『思えば思われる』

14話、最終話です。 担当はMickey様です。 

ひまママは、編集作業をしながら泣いてしまいましたよ・・。]

こうなることすら、予想していたのかもしれない。

本気で、ここに泊めてもらうつもりなんてなかった。

悟空でないにしても、悟飯あたりが迎えに来てくれるだろうって思ってたから。

 

「チチ・・・」

再びそう呼ばれて、逸らしていた視線を悟空に向けた。

「何しに来ただ」

 

迎えに来たことくらい分かってるのに、返す言葉と言ったらそんなこと。

だって、やっぱり分からない。

辛いのはこっちだというのに、どうして悟空がそんな顔をしているの?

 

「おらは帰らねぇって言っただべ」

「けどよぉ・・・」

「・・・」

「っち・・・トランクス、お前は部屋に戻れ。オレはもう寝る」

「え?え?なんで?」

「いいから戻れ。お前らも話を付けるならさっさと終わらせろ、ここに居座られても迷惑だ」

 

そう言い残してベジータとトランクスはリビングから出て行ってしまった。

悟空と二人きり残されて、なんとなく声が掛けづらい。

しんとしたリビングで、自分の作った夜食の香りが充満している。

どうしていいのか分からなくて、このまま不貞寝でもしてしまおうかとまで考えが巡る。

そうすれば諦めて帰るかもしれないと。

だけどそんな思考はすぐ閉ざされてしまった。

悟空が言葉を発したから。

 

「あのよぉ・・・」

「・・・何だべ?言いたいことがあるならさっさと言って帰るだ」

「・・・・・・」

「ないならなんで来ただ!おらは何言われたって帰らねぇだぞ」

「・・・そういうチチはオラに言いてぇことねえのか?」

「え・・・?」

「だってそうだろ?あんなんじゃ何言いてぇのか意味わかんねぇよ。

さっきおめぇ言ったよな?悟飯たちと違ってオラ達は言いたいこと言い合ってるって。

なら、言いてぇこと言えよ。オラに分かるように言えって!」

「そ、れは・・・」

 

確かに、そう言った。

夫婦として過ごすようになってまだ期間の短い悟飯たち夫婦は、

言いたいこともなかなか言えず今回こんなケンカにまで至った。

そんな二人と自分たちとはもう、違う。

離れていた時期があったとはいえ結婚して十数年も経っているのだから。

だけど・・・本当は悟飯たちと変わらないのかもしれない。

ううん。

それ以上にひねくれてしまった。

共に過ごした時間が成長させてくれた分、素直になる気持ちを曇らせてしまったから。

だけど・・・

 

「・・・・・・ずっと、聞きたかったことが、あるだ」

今なら、聞ける気がした。

 

「なんでも言えって」

「・・・悟空さは、どうしておらと一緒になっただ?」

「へ?」

「小さい頃の約束したから、だべ?」

「そりゃあ、そうだけど・・・」

「それがおらじゃなくても悟空さはその誰かと結婚しただべ?

なら悟空さの妻はおらじゃなくても、いいってことだべな」

「なに、言ってんだ?チチ、おめえ・・・」

「・・・・・・」

「なあ、チチ」

 

聞いたのは自分なのに、名前を呼ばれただけで体が飛び跳ねる。

その答えを聞くのが怖い。

というか、聞いてどうするつもりなんだろう。

悟空に「そうだ」と言われてしまえば、もう帰る場所なんかなくなるというのに・・・

 

ギュっと目を瞑り、思わず手を握りしめる。

手の震えを止めるのに必死だった。

なんでこんなこと聞いてしまったのだろう。

ただそうかもしれないって考えてるだけにしておけば良かった。

そうすれば―――

 

「オラの話聞いてくれっか?」

力強く握りしめていた手をやさしく包まれ、静かな落ち着いた声で呟かれ

思わず顔を上げてしまった。

そこには、不安を滲ませ、どう話すのか考えているのだろうことが分かる面持ちで

何度も深呼吸を繰り返す悟空の顔があった。

「オラ若ぇ時は何も知らなくてよ・・・確かに意味も分からねぇで約束しちまったし、

その相手がチチじゃなかったとしても同じように結婚―――?!」

 

思っていた通りの言葉はやっぱり聞きたくなくて、握られていた手を思いっきり振りほどいた。

そのまま、その場から立ち去ろうとしたけどそれは叶わない。

背を向ければそのまま力強く抱きつかれた。

今度こそ逃げられないように強く。

 

「聞いてくれって・・・正直考えたことねぇんだ。

チチ以外の誰かと結婚してたかもしんねぇなんてこと」

「っ!」

「考えてもみろよ。チチ以外の誰かと一緒になったりすると思うか?チチだからだろ?」

「・・・じゃあなんで、帰って来なかっただ?何日も家を開けた時も・・・死んじまった時も!!

悟空さにとってそんなもんなんだべ?おらの存在なんて、そんなもんでしかないだ。

そうじゃねぇって言うならどうあっても帰ってきたはずだべ!

おらのところに帰ってきてくれたはずだべ!!」

「あやまって済むんだったらいくらだってあやまっぞ。

けど、オラは間違ってなかったって思ってる。その時はそうするしかなかった。

誰にも負けねぇ力が必要だったから家にも帰らず修行してた。

何よりもチチを守りたかったから・・・結果、死んじまったってだけだ」

「そんな、簡単に・・・あんな思いするくらいなら、地球なんてなくなっちまえば良かっただ!

