ベジータに頼まれて・・ 

ううん、命令されて手がけていた戦闘服の、生地というか素材。 

それが、ようやく出来上がった。

天才であるわたしでも なかなか大変だった。

地球には無い材質を、分析することから まず始めなくてはならなかったのだから。

 

「実際に身につけて、戦ってみなければ 何とも言えんな。」

そんなふうに言ってるけれど、結構満足しているようだ。

 

ひとりでに体にフィットする生地ではあるけど、よりピッタリになるように。

わたしは巻き尺を使って、昔ながらの方法で ベジータの体の寸法を測っている。 

なんだか 洋服屋さんみたいだ。

戸惑ったような表情をしながらも、比較的おとなしく採寸を許すベジータ。 

これって、やっぱり王子様だからなんだろうか。

 

その時、彼が口を開いた。 

「奴らの服も、貴様が作っているのか。」

「え?」  「・・カカロットたちが着ていたやつだ。」 

ああ。亀仙流の道着のことね。

「違うわよ。 あれは別に、なんてことない普通の生地のはずよ。」

神様あたりが、パワーアップしてくれることもあるらしいけどね。

 

「孫くんの道着は、チチさんが縫ってるんだと思うけど。」

そういえば、他のみんなはどうしてるのかしら。

チチさんが、ついでに引きうけていたりしてね。

 

少しだけ笑ってしまったわたしに、ベジータが尋ねる。

「その、なんとか流とはなんだ。」  「ああ、あんたは知らなかったっけ・・。」

 

わたしは、亀仙流について、知っていることを簡単に説明した。

「・・孫くんの育ての親である おじいさんが、老師さまの一番弟子だったのよ。」

「フン・・。」  ベジータは、さもバカにしたように鼻を鳴らす。

「みんな、もうとっくに老師さまの力を超えちゃったけど・・

だけど、やっぱり尊敬して、慕ってるんだと思うわ。」

 

わたしは、彼に質問してみた。

「あんたにも、師匠みたいな人っていたの?」

 

師匠、だと ・・? 

王だった父親や、何人かの同胞の顔が思い浮かぶ。 

だが俺は、あえてそれを打ち消した。

「そんなもの、いない。 俺は一人で、実戦の中で腕を磨いてきたんだ。」

 

意外とあっさりした口調で女は言った。 「そうなの。」 

そして その後、こんなことを言い出した。

 

「戦闘服、満足するものが出来るように頑張るわね。」 

でかい青い目で、俺の顔をじっと見つめる。

「頑張るわたしに、何かないの?」  「何かって、なんのことだ。」 

女は言い方を変えた。

「してみる? 悪いこと。」  「何だと・・?」

 

 

ずっと思っていたことを、わたしはついに口にした。

「あんたに、されてみたいの。 悪いこと・・。」

彼はまるで、射るような視線をわたしに向けた。

 

床の上に、押し倒される。 着ていたものを、手で乱暴に掴まれる。

「ちょっと待ってよ。 自分で脱ぐわ。」 どうにか手を押しとどめた。

「もう。 破っちゃったら、戻る時に困るじゃない・・。」

そう。 ここは、ベジータの部屋だ。

「それと・・ ねぇ、ベッドがあるんだから、あっちでお願い。」

 

 

言葉通り、ためらうことなく服を脱いだ女を抱え上げて、ベッドの上に投げ出す。

「きゃっ、 乱暴ね。」

仰向けの姿勢の女は 文句を言いながらも、覆いかぶさる俺の頬を両手で包む。

そして頭を少し上げると、唇を重ねてきた。

女を抱いたことはあったが、それをしたのは初めてだった。

「ねぇ、あんたからも して。」 無視した俺の右手をとって、自分の胸に当てさせる。

「じゃあ、ここにキスして。」

 

今度は言うとおりにしてやった。 

女は腕をまわしてきて、俺の頭を抱きしめる。  「あっ ・・・ ん ・・。」

これまでに、耳にしたことのないような声。

「なんて声を出しやがる。 イヤらしい女だな。」

 

「そうよ。 だって、  気持ちいいんだもの、あんたのやり方・・  

ささやいた後で 女は言った。 再び、俺の手をとって。

「ね、 ここにさわって。」 

内腿の奥にある、繁みの中。 中指で触れたその部分は、既にしっとりと濡れていた。

 

「気持ち、いい ・・  喘ぎ声の合間に、女は 何度もその言葉を口にした。

 

事の後。 「すごく、よかった ・・ 付け加えて尋ねる。「・・でしょ? あんたも。」

 

問い掛けに答えることなく、俺は言った。

「まったくイヤらしい女だ。 一体、どこのどいつから こんな・・

 

ついこの間 出て行った男の顔が思い浮かんで、途中で黙る。

ぽつりと、女がつぶやいた。

「別に、教えられたわけじゃないわよ。 あいつとは 同い年だもの。」

そして、俺の顔を見る。 「わたしもね、実戦で腕を磨いたのよ。」

 

 

「チッ、そんなことと一緒にするな。」 

ほんの少しだけ笑顔を見せたベジータは、再びわたしに覆いかぶさる。

ごく自然に、唇が重なる。 

それだけの、ただ それだけのことが、わたしをどうしようもなく幸せにした。

 

ベジータが言い出す難題を、どうにかして叶えてあげたくなるのは、

彼が怖いからでは決してない。

王子様だから、だから何となく命令を聞いてしまうんだろうか。 

それもあるかもしれない。 でも、だけど、それだけじゃない。

わたしは、ベジータのことが、本当に・・・

 

彼の部屋。 

彼の匂いのするベッドの上で、ベジータの体の重みを感じながら、

わたしはそんなことを考えていた。

 

 OK

267.恋人は王子様

09 6月に開催されましたVB 69 Fes. 参加作品です。

文中の一部に、性描写があります。ご注意ください。]

馴れ初めの別バージョンのつもりです。