『The last princess』
[ ブラ目線のベジブル&タブグレです。『Destiny〜ブラ編』とするつもりでしたが
この方が合っているかなと思い変更しました。
行き当たりばったりで続けてきた話ですが ここまで書くことができ、よかったです。]
わたしたちは今、宇宙船の中にいる。
一人用のポッドを別にすれば、最小と言っていいサイズの 目立たない船だ。
パンちゃんを連れたお兄ちゃんが 地球に旅立ってすぐ、パパが用意してくれた。
避難、ううん、違う。 逃亡するためだ。
度重なる裏切りに、怒り狂っているであろうフリーザ。
制裁のため、軍隊による総攻撃が始まることは 容易く想像できた。
ママは、倒したシートの上で 瞼を閉じて横たわっている。
病による苦痛を和らげるために、強い薬を用いている。
そのせいで、まるで赤ん坊のように 長く眠るようになっているのだ。
そんなママを、パパは長いこと じっと見つめていた。
そして、わたしに向かって こう言った。
「頼んだぞ。」
おそらく これが わたしへの、最後の言葉になるだろう。
パパはもちろん、一緒には行かない。
応戦し、この星と運命を共にするつもりなのだ。
間もなく、発進する。
出て行ったパパの手で、ハッチの扉が閉められた。
けれども それと ほぼ同時に、ママが起き上がった。
それだけではない。
しっかりとした足取りで歩き、わたしと、眠っている子供に向かって告げる。
「戻るわ。 あんたたちだけで行きなさい。」
きっぱりとした口調。
病のために すっかりやつれて、顔色だってひどい。
でも その表情は、まぎれもなくママのものだ。
だけど、
「何言ってるのよ! パパの気持ちを、無駄にする気なの?」
「…。 地獄って所は、愛する人を待つことなんて できないんじゃないかって思い始めてね。
だったら一緒に、同時に行かないと。 そう思ったのよ。」
「ママ…。」
そういえば少し前、ママは、こんな話をしていたのだ。
『わたし、天国には行けない気がするわ。』
どうして?と尋ねると、こう答えた。
『眠っていたドラゴンボールを起こしてしまった罪、 それと、あんなことを願ってしまったからよ。』
ママが願ったこと、それは
[ステキな恋人に出会えますように。]
地球が、あのタイミングで襲撃されたこと、 それは、パパとの出会いを果たさせるため。
つまり、地球は自分のせいで…
そう考えたようだ。
「違うわ、考えすぎよ。 行っちゃダメ、ママ!!」
その時。 大声を出したせいで、子供が目を覚ましてしまった。
「ふぎゃあーーーーーー!!!」
耳をつんざく、けたたましい泣き声。
あらあら、といった調子でママは言う。
「ほら、見てあげなさい。 あんただって、今はママなのよ。」
そして付け加える。
「何とか逃げおおせて、生き延びるのよ。 元気で、できれば幸せにね。」
言い終えるとママは、壁面のパネルを素早く操作し、外に出て行ってしまった。
「ママ! ママったら … 」
走り出す。 パパのいる方に向かって、驚くような速さで。
いったい どこに、あんな体力が残っていたのだろう…。
宇宙船は、予定通りに発進した。
旅の途中、船内で、子供は何故か まるっきり泣かなかった。
母である わたしの泣いている姿を、ずっと見つめていた。
宇宙のように 黒い瞳で。
ある星に到着した。 何という星なのか、わたしは聞かされていない。
行き先を決め、インプットしたのはパパだ。
何故 ここなんだろう。
あのパパが、あやふやなことをするとは思えないけど…。
ハッチを開き、子供を抱いて 地面に降り立つ。
「!」
生き物がいる。 隠れているけれど、結構 数が多い。
もしかしたら あれは人間? この星に棲む人間なのだろうか。
小さい。 わたしの、腰の位置ぐらいの背丈しかなさそうだ。
円い顔、それに まるで蛇腹のような、細い手足。
なんだか ママが昔、何かのついでに作ってくれた機械人形みたいだ。
殺気は感じない。
けど かなり、用心深い性質らしい。
それでも次第に、一人 二人と、こちらの方へ歩み寄ってくる。
彼らの案内によって わたしたちは、思いがけない人物に遭遇した。
「あなたは…、」
黒い髪と瞳を持つ女。
細い腰には茶色い尻尾が、しっかりと巻きつけられている。
サイヤ人だ。 どうして こんな所に。
まさか…
「もしかして、あなた グレさん? パパの正式な奥さんだった人ね?」
「そうです。 あの星を出たのちに、第二王子のターブルの妻になりました。」
「そう。 じゃあ 今は、わたしの叔母さんってことになるわ。」
でも それは、まったく似つかわしくない呼び名だった。
華奢で小柄で、ちんまりとした顔立ち。
どこから見ても、少女にしか見えない。
その彼女は 懐からスカウターを取り出し、目元に着けた。
わたしの子の、戦闘力を測っているのだ。
「なんて、なんて素晴らしい。 これほどまでに高い数値は、見たことがありません。」
表情は、あまり変わらない。
それでも声からは、驚きと喜びが感じられる。
「この星は、今のところは平和です。
ここに留まり、能力を伸ばしていってくれたならば さらに、揺るぎない 確かなものとなるでしょう。」
「ちょっと…! この子は わたしの子なのよ。 渡さないわ!」
小さな口が、ふっ、と 笑ったように動いた。
まるで何かを、思い出したかのように。
「もちろん、わかっていますよ。 母君も ご一緒に。」
「… ねえ。」
気になっていたことを尋ねる。
「どうして平和って言いきれるの?
