『教えてほしい』
ここは田舎だから、チャンネルの数は もともと少ない。
山に囲まれているせいで、映りも決して良いとは言えない。
うちの居間のテレビは もう何日もの間、ニュースばかりを流している。
都市部の被害状況だ。
お父さんの もういない地球に、新たな敵が出現した。
宇宙人などではない。
それほど鍛え抜いているようにも見えない、少年と少女の姿をした二人組。
奴らによって地球上の大都市が、次々と攻撃されている。
テレビの画面に、泣いている子供の姿が映し出された。
親らしき人は そばにいない。 逃げる途中ではぐれたのだろうか。
それとも、死んでしまったのだろうか。
「僕、行かなくちゃ。 少なくとも僕は、普通の人よりも力がある。
だから せめて、死なずに済んだ人を助けてあげたいんだよ。」
そう言葉にするよりも早く、お母さんが口を開いた。
「行ってやるだ。」
背が伸びた僕に合わせて縫ってくれた、新しい道着を差し出しながら。
「ありがとう、お母さん!」
「その代わり… 人助けだけにしておくだよ。
敵を追うことは、戦うことはやめてくれ。」
「うん、わかってるよ。」
なるべく、出来るだけ そうするから。
小さな声で付け加える。 すると、「悟飯ちゃん!」
気付いたお母さんが 続きを口にする前に、僕は飛び立った。
『チチ、悪いな。 いつも すまねえ。』
いつも いつも、謝ってばかりいた お父さん。
あの、最期になってしまった日も…。
きっと、今の僕と同じ気持ちだったのだろう。
さっきテレビに映し出されていた辺りに下り立つ。
僕は目を剥いた。 ここに向かっている間に、またしても とんでもないことが起きていた。
繁華街から少しだけ離れた場所に、昔から存在していたらしい学校。
そこが、真っ赤な炎に包まれている。
テレビ局のヘリコプターが、墜落したのだ。 しかも一機だけではない…。
校舎や体育館から走り出てくるのは、ほとんど大人ばかりだ。
もう授業なんて できるわけはなく、避難所のようになっていたのだ。
そんな中、一人の女の子と視線が合った。
やや くせのある黒い髪を、二つに分けて束ねている。
服も顔も、灰や煤で汚れている。
同じくらいの年齢だからだろうか、僕に向かって話しかけてきた。
「わたし、見てたわ。 ヘリコプターは あいつらが墜落させたのよ。
銃も何にも使わないで、素手で簡単に…。」
そう。
あいつら 新しい敵の特徴は、恐るべき力を持っていながら 決して、一気に片をつけようとはしない。
破壊よりも殺戮よりも、人を苦しめることが目的のような…
まるで人々の暮らしを壊すこと自体を、楽しんでいるように思えた。
風向きが変わった。
猛火が こちらに迫ってくる。
「危ない!」 僕は、女の子を抱えて飛んだ。
煙が もうもうと立ち込めているから、できるだけ上を目指して空に浮かび上がる。
女の子は、ひどく驚いているようだ。
不思議な色の大きな瞳で、まじまじと見つめられる。
「どうして こんなことができるの? トリック?」
「違うよ。 うんと修行すれば、飛べるようになるんだ。」
「嘘よ! 人間が飛べるはずないわ。 パパだって そんなことできないのに!」
「君のお父さん?」
「そう。」 肩をそびやかすようにして答える。
「ミスター・サタンよ!」
えーと、聞いたことがあるような、ないような… 誰だっけ?
