『パートナー』

[ 「ごった煮。」のコウ様より、相互リンクの記念でリクエストして

いただきました。トランクス⇒ブルマですが、管理人の好みにより(笑)

ベジブル&次世代CP感が(かなり)含まれています。]

届けられたパーティーの招待状を眺めながら、ブルマはため息をついた。

華やかな場所に出かけるのは大好きだ。

それに 衝動買いしてしまったドレスやアクセサリーも、クロゼットの肥やしにしなくて済む。

しかし・・ 大きな問題があった。 パートナーをどうするか、だ。

 

それほどフォーマルな集まりではないとはいえ、男女同伴でないと何となく恰好がつかない。

一緒に行ってほしい相手、それは もちろん夫だ。

実は これまで、二度ほど同行させたことがある。

王子という生まれのためなのだろうか。

ああした場で、彼は かなり堂々としており、おかしな振る舞いなどはしない。

だが 当然ながら、簡単には うんと言ってくれない。

首を縦に振ってもらうには、かなりの犠牲を払わなくてはならないだろう。

だったら もう割り切って、会社の部下にでも頼むべきだろうか。

でも、もしも 他の招待客から 妙な勘ぐりでもされたら・・・。

 

「そうだわ。」 どうして 思いつかなかったのだろう。

自分の息子、 高校生になったトランクスに頼めばいいではないか。

ブルマは早速、帰宅している彼に向かって 話を始めた。

買い物の荷物持ちや、幼い妹の世話などは 比較的快く引き受けてくれるトランクス。

なのに何故か、この話には難色を示した。

「酒が出るような集まりは、校則に引っかかるんだよね。」

 

校則なんて、普段は まるで気にする素振りを見せないくせに。

だが もちろん、そんなことくらいでブルマは へこたれない。

「お昼のパーティーだもの、平気よ。 若い人も来てると思うわ。」

「・・・。」

「ねえ、助けると思って、お願い。 ねっ。」

まっすぐに目を見つめる。 息子の、夫によく似た目元、自分と同じ色の瞳を。

「・・わかったよ。」 「よかったあ! ありがと。」

つべこべ言う相手に何かを頼むことに、ブルマはとても慣れていた。

ただし それは、相手が男である場合にのみ 有効なのかもしれない。

 

パーティー当日。 

用意を済ませて いざ家を出ようという時、思いがけない事態が起こった。

母と兄のドレスアップした姿を目にしたブラが、自分も行きたいと言い出したのだ。

比較的カジュアルな集まりではあるが、さすがに幼児は連れて行けない。

小学生になったら必ず連れて行くからという 母の説得に耳を貸すことなく、

ブラは駄々をこねるばかりだ。

ベジータはといえば 素知らぬ顔を決め込んで、何のフォローもしてくれない。

 

その時、トランクスの携帯が鳴った。

「はい。 ああ、ちょっと待って。 ・・ブラにだよ。」

「?」 ぐずっていたブラに、携帯を手渡す。 「だあれ? ・・! 悟天!」

電話を終えたブラは、満面の笑みを浮かべて告げた。

「パンちゃんのおうちに行くわ。悟天とパンちゃんと一緒に、遊びながら待ってる。」

「・・・。」 ベジータが良い顔をするはずがない。

だが さすがの彼も娘には勝てず、従わざるを得なかった。

 

問題は無事に解決した。 会場へ向かう車の中で、ブルマは尋ねる。

「あんたが 悟天くんに頼んでくれたの?」

「ああ、昨夜ね。」 「助かったわ。 ほんとにありがと。」

「別に・・。」

素っ気ない答え。 トランクスは年々、父親であるベジータに似てくるようだ。

「女の子を紹介してやるって言ったら、喜んで引き受けてくれたよ。」

付け加えられた一言を除いては。

 

パーティーの会場で トランクスは、少し離れた場所から母を見守っていた。

シャンパングラスを片手に、人の輪の中心で談笑しているブルマ。

 