いくら辺境の星って言っても、いつフリーザの手が伸びてくるか わからないでしょう?」
「この星は既に一度、サイヤ人の襲撃を受けているのです。」
「!」
「豊富にあった地下資源が目的だったようです。 けれど住民は、かなりの数が助かりました。
姿を変えて、難を逃れたためです。」
「姿を? 変身能力があるってこと?」
「そのとおり。 さっき あなたが会った彼らは、仮の姿です。
めったに見せてはくれませんが、とても優雅で美しい姿をしています。」
「へえ…。」
感心しているわたしをよそに 彼女は、ひどく重大なことを口にする。
「初代のベジータ王は、その中で最も美しかった女を連れ帰りました。
それで あなたの父上、二代目のベジータ王が生まれたのです。」
「なんですって…?」
「ターブルから聞かされました。 ごく限られた者だけが、知っている話です。」
パパも混血だった、純粋なサイヤ人じゃなかったってこと?
「まさか! だったら どうして王になれたの?」
「別に、不思議ではありません。 あの星は全て、戦闘力で決まるのですから。」
「ねえ、あなた もしかして…」
迷ったけれど、言ってしまう。
「それが理由で、叔父さんの方を好きになったの?」
「違います。」
即座に、そして はっきりと彼女は否定した。
「そうよね、ひどいこと言ったわ。 ごめんなさい…。」
当の叔父さんは四年ほど前に、この星の風土病に罹って亡くなったそうだ。
けれど 遺された彼女は その後、看病の経験を生かして、ある薬を作り上げる。
それを提供したことで、この星の住民は 彼女を受け入れたという。
サイヤ人への恨みを忘れて。
「いろいろ あったのね。 …!」
扉が開き、黒い髪の幼女が駆け寄ってきた。 尻尾がある。
「この子は… 」
「ターブルと私の娘です。 顔を見せてあげられたことが、せめてもの なぐさめでした。」
「お母様! この子は誰なの!?」
わたしの子供のことを言っているのだ。
この小さな女の子と わたしは、従姉妹同士ということになる。
従姉妹の子供って、何ていうのだろう?
考えていたら 彼女、グレさんは、幼い娘に こう答えた。
「あなたの、お友達よ。」
女の子が、いかにも うれしそうな声を上げる。
だから わたしは身をかがめて、顔をよく見せてあげる。
すると、腕の中にいる我が子もまた、手足をばたつかせ、
黒い瞳を輝かせながら、機嫌の良い声を上げ始めたではないか…。
見つめ合い、笑い合っている、今は まだ小さな二人。
5年後、10年後の光景が、わたしには見えるような気がした。
ふと、頭をよぎった。
お兄ちゃんとパンちゃんは、いったい どうしただろうか。
死んではいない、生きている。
何故か 強く、そう思った。
そう、サイヤ人は滅びない。
星が滅び、広い宇宙に散り散りになり、
他の星の人間と交わり、血が混ざって、その特徴が薄れていっても、
強さだけは残るだろう。
宇宙一の強戦士、サイヤ人の歴史は続く。
いつまでも 決して、終わることはないのだ。