口には出さなかったけれど、表情で理解したらしい。
「格闘技の世界チャンピオンよ! 武道をやってるくせに知らないなんて おかしいわ!」
僕は道着を着ていた。 出がけに、お母さんから渡された物だ。
「あなた やっぱり あやしい! さては悪者ね? あいつらの仲間なんじゃないの?」
「違うよ! あ、危ない!」
小柄で華奢に見えるのに、ずいぶん力がある。
格闘家だという お父さんと一緒に、体を鍛えているのかもしれない。
「暴れちゃ危ないよ! 落っこちたら死んじゃうんだよ!」
「…。」
「そんなことになったら、お父さんが悲しむだろ。」
その一言で とりあえず、女の子は もがくことをやめた。
「君、家は?」 首を横に振る。
そうだよね、行くところがないから、あそこにいたんだ。
「お父さんやお母さんは?」
「ママはいないわ。 わたしが小さい時に死んじゃった。心臓が悪かったの。」
「そうなんだ…。 僕のお父さんも、心臓の病気で亡くなったんだよ。」
しばしの沈黙ののち、女の子は口を開いた。
「ねえ。 悪者じゃないなら、正義の味方なの?」
「う、うーん。 どっちかっていえば そうかな。」
「なら どうして、奴らを追いかけないの?」
痛いところを突かれた。
「… お母さんに止められてるからだよ。 お母さんを、一人ぼっちにさせたくないから。」
女の子は再び、口をつぐんだ。
「でも、今日は追いかけるよ。 やっぱり、黙って見てなんかいられない。
君を、安全な場所に下ろしたら… 」
「あそこに下りて。」
「え?」
話を遮り、女の子が指したのは やはり学校だった。
「パパとの約束なの。 パパが試合なんかで都を離れてる間に大変なことが起きたら…
とにかく 近くの避難所に行って待っていなさい。
世界じゅうのどこにいたって、パパは必ず迎えに行くからって。」
女の子の指示のおかげで、目立たないように下りることができた。
「ここはね、わたしが通ってる学校なのよ。」
… けれど そこも もはや学び舎ではなく、避難所の様相だった。
ケガをしている人も大勢いる。
そういえば、今 病院には患者があふれかえり、医師も薬も全く足りていないとテレビは伝えていた。
そのことを思い出していた時。 女の子が、ハッとした顔になった。
どうしたの?と尋ねるよりも早く、男の人の大きな声が 耳に飛び込んできた。
「ビーデルぅぅぅ〜〜〜!!!」
「パパ! パパ、ここよ!」
しっかりと抱き合う二人。
この人が、世界チャンピオンだという お父さん?
たしかに筋骨たくましく、よく鍛えてある感じだ。
顔は全然似ていないけど、髪の色と 淡いブルーの…
だけど光の加減で違って見える、不思議な色の きれいな瞳。
それは おんなじだった。
「パパ、わたし ほんとは別の場所にいたの。 あの子が ここへ連れて来てくれたのよ。」
女の子の言葉で、お父さん… サタンさんだっけ、僕の方に、笑顔で歩み寄ってくる。
大きくて温かい手で、力強く握手をされる。
「ありがとう! 君は恩人だよ。 この状態が落ち着いたら、ちゃんとお礼をさせてもらうからね。」
「いえ、そんな…。」
僕らのやり取りを、周りにいた人たちが指さしながら見ている。
「ミスター・サタンだ!!」
誰かが声を上げたために、人垣がますます大きくなった。
それを見て、サタンさんは声をかける。
「諸君!」
もちろん僕にではなく、周りの みんなに向かってだ。
「安心しなさい。 こんな状態は、間もなく終息する。
今、世界各地の軍隊が集結し、敵を倒す準備を進めている。」
人々は おとなしく、耳を傾けている。
「もしも軍隊が奴らを殺さず、生け捕りにできたならば…
私が この手で天誅を下してやるつもりだ!」
一拍置いたのち、拍手が沸き起こった。
「サーターン。 サーターン。」
独特の節をつけて、リングネームがコールされる。
そんな中、サタンさんの娘である女の子… ビーデルさんって言ったっけ。
彼女だけは、かなり複雑な顔をしていた。
意外と、僕とおんなじ気持ちだったのかもしれない。
でも このサタンさんという人は、言ってることの内容はともかく、