もっと若くて、スタイルの良い女の人は この会場にだっている。

だけど ママほど きれいで華やかな人はいない。

家にいる時とは、別の顔を見せるママ。

パパが、ママと出かけるのをいやがるのは、それを目にするのが嫌だから。

そういう理由なのかもしれない・・・。

 

そんなことを考えていたら、声をかけられた。「トランクスくん、だったね。」

先程 挨拶を済ませた、どこかの社長だという男性に。

傍らには、 同じくらいの年頃だろうか。 娘とおぼしき女の子が立っている。

「うちの娘がね、どうしても 君と話がしたいと言って きかないんだよ。」

「いやだわ、お父様ったら・・。」

やけにフリルの多いドレスを着た少女は、頬を染めて はじらう。

断る理由を見つけることはできなかった。

仕方なしにトランクスは、少女とともに中庭へ向かう。

学校の話などを少しだけした後、何とか逃れて もといた場所に戻った。

ほっと息をついたのも つかの間。

また別の親子が近づいてきて、同じことを持ちかけてきた。

結局トランクスは その日、数回にわたって同じようなことをさせられたのだ。

 

孫家に向かうジェットフライヤーの中。

アルコールが入った母に代わって 操縦桿を握りながら、トランクスは訴える。

「何だよ、あれ。見合い? だから おれを連れて行ったの?」

ブルマは即座に否定する。

「違うわよ。あんたが魅力的だから、みんな 話がしたかったのよ。」

「・・もしかして、おれって あの中の一人と結婚しなきゃならないの?」

「何言ってるの。」きっぱりと告げる。

「わたしが そんなこと、言うはずないでしょ。」

 

確かに。 彼の母親は かつて、

旅先で知り合った、荒野で追いはぎをしていた青年を恋人にして 家に住まわせ、

異星人で侵略者だった男を夫にした女だった。

 

「あの中に、かわいいと思う子は一人もいなかったの?」

「それぞれ きれいだとは思ったけど・・ 何だか みんな、お人形みたいだった。

 好みじゃないよ。」

「まあ、自分の意見を親に言ってもらうような子は ちょっとね。」

笑って頷いた後で、尋ねる。

「あんたの好きな子って、同じ学校の子なの?」

母の顔をじっと見つめて、ごく短い言葉で トランクスは答えた。

「違う。」

いないとは言わなかった。 それ以上は、ブルマも聞かなかった。

 

ジェットフライヤーは間もなく、孫家のあるパオズ山に着陸する。

 

呼び鈴を押して扉が開かれると、二人の鼻腔は 食欲をそそる匂いで満たされた。

もう、夕食が始まっていたのだ。

「ごめんなさいね、遅くなって。 すっかりお世話になっちゃって・・。」

頭を下げるブルマを、チチが制する。

「挨拶なんかいいから、早いとこ 空いてる席に座るだよ。

  きどった場所じゃあ、ろくに食えなかったんだべ?」

「そうね。 おなかすいちゃった。 じゃあ、お言葉に甘えちゃお。」

そう言ってブルマは、既に遠慮など まるで無しに皿を空け続けていた夫の隣に腰をおろした。

 

並んで座る両親の姿を見て トランクスは、やはり母のパートナーは父しかいない、と

いう思いを強くした。

 

部屋の隅には座布団が重ねられ、遊び疲れたらしいブラとパンが寝かされていた。

何とはなしに寝顔を見つめていたら、パンの方が目を覚ました。

「ごめん。 起こしちゃったね。」

少しだけ、驚いた顔をしている。

「今日はありがとう。 ブラと たくさん遊んでくれたんだろ。」

こっくりと頷いたパンの 黒い瞳、長く濃いまつ毛。

吸い寄せられるように手が伸びる。

乱れているのを直してやる振りをして、黒い髪に触れてみる。

体温が、伝わってくる。 

声を発することもなく、パンはじっとしていた。

その 濡れた瞳で、向き合う彼を見つめながら。

 

「トランクスくんも座って 食べて。 あら、パン。起きたの。」

ビーデルの声で我に返り、トランクスはその場を離れて食卓についた。

だが その指先には、つややかな髪の感触が いつまでも残っていた。