139.『王子専用』
帰還して 城に戻り、自室の扉を開くと、「!?」
そこには、見知らぬ女がいた。
白い肌、明るい色の長い髪。
尻尾の有無を確かめなくとも、サイヤ人でないことがわかった。
「何だ、貴様は。 誰の許しを得て ここにいる?」
尋ねながら、はっとなった。
ついさっき 父上が、宇宙での 俺の働きを褒めそやした後で、言っていたことを思い出したからだ。
『褒美を与えよう。 ちょっとした物だが、良い気分転換になるはずだ。』
…
「くそっ、冗談じゃない。」
異星の侵略に旅立つ際、隊の中には大抵、女を一人
入れる。
一部の例外を除けば それほどの力を持っておらず、足手まといになることさえある。
なのに何故、わざわざ連れて行くかと言えば…
慰安のためだ。
攻め入った星の、若い女を捕えてくることもある。
だが 体のつくりが全く違っている場合も多く、
それを見越して あらかじめ、用意していくというわけだ。
つつがなく [仕事]を済ませた後の宴。
順番を決めるために起こる小競り合い、
その後で、否応なしに耳に届く、卑しい女のいやらしい嬌声。
『おっと、すいません。 さ、王子もどうぞ。』
… カッとなり、エネルギー波を放ったこともある。
この俺様に 馴れ馴れしい言葉をかけてきた奴、
そして戦闘服を脱ぎ捨てて、裸で絡み合っていた奴らに向けてだ。
目の前にいる女が、俺に向かって口を開く。
「私は、王のご命令で ここに来ました。」
青い瞳、紅い唇。
おそらく、滅ぼされた星の中でも 最も美しい部類だったのだろう。
現地で欲望を満たすだけでなく、連れ帰り、その後も殺すことなく
関係を続ける。
それは、エリートにしか出来ない高尚な娯楽である。
そんな戯言を、したり顔で言う奴がいるのは知っていた。
あろうことか、この星の王である父上も
その一人だったのだ。
「ふざけるな、すぐに出て行け。」
声を荒げても、女は動じない。
いや、俺を恐れていないというよりは もはや、自分の意思というものが乏しくなっているように見えた。
だが 女は、こんなふうに続けたのだ。
「王子は いずれ、妻を娶ることになる。
その時に恥をかかぬよう、女の扱い方を知っておかねばならない。
王は そう仰せでした。」
「! この… 」
頭に、血が上るのを感じた。
女は無礼にも、俺の寝台に腰掛けている。
引きずり下ろしてやろうと腕を掴む。
その細さ、肌の滑らかさに一瞬 驚く。
女は、裸だった。
何も着けていない胸は、甘い汁を蓄えた果実を思わせる。
父上や、周りの御膳だてに従うのは癪だったが…
「よし、貴様の顔を立ててやる。 この俺様を、楽しませてみろ。」
男と女が交わること。
主に戦闘の後の慰労として行われるそれは、物心がついた頃から目にしてきた。
卑しく下品としか思えない あの行為を、
どいつもこいつも何故、嬉々として受け入れるのか。
女は黙って俺の手を取り、たわわな胸に触れさせた。
「フン…。」
強く、掴んでやる。
すると 果汁が滴る代わりに、ああ、と微かな吐息が漏れた。
「いいか。 俺が つまらないと感じたら、そこで終わりだ。
その時点で即、貴様を殺してやる。」
「…。」
それからも女は、喘ぎ以外の声を 発することはしなかった。
手を添えて 向きを変え、この俺の動きに合わせて
腰を振った。
命じれば どこまでも、どんな淫らな格好でも応じた。
結果、ひどく的確に、強い快感へと俺を導いた。
俺は、女を殺さなかった。
それからも、俺が城にいる時には必ず、この部屋で待機していた。
自分からは何も話さず、尋ねたことにだけ答えを返す。
「何故 いつも、何も着ていないんだ。」
「服を、破られたくないからです。」
なるほど。 床に置かれている服は、故郷の星の物のようだ。
「俺がいない時は 何をしている?」
「生まれ育った星のことを、思い出しています。」
「ふん、くだらん。」
鼻白むと共に、どこかで安堵もしていた。
父上や… 他の男にも 体を開いているとは、思いたくなかったのだ。
だが、ある日。
