008.『思わぬ嵐』

[ 「KIMAGURE」のARINA様よりいただきました『目覚め』の

ひまママ視点によります続きになります。

ベジブル中心(のつもり)ですが、異色CP描写が含まれます。]

「じゃあ おれ、もう寝るよ。 おやすみ。」

だけど やっぱり、それだけでは終わらなかった。

この場所に向かって、パパが長い廊下を歩いてくる。

姿が見えてくるより早く、刺々しさに満ちた気をとらえてしまう。

 

おれが壊した壁を見つめて、パパは言った。

「いったい 何の騒ぎだ。 何があった?」

失敗したな。 せめて、ドアの方を破るべきだった。

「何でもないよ。 ちょっと勘違いしたんだ。」

ママも あわてて、部屋から出てくる。

「そうなのよ。 わたしが うっかり悲鳴みたいな声をあげたもんだから、

 トランクスが心配して、それで・・・。」

見え透いた言いわけ。 

気まずい空気が流れる中、この場を立ち去ることを ママは選んだ。

「もう寝るわ。 朝一番で壁の修理を頼まなきゃならないし。」

おれの肩に そっと手を置き、「あんたも寝なさい。」と ささやいて。

 

ママの姿が見えなくなってからパパは、別の言い方でおれに尋ねてきた。

「窓から誰が入って来た?」 「だから、誰もいなかったんだよ。」

ママが悪いわけじゃない。 だけど、知られたくは ないだろう。

「ヘンな声が聞こえた気がしたけど、聞き違いだったんだ。」

「・・・。」

パパは何も言わずに、おれの顔をしばらく見ていた。

そして「さっさと寝ろ。」と言い残して歩き去った。

寝室のある方、 ママが歩いて行った方向に。

おれが入っていけない あの部屋で、パパはママを問い詰めるのだろう。

 

その夜は眠れなかった。

いったい誰に対して腹を立てているのか、わからなくなっていた。

 

 

夫婦の寝室。

だが ここしばらく、ベジータは この部屋で眠っていない。

男女のことがわかってきている息子に、勘ぐられたくなかったのだ。

 

ライトを消した暗闇の中、ブルマは早々とベッドに潜り込んでいた。

ベジータの手が 毛布を、いとも容易く引きはがす。

「なによ・・。」 「言え。 窓から入って来たのは誰だ?」

覆いかぶさる形で詰問する。

「だから誰も・・。 トランクスが勘違いしたのよ。」

「何故かばう?」 「別に、誰のことも かばってなんか・・ あっ・・!」

またたく間に、着ていたものを取り去ってしまう。

身をよじって抗議しているブルマの脚の間に、彼の指が入り込む。

「ああ・・・ 」 水の音が響き渡る。

「何も無かったと言うなら、どうして こんなことになってるんだ?」

「それは・・ あんたのこと、考えてたから・・。」

「なに?」 「そうよ。一人で、あんたのことを考えてたの。」

とっさに口から出てきた 出まかせだった。

けれど まんざら、嘘とも言えないような気がする。

「だって、このところ ちっとも・・。」

すぐに答えを返すことなくベジータは、妻のうるんだ瞳をじっと見ている。

 

「その時の おまえの声を聞いて、トランクスは誤解したというのか?」

「そう、かもしれないわ。」 「フン・・ 」

彼は指の動きを止めた。 彼女は大きく息をつく。

「なら、自分で やってみろ。」 「えっ?」

ブルマは 耳を疑った。 ライトを点けて、ベジータは さらに言う。

「その時と同じように やってみせろ。 ここで見ていてやる。」

「そんな、イヤよ・・。」

まさか こんな展開になろうとは。

必死で逃れようとする妻に向かって 彼は告げる。

「言う通りにすれば、おまえの話を信じてやってもいい。この話は もう、終わりにしてやる。」

「ほんと・・?」 「俺は嘘は言わん。 おまえと違ってな。」

 

他に選択肢は無い。 仕方なくブルマは応じた。

今さっきは夫が、少し前には別の男が弄んだ個所に 指で触れる。

あまりにも濡れていることに驚く。

「ん、あ、あ ・・っ 」 

頬を上気させ 眉を寄せて喘いでいる妻。 その顔を、目を逸らさずに彼は見つめる。

「ベジータ、 お願い ・・ ねえっ・・ 」

「なんだ。」 「お願・・い・・ 」 「だから なんだ。 ちゃんと言え。」

他の男との記憶を、わたしの中から追い出して。

それは口にできない。 だから 代わりに、彼女は こう言う。

「いきそうなの ・・ 指、入れて・・ 」

甘くかすれる声、 懇願。

つま先をぴんと伸ばし、腰が浮きあがっている。

自分に抱かれている時と 同じように・・・。

「くそっ、 」 「ああ・・!」

ブルマは歓喜の声をあげた。 ベジータは、彼女の願いを叶えてやった。

 