疲れきった人々を元気づけてくれたのは確かだ。
ヒーローっていうか、スターってやつなのかもしれない。
「あの、それじゃ僕、ここで失礼します。」
頭を下げて立ち去ろうとした僕に、ビーデルさんは言った。
「あんまり、無理しないでね。」
「うん。 ありがとう。」
「お母さんを、大切にしてあげて。」
大きく頷いた後、僕はその場で地面を蹴って、空高く浮かび上がった。
「な、なんだ! どういうトリックなんだ!?」
サタンさんの大きな声が、空の上にいても聞こえた。
ビーデルさんが ずっと手を振ってくれていたことが、何故だか とっても うれしかった。
『戦いなんか、大人に任せときゃいいだ!』
これは かつての、お母さんのセリフだ。
まだ子供だった僕を、戦いの場に向かわせたくなかったのだ。
けれど お母さんの言う 『大人』 の人たちはみんな、一人残らず死んでしまった。
心から尊敬していた、僕の師匠だったピッコロさん。
本意ではなかったのだろうけど、いろいろなことを教えてくれたベジータさん。
それにクリリンさんを始めとする、お父さんの旧友で、
僕とお母さんにとっては親戚のような存在だった人たちも。
亡骸も、形見さえも遺らなかった人もいた。
例の敵、人造人間が現れてから十年余り。 僕はまだ、奴らを倒すことができずにいる。
都市は壊滅し、人口は激減した。
それでも この星は、まだ辛うじて命をつないでいる。
十年以上経っても まるで変わらず、少年と少女の姿でいる敵。
奴らは支配や征服に、全く興味を示さない。
壊し、傷つける対象が少なくなってしまった今、一番の楽しみは…
僕との戦闘ゲームだ。
だから僕は、まだ生きている。
奴らの都合で、生かされているのだ。
そんなある日、僕は あの女の子と再会した。
十年余りの歳月を経て すっかり大人になっていたけど、僕にはわかった。
ちょっとだけ くせのある黒い髪、ぴんと延びた背筋。
きびきびとした物腰、そして淡く澄んだ、不思議な色のきれいな瞳。
「ビーデルさん。」
声をかけると彼女は驚いて、それでも にっこりと笑いかけてくれた。
「… どうやって ここまで来たの?」
「あっ、えーと…。」
「わかった! 空を飛んできたんでしょ。」
その言葉で、僕も笑った。
ここは生き残った人々が身を寄せ合って暮らす、小さな集落だ。
さっきから彼女には、幼い子供たち数人が まとわりついていた。
「ビーデル先生、この人だあれ?」
「先生の、子供の頃のお友達よ。」
子供たちからの質問に、そんなふうに答える。
ちゃんとした学校なんて、とうに無くなってしまっている。
だから文字や、簡単な計算を教えてやっているのだそうだ。
「先生なんて呼ばせるの、ほんとは照れくさいのよ。
でも、けじめをつけなきゃいけないから。」
「ううん、君にピッタリだよ。」
今度は、苦笑いを見せた。
それから僕たちは、いろんなことを教え合った。
その間 彼女はずっと、きれいな笑顔を見せてくれた。
その表情が、悲しげに曇ったのは二度だけ。
僕のお母さんが病気で死んでしまったことを伝えた時、
そして彼女のお父さん…
あの サタンさんが、亡くなったことを僕に告げた時だ。
死に至った理由は、教えてくれなかった。
ラジオ放送による 人造人間の出現情報は、ずいぶん減ってしまっていた。
だから、現場を押さえるためのパトロールは欠かせない。
それに僕は今、ブルマさんの息子で、あのベジータさんの遺児でもあるトランクスの師匠なのだ。
彼を、もっと強くしてやらなくてはならない。
けれども僕は、彼女、ビーデルさんに会わずにはいられなかった。
ほんの僅かな時間でも、彼女の笑顔が見たかった。
今やゴーストタウンとなった、西の都。
そこに半壊のまま、何故か放置されているCC。
その場所で僕はブルマさんに、正直な気持ちを打ち明けた。
ブルマさんは、思いのほか喜んでくれた。
「よかった…。 素晴らしいことよ、こんな世界にいても 誰かのことを好きになれたなんて。」
そして しみじみとした口調で、こんな話を始める。
「昔、チチさんは あんたを、ずいぶん厳しく勉強させてたわね。」
そう。 将来は えらい学者さんになれ、の一点張りだった。