いつものように部屋の扉を開くと、女は、数人の男に取り囲まれていた。
いや、正しくは 一人の男と取り込み中であり、他の奴らは順番待ちをしていた。
「お、王子!」
男どもの一人が、声を上げる。 ようやく、こちらに気づいたのだ。
「お戻りは明日では?」
「いや、これはですね、この端女が誘ってきて…。」
なさけない声で、次々と言い訳を口にする。
城に出入りできるのだから 下級戦士などではなく
、エリートと呼ばれている者たちだ。
女の方に目を向ける。
光の無い青い瞳が、何かを訴えかけるように
俺を見つめる…
「許さん。 ここは俺の部屋だ!」
男どもの肩を掴み、片っぱしから壁に叩きつける。
ひるんだ隙に殴りつけ、力を込めて蹴りあげる。
そうしながら、俺は叫んでいた。
「そして、この女は俺の物なんだ…!」
逃げおおせた者もいたが、死んだ者もいる。
血の匂いが立ちこめる中、俺は そのまま女を抱いた。
体じゅう、至る所に男どもの残滓が残っていた。
が、そんなことは構わなかった。
何度目かが終わった後、初めて、女の方から話しかけてきた。
「王子様。 今日は もっと、好いことを教えてさしあげます。」
「何? いったい何だ。」
聞き返すよりも前に、手が伸びてきた。
頬を両手で包みこまれ、唇を押し当てられた。
それは次第に ゆるく開かれ、口内に、濡れた舌が入り込んでくる。
やっと離れた後で、俺は尋ねていた。
「女。 貴様の名は、何というんだ。」
しばしののち。
女は ゆっくりと、その紅く濡れた唇を動かした。
やけに長ったらしい、妙な名前だった。
だが、「・・・・・・。」
忘れぬうちに、復唱をした。
すると、向き合った 青い瞳に、光が灯ったように感じられた。
惑星ベジータが消滅したのは、その すぐ後のことだった。
生まれ育った星が消えたことにも、親や同胞が死んだことにも、
たいした感慨は湧いてこない。
ただ、あの女のことを思った。
俺の手で、殺したかった。
いつか、そうしてやるつもりだった。
あの女は、自死という概念を 持ち合わせていないようだった。
そういう星で、そのように刷り込まれていたのだろうか。
つまり、どんなに目に遭わされようとも、自ら死を選ぶことはできなかったのだ。
その後は、思い出すことなど ほとんど無かった。
浅い眠りに ついた際、ごく たまに、夢に出てきたくらいだ。
だが 俺は、また 出会ってしまったのだ。
あの肌、髪、そして唇、青い瞳を持つ女に。
「あんたも来たら?」
そう言ってしまってから、わたしは はっきりと後悔した。
何だか あいつ… そう、ベジータのことだ。
怖いというだけじゃなく、気味が悪い。
離れた場所から とにかく、じっと見つめているのだ。
わたしの顔、それに体を…。
ナメック星で、初めて顔を合わせた時から そう思っていた。
「わたしが魅力的だからって、悪いことしちゃダメよ。」
明るく言ってみたものの、何だかシャレにならなくなった。
部屋に案内したり、C.C.の内部を説明してあげる時も、二人きりには ならないようにした。
夜は もちろん、部屋のドアを しっかりとロックした。
けど そんなことは、気休めでしかなかった。
深夜。
ドアのロックも警報機も難なく破壊し、
ベジータは、眠りかけていた わたしの上に
のしかかった。
「イヤッ、やめてー!… 」
本当に怖い時には、あまり大声は出せないものだ。
特に口を塞ぐこともせず、彼は、わたしが着ていた物を引きはがした。
闇の中でベジータは、随分長いこと わたしの体を見つめていた。
勇気を振り絞り、問いかけてみる。
「ねえ、ちょっと、どうしたって言うのよ… んっ、」
唇に、彼のそれを押し当てられた。
鋭くした舌に入り込まれ、掻き回される。
そして、その後は …。
ベッドの上で、わたしの体を翻弄しながら、彼は何度も同じことを言った。
「今日から貴様は俺の物だ。 喜べ。 この俺様の、専用にしてやる。」
そして時折、こうも言った。
「・・・・・・。」
… 誰のこと?
それが 人の、女の名前であるということに気付いたのは、
夜が白々と明ける頃だった。