『爪、ゆび、手のひら』

kotosaki様のように お熱いクリパチを書いてみたいと思いつつ、

こんなのしか書けませんでした・・。 でも いつかは書いてみたい!!]

「たまにでいいんで、18号のことを誘ってやってください。」

おそらくクリリンが、そんなふうに頼んだのだろう。

時折、電話がかかってきた。

 

ブルマの仕事が休みの日、C.C.でお茶や軽食を摂りながら 午後を過ごす。

大抵は、子供を連れたチチも来ていた。

まるで公園のように広々とした庭に子供たちを放すと、

ブルマとチチは おしゃべりに花を咲かせ始めた。

 

サイヤ人の子供を産んで育てていること。

それ以外の共通点は ほとんど無いように見える二人だったが、

いつも楽しげに話をしている。

内容は、子育てについてが最も多い。

だが それ以外にも 洋服のこと、ヘアスタイルや美容のこと、

最近食べて、美味だと思った食べ物のこと。

少しぐらい噛み合わなくても、たいして気にはならないらしい。

 

ひとしきり しゃべり終えると、自分から会話に加わろうとしない18号を気遣ってか

ブルマは少しの間 席をはずす。

そして、

『ねえ、このあいだ こんなの買っちゃったんだけど、あんまり合わないのよ。

 二人にどうかしらと思って。』

そんなことを言いながら、化粧品だの 突飛なデザインの服だのを持って現れるのだ。

けれども、その日は少し違った。

「きれいでしょう。 新色なのよ。」

ブルマが手にしていた物。 

それは彼女の爪に塗られていたのと、同じ色のマニキュアだった。

 

「塗ってあげる。」

返事も聞かず、ブルマは まず、チチの手をとった。

「おらは いいだよ。 そんなの、めしの支度をしたら すぐに剥がれちまう・・。」

そう言いながらもチチは手を引っ込めようとはしない。

「いいじゃない。 夜には解くのに、毎朝きれいに髪を結うのとおんなじことよ。」

慣れた様子のブルマの手により、チチの短い爪が鮮やかなピンク色に変わっていく。

「ブルマさはネイルサロンってとこに行ってるだか?」

「うん、たまにね。 でも自分ですることの方が多いわ。」

ブルマの爪には いつも、その日着ている物に合わせた色が塗られていた。

「ネイルサロンってね、すごく時間がかかるのよ。

 だったらエステの方がいいわ。 この頃お化粧の のりが悪くって・・。」

ぼやいた後、ブルマは18号の顔を見た。

チチの方が、先に口を開く。

「18号さは お肌がキレイだな。 まるで ゆで玉子みたいだべ。」

「ほんと ほんと。うらやましいわ。 いいわね、若いって・・。」

 

18号は、返事をしなかった。

年齢のことを言われるのは厭だった。

目の前にいる女たちよりも若いことは確かだろう。

しかし彼女は、自分が今 いくつなのか はっきりとは知らなかった。

いったい どのくらいの間、弟とともにドクターゲロの元にいたのか わからないのだ。

忌まわしい記憶は、ごく断片的にしか残っていない。

だが、今でも時々、ひどく不快な気分に陥ることがある。

 

先程と同じように、ブルマが18号の手をとる。

本当は、他人に触れられるのも嫌いだった。 

思い切り、払いのけてしまいたい衝動にかられる。

小さな刷毛が 爪を、鮮やかな色に変えていく。

それを じっと見つめながら、彼女は自分を必死に押さえた。

 

夕暮れが近づいてくる頃、クリリンが迎えにきた。

18号が何も言わなくても、彼は すぐに そのことに気づく。

「きれいな色だなあ。いいな。女の子ってかんじだ。」

そして、黙ったままの彼女に続ける。

「せっかく都に来たんだ。 どっかで食事でもしていくか?」

「・・いい。」 ごく短い答え。 「亀じいさんが待ってるだろ。」

「一日ぐらい平気だよ。」 「いいよ。 行きたくない。」

「じゃあさ、何か珍しいつまみでも お土産に買って帰ろう。な。」

反応の鈍い18号を促して クリリンは、大きな店が立ち並ぶ繁華街を目指して歩き出した。

 

あるデパートに入る。 だが何故か、食料品が揃う地下へ すぐには行かない。

1階には化粧品の他、女性向けの装飾品が数多く売られている。

そのうちの一軒、宝石店と呼ぶにはカジュアルな、

けれども 若い女性が好みそうなアクセサリーを多く扱っている店。

クリリンは その店の前で、ようやく足を止めた。

 

揃いで薬指にはめる、結婚指輪が まず目にとまる。

しかし まだ彼には、約束で彼女を引きとめる自信が無かった。

「何かお探しですか。」

声をかけてきた店員に向かって告げる。

「えーと、普段つけられるような指輪を見せてほしいんです。」

店員は感じの良い笑顔を見せると、ケースからいくつかの商品を取り出した。

「こちらなんか、特にお似合いだと思います。」

何という名なのだろう。 アイスブルーの・・・

18号の瞳と同じ色の石が使われている。

リングの部分もまた、彼女の髪に合わせたようなプラチナゴールドだ。

何も言わなかったけれど、どうやら18号も気に入ったようだ。

それに決めて、サイズを合わせてもらうことにする。

 

待っている間 彼女は、店内を行き交う人々の姿を眺めていた。

場所柄、女性の客が多い。

C.C.で会ってきた女たちのように、子供連れの者も目につく。

何故 彼女たちは、あんなにも幸せそうに見えるのだろう。

明日も変わらず 生きているかなど、誰にもわからないというのに。

 

今日 会った女たち、 ブルマとチチだってそうだ。

家族を護るよりも 敵に挑むことを選ばずにいられない男を愛し、

その子供を育てている。 子供は男の子だ。

どれだけ大事に育てたとて、父親と同じ道を辿るかもしれない。

そして・・・

18号は気づいていた。

ブルマとチチの手には、指輪が無かったということを。

 

サイズの調整が済んだようだ。

包装してもらうのは断り、クリリンは遠慮がちに18号の左手をとった。

花のような色の爪にも、その指輪は よく似合っていた。

先程の店員が小さく拍手をしてくれて、彼は照れて 頭を掻いた。

 

「さ、じゃあ 階下で買い物して帰るか。」

やはり返事は無いけれど、18号は ごく自然に 指輪をしていない方の手を伸ばした。

人混みで はぐれたりしないよう、しっかりと手をつなぐ。

 

その姿が とても幸せそうに見えていること。

その事実に、彼も彼女も、まだ気づいてはいないのだった。