ただし、彼女の熱く潤った中に埋め込まれたものは、指などではない。

みだらな顔を さんざん見せられたせいだろう。 あっという間に彼は達した。

「この淫乱が・・。」

ののしりながらも彼は 浅くつながったまま、彼女の上から どこうとしない。

ここぞとばかりにブルマは訴える。

「ねえ、このまま一緒に眠って。」 「・・・。」

「あんたと眠りたいの。 それに、毎晩だって抱いてほしい。

 お願い。 前みたいに、ここで 一緒に・・・。」

答えを返さない夫に向かって、彼女は続ける。

「トランクスだって、両親の仲がいい方が幸せに決まってるわ。」

 

確かに 今は、難しい年頃なのかもしれない。

だけど そんな時期なんて、いつの間にか過ぎていってしまうものだ。

「あの子なら すぐに恋人ができると思うわ。 

そしたら いろんなことがわかるようになるはずよ。」

 

ベジータは、とうとう返事をしなかった。

けれども彼は 結局、彼女の望みどおりにしてしまう。

だが、毎晩抱いてほしいという願いだけは叶えてやれなかった。

ブルマが妊娠したためだ。 

待ち望んでいた二人目の子を、身ごもったことが わかったのだ。

 

 

長く重かったつわりが ようやく治まった、ある休日。

ブルマはトランクスと一緒に、街へ出かけていた。

仕事用のマタニティのスーツがほしいと言っていたはずなのに、

目につくのはベビー服ばかりのようだ。

「あら。 あのお店、ビーデルちゃんが教えてくれた所だわ。」

結婚したばかりの 悟飯とビーデルのところにも、女の赤ん坊が生まれていた。

「安くてカワイイものが多いんですって。 ちょっと見ていきたいわ。」

その時、携帯の着信音が鳴った。

あちこち付き合わされて少々疲れていたトランクスは それを口実に、

近くのベンチに座って 待っていることにした。

 

携帯に届いたメールの送り主は、同い年のガールフレンドだった。

彼ときたら 母親からの誘いを優先し、デートの約束をキャンセルしたのだ。

これからのことを考えるならば、言葉を尽くして機嫌をとるべきなのだろう。

なのに何故か、そういう気には なれなかった。

 

携帯を閉じたり開いたりしていると 人影が、強い気が近づいてくるのを感じた。

顔を上げる。 「貴様・・・。」

ターレスだった。 見知らぬ 若い女を連れている。

「これは これは奇遇ですね、王子の坊ちゃん。」

おおげさに頭を下げる。 その姿勢のまま、鋭い目だけを上げて続ける。

「風のうわさによれば、母上はご懐妊だそうで。 心からお祝い申し上げますよ。」

「黙れ。 うせろ、チンピラ。」

「もちろん、すぐに失礼しますとも。 今日は連れがいるんでね。」

ニヤリと嗤って、付け加える。 トランクスにだけ聞こえる声で。

「あの夜、おまえさんに邪魔されてなきゃな。

さぞかし面白いことになったろうに、残念だ。」

 

腰かけていたベンチから、弾かれたように立ちあがる。

ふつふつと、こみあげてくる怒り。

超化しそうになるのを 押さえることに苦労する。

「連れがいたことに感謝するんだな・・。 次は無いと思え。」

女の肩を抱いて、ターレスは立ち去った。 こんな捨てぜりふを残して。

「いさましいな。 さすがに、高貴な血を引いているだけのことはある。

 混血なのが残念だけどな。」

 

「くそっ、あの野郎・・。」 

腹立ち紛れにトランクスは、手にしていたままだった携帯電話を握りつぶした。

 

いくつもの紙袋をさげて、ブルマがようやく店から出てきた。

「ごめんね、遅くなっちゃって。」

母の手から、荷物を受け取る。「いいんだよ。 じゃあ、そろそろ帰ろうか。」

「あら、せっかくだからお茶でも飲んでいきましょうよ。」

「家でいいよ。 パパが待ってるだろ。」

息子の その一言で、不満げだったブルマは素直にうなずいた。

「うん、そうね・・。」 まるで、少女のように。

 

 

数カ月後、ママは無事に赤ん坊を産んだ。 女の子だった。

ちなみに おれが女を知ったのは それから少し後、高校生の時だ。

だけど 本当に好きだと思える相手を見つけたのは、ずっと後のことだった。