんと遊びたいって きかないのよ。」

「こっちは構わねえだよ。 むしろ大歓迎だ。 おらも、家のことがあるし・・ 」

幼い孫娘に視線を向けて、小声で続ける。

「退屈すると、悟空さの後ばかり ついて歩くからな。

 ほっといたら、男だか女だか わからねえ子になっちまう。」

 

ひとしきり笑った後で、ブルマはパンに話しかけた。

「いつも ありがとうね、パンちゃん。 あら、すてきなスカートね。よく似合ってるわ。」

家では道着姿でいることの多いパンだったが、今日は ふんわりとしたスカートを穿いていた。

「それじゃあ、どうぞ よろしくね。 夕方にはトランクスが迎えに来るはずだから。」

 

パンは頬が熱くなった。 

その理由はスカート姿を褒められたこと、 そして・・・。

 

再びジェットフライヤーに乗り込んだブルマが 仕事に向かって間もなく、

大粒の雨が降ってきた。 これでは外で遊べない。

「わたし、お人形を持ってきたの。」 

ブラがポケットから、小型のカプセルを取り出した。

床に向かって軽く投げると、何体かの人形が ドールハウスと一緒に出てきた。

「じゃあ わたしも、自分のを持ってくる。」

走り去ったパンの、スカートの裾がふわりと揺れた。

ブラも女の子らしい服装をすることが多いのだが、今日はジーンズを穿いていた。

外でたくさん、遊ぶつもりだったからだ。

 

ブラの視線に気づいたチチが、声をかける。

「あのスカートは、おらが作っただよ。

 ブラちゃんみたいな可愛い服が欲しいって、パンが うらやましがってたからな。」

「えーっ。」 大きな瞳をさらに見開き、ブラは続ける。

「お洋服って自分のおうちで作れるの? すごいわ。

 いったい、どんなマシンを使うの?」

笑いながら チチは答えた。

「ちょっとだけ見てみるか?」「うん! 見たいわ。」

ちょうど、パンも戻って来た。 三人は、奥の小部屋へ移動した。

 

「すごいわ。 こんなの見たことない。 C.C.社製じゃないのね・・。」

自動調理機があるのだから、洋裁をこなすマシンだって きっとあるのだろう。

だが 少なくともブルマは、自宅で服を作るつもりはないようだ。

 

ひどく旧式のミシンだったが チチの手にかかれば あっという間に、

気のきいた作品が 出来あがってくる。

「わあー、かわいい。」

パンとブラは歓声をあげた。 人形の服を作ってもらったのだ。

 

「このミシンは、嫁に来るときに持ってきたもんだ。

これまで、そりゃあ いろんなもんを作っただよ。 道着に、ベビー服・・

そうだ、おむつも縫っただよ。」

「えーーっ、 おむつ〜。」

肘でつつきあうようにしながら、幼女たちはクスクス笑う。

つい最近まで、うんとお世話になっていたというのに。

「なんにもおかしいことなんかねえだよ。 

パンのはもちろん、悟飯のも、悟天の分も これで縫っただ。」

「パパのも?」 「悟天のも?」

「んだ。 悟飯はそんなことなかったが、悟天は おむつがとれなくて苦労しただな・・。」

「えー、そうだったの?」 ブラが素早く反応した。

「トランクスも そうだったと、前にブルマさが こぼしてだよ。」

 

笑い転げる二人に、チチは優しく言い添えた。

「誰だって、初めっから大人だったわけじゃねえ。 みーんな、赤ちゃんだっただよ。」

「おじいちゃんやおばあちゃんも?」「ああ、もちろんだ。」

ブラも負けずに質問する。「うちのママも? それに、」

言葉を切って付け加える。「パパも、そうだったの?」

「・・・。」  その一言で、三人は 一斉に笑った。

 

チチの作ってくれた人形の服、それはパンのスカートを縫った布の残りを使った。

色も模様もおそろいだから、パンはなんだか、人形のお母さんのように見える。

うらやましそうに見つめるブラに、チチが声をかけた。

「今度は二人に、色違いでブラウスでも縫ってやるだよ。

 だから今日のところは、これで我慢してくれ。」

「わあっ。」

ほんの僅かな余り布から、今度はリボンが出来あがった。

ブラは目を輝かせる。

「どうもありがとう。 ねえねえ、髪に結んで。 今 したいの・・。」

 

 

ブルマが言っていたとおり、日が沈みかけた頃、トランクスが姿を見せた。

「お兄ちゃん。 ね、これ どうかしら?」

人形を胸に抱き、髪に結んでもらったリボンも見せる。

「もらったのか? お礼は言ったんだろうな。」

「もちろんよ。」 「ちゃんと、顔を見て言ったか?」

トランクスときたら、妹に対しては やけに口うるさい。

自分だって かつては この孫家に遊びに来ると、

泥だらけで部屋に上がろうとしたり、散らかした物を片付けなかったりと

いろいろ やらかしたというのに。

 

ブラは不満げに、小さな唇を尖らせた。

「お兄ちゃん、もっと ゆっくり来ればよかったのに。 

悟天は遅いのね。学校は まだ終わらないのかしら・・。」

苦笑いを浮かべながら、チチが口を挟んだ。

「おおかた、どこかで寄り道でもしてるんだべ。 電話してみるか?」

「うん!」 「あっ、じゃあ、これで・・。」

トランクスがポケットを探る。

けれども 兄の携帯は受け取らず、ブラは孫家の電話を使った。

 

小さく舌打ちをした後、トランクスはパンに向かって話しかけた。

「パンちゃん、いつも ありがとう。 ブラの奴 わがままだから、いろいろ大変だろ。」

「・・・。」

戸惑いながらも、パンは首を横に振った。

トランクスの手のひらが、その小さな頭に そっと触れる。

艶やかな黒い髪を、優しく撫でる。

大きな手のひらは、なかなか離れていこうとしない。

だからパンは、うつむいたままだ。

残念なことに、自慢のスカートを穿いていなかった。

昼過ぎに雨があがったから、ブラと外で遊ぶために着替えてしまったのだ。

 

「悟天ってば、今 どこにいるの? 

早く帰ってきて、おうちのお手伝いをしなきゃダメよ。」

受話器に向かって話しているブラの声で、パンは ようやく顔を上げる。

ブラが何か言うたびに、長い髪が、祖母が縫ったリボンが揺れていた。

 

 

トランクスとブラがジェットフライヤーで飛び立っていった後、

孫家の家族は順番に帰宅し、夜は そろって夕食を囲んだ。

その席で、娘を見つめてビーデルは言った。

「髪が伸びてきたわね、パン。 明日はお休みだから、一緒に美容院へ行きましょ。」

「いや。」 「えっ、どうして?」

「切りたくない。 わたし、髪の毛 長くしたい・・。」

そんなことを言いだしたのは初めてだった。

体を動かすのに邪魔だからと、ずっと短くしていたのだ。

 

チチが、助け船を出す。

「パンの好きにさせてやればいいだよ。

 目に入っちまうといけねえから、前髪は おらが切ってやるだ。」

「うん、おばあちゃん。」

パンは素直に頷いた。 にっこりと笑いながら。

 

きっと また、ブラの真似をしたくなったのだろう。

まあ、女の子らしくなるのは良いことだ。

そう考えたチチは、後からビーデルに そっと耳打ちをした。

だが もう一つ、別の理由が あったことは気付かなかった。

それは 無理もないことだ。

パン本人だって まだまだ ちっとも、わかってはいないのだから。