おらなんか死んじ―――

「チチ!!」

 

ビックリした。

大きな声ではなかったのに、声色に怒りが滲み出ていた。

怖いと思ってしまうほど。

 

「チチ・・・チチ・・・分かってくれなんて言わねぇ。

言わねぇけど、そんなこと言わねぇでくれ。

チチはオラが死んじまって悲しんでくれたんなら分かんだろ?

オラだってチチがそんなことになっちまったら・・・・・・生きていけねぇよ」

「・・・悟空、さ・・・?」

「オラ、思いつきで行動しちまうから・・・良くあんだ。後悔ってやつ。

死んじまって肉体与えられて好きなだけ修行出来たけど、

何回生き返ぇれば良かったって思ったかわかんねぇよ」

「そんな話・・・聞いたことねぇだ」

「ああ。話したことねぇかんな。仕方ねぇだろ?後悔したこと悩んでても何も変わんねぇ。

だったらなんかした方が良い」

「悟空さ、らしいだ」

「それに今はこうして戻ってこれたしな」

「悟空さ、おら・・・」

「きっかけはさ、オラも忘れっちまってた約束だったけどよ、チチで良かった。ありがとなチチ。

オラんとこ来てくれて。今のオラがあるんはチチのお陰だ。

チチが傍にいないなんて考えられねぇんだ。だから・・・一緒に帰ってくれっか?」

「・・・・・・・・・んだ」

 

背中から抱き締められていたのを向き直され、

しっかりと手を繋いだかと思えば一瞬にして景色が変わる。

目の前にはベッドに横になっていたベジータ。

 

「なっ?!」

「よ。世話んなったな。オラ達帰ぇっからよ」

「お邪魔しましただ。あ・・・夜食、明日の朝にでも温めて食べてけれ」

「っち。痴話喧嘩なら自分の家でしろ。悟飯にもそう言っておけ」

「ああ」

「ブルマさにも申し訳なかっただと伝えてけれ」

「いいからさっさと行け。人の眠りを妨げるな」

「じゃあ、またな」

「・・・・・・・・・それでなくとも眠れんと言うのに、余計な心労増やしやがって」

 

そして次の瞬間目の前に現れたのは自宅の茶の間。

きっと心配してくれていたんだろう。

悟飯たちも自宅ではなくここに居てくれた。

 

「あ!」

「おかえりなさい!お父さん、お母さん」

「たでぇま」

「ただいま・・・みんな、すまねぇだ」

「お母さん・・・良かった。今日は色々すみませ―――

「ビーデルさ、それは言うでねぇだ。お互い様だべ」

「そうだな。悪かったみんな。今日はもう休むか!なんかオラ、修行したより疲れた気がすんぞ」

「そうですね。僕たちも家に戻ります。おやすみなさい」

「ボクももう寝るよ。お腹いっぱいになったら眠くなっちゃった」

「ビーデルさが悟天の食事、準備してくれただか・・・?本当にすまねぇだ」

「お母さん、お互い様ですよね?それは言わないでください」

「ふふふ、そうだべな・・・」

 

今日はカプセルコーポレーションを巻き込んで、家族全体で迷惑をかけてしまった。

だけど、こうして心配してくれる家族がいてくれる。

悟空がここに居てくれる。

不安に思っていたって、どこかでつながっている気がしてならなかった。

 

「いいよな。家族って。やっぱさ、チチがいなくちゃこうはならねぇ」

「悟空さがいなくてもならねぇだ」

「そんなこと言ってくれんのチチだけだぞ」

「じゃあ、大切にしねぇとなんねえだな?」

「当たり前ぇだ」

 

どんなに信頼し合っていたって離れてしまえば不安に思うもの。

違う人間じゃないのだから、相手の気持ちなんて見えない。

だから伝えなくちゃいけないこともある。

伝えてほしいこともある。

 

「チチ」

「なんだべ?」

「オラさ、今はチチがいてくれればそれでいいや。

赤ん坊出来ちまったらチチのこと独り占め出来なくなりそうだしな」

「なんだべ、それ・・・ふふふ。悟空さは甘えん坊だべな。

そんなに子供に取られっちまうのがイヤだか?」

「ああ、イヤだな」

「おらもこんな大きな赤ん坊がいたら他の子なんて世話出来ねぇだよ」

 

子供を慈しむように抱きしめて頭を撫でようとしたのに、

逆にギュッと抱きしめられてそれは叶わなかった。

だけどこの状態がひどく心地良い。

ここが自分のいるべき場所なのだと思う。

 

「オラの・・・帰ぇってくる場所は、ここだけだ」

「え・・・?」

「他のどこかなんてねぇよ。そうだろ?」

「・・・んだ」

 

これから先だって、また離れてしまうことがあるかもしれない。

不安に思うこともあるかもしれない。

それでも、ここに帰ってくると言ってくれるなら―――

・・・おらはそれを信じるだ。

 

 

幼い夫婦の小さな喧嘩はその両親、仲間、兄弟たちを巻き込み、結果それぞれの絆を深めた。

それは、愛する人に愛されていると感じていたいから。

だけど気付いていないだけ。

 

Love and thou shall be loved.

END  どうもありがとうございました!!