「ま、お金を稼ぐ気のない孫くんへの当てつけもあったんでしょうけど…
あんたを、高校や大学に進ませたかったのよね、きっと。」
「…。」
「学校で たくさんの友達をつくって、青春を謳歌してほしかったのよ。
だから、本当によかったと思うわ。」
目がしらを押さえながら付け加える。
「その子、ここに連れてくればいいじゃない。
もう、危険なのは どこも同じだわ。 このCCで、一緒に暮らせばいいわよ。」
かつて、たくさんの居候を引き受けていたCC。
ある意味、とってもブルマさんらしい提案だった。
お母さんが亡くなってから、僕はCCでお世話になっている。
『君もおいでよ、一緒に暮らそう。』
そう言ったなら、彼女は何て答えるだろう。
自分を慕ってくれる子供たちのことを気にして、困った顔をするかもしれない。
『毎日は難しいけど、時々は連れて行ってあげるよ。 もちろん、君を抱いて、空を飛んでね!』
そう言ったとしたら、どうだろうか…。
その答えを聞くまでには、ずいぶん時間がかかってしまった。
あの後 すぐ、僕は左目に傷を負い、左腕を失った。
人造人間との戦いによって。
夕暮れ時、彼女の暮らす集落。
僕の姿を見て、彼女は絶句していた。
「心配いらないよ。 こんなの、たいしたことないんだ。」
できるだけ、明るい調子で続ける。
「僕は普通の人とは、鍛え方が違うからね。」
「パパも あの時、同じことを言ったわ…。へっちゃらだ、こんなこと何ともないって!」
彼女の大きな瞳からは、涙がぽろぽろ こぼれ落ちる。
子供たちが集まって来た。
「先生、どうしたの。 なんで泣いてるの。」
「何でもないんだよ。 ちょっと、君たちの先生を借りるね。」
肩を抱くようにして、少し離れた場所に移る。
声をあげて、彼女は泣いた。
僕の姿を見て、お父さんのことを思い出したのだろうか。
長いこと ずっと こらえていたものが、一気にあふれ出たのだろうか。
僕の胸に顔を埋めて、ぽつりぽつりと口にする。
お父さん… サタンさんとの、別れになった日のことを。
「パパは大ケガをして死んだの。 でもね、人造人間の奴らの攻撃のせいじゃないのよ…。」
初めて会った時と違い、今の彼女は髪を短くして、額を前髪で覆っている。
その下に、そう古くない傷があることに、僕は気づいていた。
ある事実を思い出す。
CCの地下はシェルターになっており、数十人程度なら収容できる。
食糧や医薬品の備蓄は惜しむことなく提供してくれるブルマさんなのに、
僕以外の他人を、その場所に入れようとはしなかった。
その理由についてだ。
人造人間による攻撃が始まって間もない頃、
ブルマさんと両親、乳飲み子だったトランクスは地下に避難した。
けれど、家族だけが助かることを良しとはせず、ブルマさんの両親は外に出た。
ケガのひどい人など、何人かだけでも救おうとしたのだ。
しかし、セキュリティの効かなくなったCCには既に たくさんの人が入り込み、避難所のようになっていた。
それはいい。 役に立てるならば むしろ、望むところだった。
なのに その中で、争いが始まったのだ。
食糧、あるいは金品を奪おうとして、刃物を振り回す奴がいた。
止めに入ったブルマさんの両親はそこで…
殺された。
この話を僕は、ベジータさんの口から聞かされた。
ブルマさんは決して、話そうとはしない。
この十余年の間に、亡くなった人は あまりにも多い。
確かに、人造人間に直接やられた人ばかりではない。
それでも やはり、奴らの仕業なのだ。
異常な状況が、人々を狂わせた。
ケガだけでなく 飢えや病気、満足な治療ができずに亡くなった人も多い。
僕は改めて、人造人間の奴らが憎いと思った。
「ビーデルさん、もう 泣かないで。」
涙を拭ってあげたいのに、右手しかないものだから追いつかない。
だから唇を押し当てて、頬に流れる涙を吸う。
しゃくりあげながら彼女は言った。
「さんって付けないで。 前から やめてって言おうと思ってたのよ…。」
「え、そうなの?」
目上の人に囲まれて育った僕は、少しだけ とまどった。
「ビーデルって呼んでよ。 わたしたち、恋人でしょ?」
