「ち・・ちきしょ・・う、 し、死んでた・・まるか・・ 」

 

化け物に変身したザーボンとの戦いで 傷を負わされた俺は、

湖の底から どうにか這い上がり、岸辺を後にした。

 

意識を失いかけたその時、見知らぬ女の姿が視界に入った。

 

「ベジータ・・ 」  なんで俺の名を知っている?

誰だ、 この女は。 ナメック星人ではない。

・・地球人か。 ドドリアが言ってやがったことは、本当だったのか。

 

恋人を、仲間を殺させて、今なお たくさんの命を奪い続ける恐ろしい男。

その男が ずぶぬれの まるでぼろ雑巾みたいな姿で、わたしの足首を掴んでいる。

 

「傷の・・ 治療はできるか。 できるのなら、今は貴様を殺さん・・。」

 

仕方なく、洞穴の奥のカプセルハウスに連れて行く。

ケガをしてボロボロの今だったら 勝てるかもしれないのに、クリリンくんも悟飯くんも戻っていない。

とにかく、やり過ごして 時間を稼ぐしかない。

わたしはふるえる手で医療キットを取り出した。

 

「チッ、 こんな原始的な治療しかできない星の奴が、よく ここまで来れたもんだ。」

 

破れている服や装備を再び身につけながら、男は毒づく。

けれど、そのすぐ後に頬を赤らめる。

空腹を示す、大きな音が聞こえてきた。

 

携帯用のランチパックを、恐る恐る差し出す。

おいしくないと、皆が文句を言ったそれを ものすごい勢いで食べ始める。

手にもケガを負っていたことを思い出し、フォークを手渡す。

黙って受け取る。  きちんとフォークを使って食べる。

 

一息ついたのか、ベジータはわたしに話しかけてきた。

「何の力もない貴様が、何故こんな星に来た?」

 

何の力もない・・・

「わたしは、科学者よ。」 言い返す形になる。

刺激してはいけないって、わかってるのに。

「宇宙船を改造して、操縦だってわたしが・・・ 」

 

あざけるように薄く笑って、男は質問を続ける。

「カカロットはどうした。」

「こっちに向かってるわ。 もう、すぐに着くはずよ。わたしはクリリンくんと、悟飯くんと一緒に・・・ 」

悟飯という名に、彼は反応した。

「貴様が、あのガキの母親か?」

「ちがうわ。 孫くんには、奥さんがいるのよ。」

 

ベジータは立ち上がった。

少しでも離れようとしているわたしに、ゆっくりと近づいてくる。

背は わたしよりも低いくらいなのに、ものすごい迫力だ。

こわい・・・。

 

後ずさっていくうちに、壁に追いつめられてしまう。

「はるばるこんな所まで来たのは、ドラゴンボールのためか?」

するどい目。 傷だらけの顔。

口の左端だけを上げて、ベジータは笑う。

「あいにくだったな。 あれは、俺がいただく。」

「孫くんが来てくれたら、そんなことには ならないわ。」

ああ、 言ってしまった。

 

首に 手をかけられる。

「おっと、 殺さない約束だったな。」

 

ワンピースのハイネックの襟元を掴まれる。

あっという間に、引きちぎられる。

もうダメ、 お願い、 誰か ・・・

 

長い数秒が経った。

何も起こらない。 

きつく閉じていたまぶたを、恐る恐る開いてみる。

 

すぐ目の前にいるベジータ。

その表情は、意外なものだった。

わたしの視線に気づくと、ひどく悔しそうに顔をそむけた。

その時・・・   「来やがったな・・。」

 

巨大な気を感じる。 ザーボンの野郎だ。

逃げ回っていても仕方がない。 今度こそ、奴を倒してやる。

俺は その場を後にした。

 

わたしは へなへなと床に座り込んだ。

本当に、嵐のような出来事だった。

 

ベジータの手で 露わにされた胸を、両腕でおさえる。

 

あの顔。

呆けたみたいな、 うろたえたような ・・・

まるで、少年みたいに 頬を赤くしていた。

殺人も破壊も、何とも思わないはずの男が。

 

この星ではその後、大地を揺るがす 恐ろしい戦いが続いた。

恐怖に身をすくませながらも 、わたしは ずっと、そのことばかり考えていた。

 

 

「あんたも来たら。」

ドラゴンボールに生かされて、

心ならずも 地球に送られてきたベジータを、わたしは家で引き取ることにした。

声をかけた時の彼の顔は、ナメック星での あの時とまったく同じで

なんだか少し、笑ってしまった。

 

あの時、 俺は 生意気な女に思い知らせてやろうとしただけだ。

考えてみれば、会話を交わした女の体を見たのは 初めてのことだった。

 

あれ以来、ブルマの奴に話しかけられるたびに

あの胸の白さが 目の前にちらついてきやがった。

 

あれから、何年経ったのだろう。

生き返った恋人とは別れて、わたしはベジータの子供を産んだ。

愛してる、 とは 一度も言ってくれないけれど、今では 毎晩一緒に眠る。

 

ナメック星でわたしは、何の役にもたたなかった。

だけど 地球に残っていたら、 多分、 きっと・・・

 

ベジータとわたしは、ナメック星での あの時から始まってしまった。

そう思っている。

 

誰にも言ってないけれど。

060.『出会い』

ナメック星祭に投稿した作品を改題・一部修正しました。

 主催者様によります挿絵もぜひご覧ください。]