返事をする前に、唇が重なった。
実は ここまでは、これまでにも何度かあった。
だけど今日は、何かが違う。
熱を帯びた唇は なかなか離れていこうとしないし、僕だって離したくない…。
彼女が、僕の手を取る。
片方だけになってしまったそれを 悲しげに見つめた後、自分の胸に触れさせる。
着ている服の下から直に、力を込めて強く。
体温が、鼓動が伝わってくる。
温かい、柔らかい。 指を動かしても、彼女は怒らない。
だけど…
「ダメだよ、こんなこと。」
僕はそれを、ちゃんと口にできなかった。
とっぷりと暮れた空には いつの間にか円い月が浮かんでいた。
満月、 僕の体に半分流れる、サイヤ人の血。
けれど決して、そのせいだけではないと思う。
「ごめん、ビーデルさん。 こんなつもりじゃなかったんだ。」
服を着ながら、彼女は答えた。
「やめてよ、ごめんなんて。 それに、さんって付けないでって言ったばかりでしょ。」
「あ、そうだった! ごめん ごめん。」
「もうっ。 あなたって、武道と勉強以外のこと 何にも知らないみたい。 ダメよ、そんなんじゃ。」
彼女は やっぱり先生っぽい。
そんな彼女に、僕は言った。
「ビーデルさん、僕と結婚してください。」
「えっ…?」
「そして、CCで暮らそうよ。 話したよね、ブルマさんとトランクスのこと。」
驚いている彼女に向かって、さらに続ける。
「ここのことが気がかりなら、何日かおきに通えばいいよ。
だから、ねっ。 僕の奥さんになって。」
「…。 恋人になったばかりだっていうのに、もう奥さんになっちゃうの?」
「ダ、ダメかな?」
「しょうがないわねえ。 いいわよ。」
「やった!」
少し腫れたまぶたの、だけど笑顔になった彼女と、もう一度キスをした。
彼女を抱きかかえて、すぐに飛んで帰ろうとした。
だけど片腕だけになってしまった僕には、それは難しいことだった。
休み休みならば、もちろん可能だ。
だが もしも途中で、人造人間に出くわしたら…
飛べない彼女を、護りきる自信がない。
「僕だけ一度帰って、明日 トランクスを連れてくるよ。 それなら大丈夫だ。」
「わかったわ。 ちょうどいいわ、子供たちに話さなきゃならないし。
明日ね。 待ってる。」
深く頷いた後、再び見せてくれた笑顔。
それが、最後になった。
僕は死んだ。
人造人間に、殺されたのだ。
ビーデルさん。
あ、いけない。 ビーデルって呼ばなきゃいけないんだったね。
そうだよね。 僕の奥さんになったんだもの。
約束を守れなくて、本当にごめんね。
僕は今、天国にいるんだ。
ここは何だか、たくさんの人で ごった返してるよ。
まだ会えてないけど、君の両親もいるんだろうな。
どうも みんな、人造人間のいる間は生まれ変わりたくないみたいなんだ。
トランクスが きっと、やってくれると思うけど。
けど 僕も、しばらくはここに居座るつもりだよ。
何十年か後に、君が来てくれるまでね。
これから ずっと、ここから見守っていくつもりだけど、
こっちで会えた時には改めて、いろんなことを教えてほしい。
君が その、きれいな瞳で見てきた いろいろなことを、僕に教えてほしいんだ。
ビーデルが、天に召された悟飯と あの世で再会するのは、それから六年ほど後のことだ。
最後に過ごした夜に 彼が遺していった子供、
パンと名付けた娘を育てるために無理を重ねたことが、彼女の体を蝕んだのだ。
自分が長くないと自覚したビーデルは、親しくなった老夫婦にパンを託した。
「わたしが死んだら この子を、西の都のCCに連れて行ってやってください。
この子の父親は、多分もう いないけど…
彼と縁の深かった人が、まだ いてくれると思うの。」
それから数カ月が経ったのち、古びた車が、西を目指して走り出した。
「さあ、パンちゃん、出発だよ。 お父さんに、会えるといいね。」
…
人造人間は もう現れない。
異なる次元に旅立ち、たくさんの人と出会い、
特別な修行を重ねたトランクスによって、滅ぼされたのだ。
荒れ果てた地球。 苦しい時代は まだ続く。
だが いくつもの新しい、幸せな出会いが、人々を待ち受けている。