184.『デザート』

また、デジャヴ感あふれる話を書いてしまいました…。

まあ、今年のお祭りも終わりってことで…。時期は馴れ初めの頃です。

憎むように愛する、みたいなのってベジブルならではだなあ、と思ったりします。]

セックスとは、ギブアンドテイク。

受け取ったなら、同じくらいのものを返す。 ずっと、そう思ってきた。

その最中は 何度もキスして、片手を伸ばして愛撫を施す。

だから 後ろから攻められるより、向き合った形で するのが好き。

なのに この男ときたら…

それが気に入らない、認めたがらない。

もしかしたら、うまく 理解できないのかもしれない。

 

だからなのだろうか?

今日に至っては、わたしの両手首を後ろで縛り、

枕カバーを引きちぎって出来た ぼろきれを持って構えている。

目元と口元、どちらを覆って封じるか、思案しているらしい。

「なによ。 だったら いっそ、袋でも被せたら どう?」

その一言で決まった。

猿ぐつわの形で、口を、言葉を封じられた。

 

ベジータの、手袋を着けていない指が、わたしの最も感じる個所を苛む。

まだ小手調べだからか、水の音は聞こえてこない。

それでも、自分で触れているわけではないのに、

ぬるぬると溢れ出しているのが わかる…。

「フン、期待してやがるのか。 つくづく、いやらしい女だ。」

悔しいけれど、その通りだ。

自由を奪われた、こんな恰好をさせられているというのに、

恐怖心というものは まるで無かった。

どうしてなんだろう。

相手は、傷つけるのも殺すのも、何とも思わない男なのに。

この男を確実に倒せるのは、たった一人だけだっていうのに。

 

無防備な姿を晒して受ける、一方的な愛撫。

その強い快感は 何故か、甘い 甘い お菓子の味を思い出させた。

酩酊させて、狂わせる。

アルコールや薬物の方が、ぴったりくるかもしれないけど…

今は もう、水の音が、うるさいくらいに響いている。

彼の指、そしてシーツを汚している それが、甘く とろけるシロップに よく似ているから。

それでかもしれない。

 

「ん、 ん … !」

両膝を、持ち上げられる。

ああ、やっとだ。  やっと、欲していたものが 与えられる。

広げられて、剥き出しにされ、ひたすら 苛まれ続けた。

一旦、終わらせたかった。 登りつめてしまいたかった。

それなのに 彼の手は、指は、それを決して 許してはくれなかった…

「!! んーー … っ、」

溶けきってしまったような そこに 挿し込まれたもの、

それは、鋭くした 彼の舌だった。

もう イヤ、 もう。 

口が利けたら 絶対、こう 叫んだ。

欲しいの。 ちょうだい。 お願いよ…。

 

強い力で押さえ込まれて、腰を動かすことすら叶わない。

一方的に、まるで 浴びるように与え続けられる快感。

この男が わたしを抱くのは、欲望を晴らすためだけではない。

それだけは、はっきりしている。

目の前にいる相手を傷めつけずにいられない、本能のせいなのだろうか?

でも、それなら もっと、残酷な やり方をするはずだ。

支配、というのは 大げさだけど、言うことを きかせるためなのだろうか。

一歩 間違えれば苦痛になるほどの、強すぎる快楽によって。

そして…

これは わたしの希望だけれど、好きだから。 気に入っているから。

わたしを というより、体が、かもしれないけど。

 

今 挙げた理由は おそらく、全てあたっている。

その時々により、彼の中で順序が、割合が変わるのだろう。

 

気が遠くなりかけた頃、ようやっと、口を封じていた布が はずされた。

「は、 あ …、」

安堵して、大きく 深い呼吸をする。

ベジータが、口を開く。

「何が欲しいんだ?」

「え…?」

「言え。 はっきりと口に出したら、聞いてやる。」

彼の薄い唇が、皮肉な笑みで歪んでいる。

「じゃあ、手首のこれも はずして。」

「…。」

「ダメなの? それじゃ、キスして。」

 

ちょっと! 聞いてくれるって言ったじゃない!

抗議する前に、唇が重ねられる。

わたしの味がする。

乱暴に入り込んできた舌も、今は わたしのそれを、貪っている唇も。

わずかに離れた隙に、また訴える。

「ね、はずしてよ、 お願い…。」

苛立たしげに裏返されて、ようやく手枷が はずされる。

ああ、 やっとだ。

けれど そのまま、彼は入ってきた。

 

なによ、なによ、意地になっちゃってさ。

わたしと向き合うのが、抱き合うことが そんなにイヤなの?

後ろ向きにされたまま、わたしは彼に翻弄され続けた。

 

汚れたシーツに突っ伏して、わたしは、子供だった頃のことを思い出している。

甘いお菓子が大好きな母さんが、毎日 用意してくれた 美味しい おやつ。

お店で買った物もあったけど、多くは手作りだった。

とはいっても 高名なパティシエに師事したこともあるから、玄人はだしの出来だ。

それは もう、とろけるほどに美味しくて、もう一つ食べたいと よく ねだった。

すると 母さんは、決まって こう言った。

「ダメよ。 食べ過ぎたら、お食事が入らなくなってしまうでしょう?

 あとは お夕飯の後のデザートにしましょうね。」

 

ちょっぴり 不満だった。

けど大抵、口答えせずに従った。

母さんのことだから、駄々をこねれば聞いてくれたと思う。

あるいは父さんに頼めば、自分の分をくれたかもしれない。

でも、叶えられるであろうことを待つのは 苦ではなく、

むしろ楽しかった。

ベッドの上で彼を待つ時、わたしは よく、そのことを思い出す。

ただし 彼が与えてくれるもの、それは一切れのケーキではない。

もっと甘く、体の芯まで とろけるような、とてつもない快感…。

 

気絶したと思ったのだろうか。

ベジータが、動かない わたしを仰向けにした。

顔を じっと見ていることは、目を閉じていたって わかる。

「… !」

次の瞬間、わたしは、彼の背中に 自分の腕を きつく まわしていた。

これ以上 できないくらいに近づいて、

不満げなベジータと、それでも唇が重なり合って、わたしは とても幸せになる。

 

あの日、ドラゴンボールの力で、皆が地球に帰り着いた日。

わたしは言った。 この男に向かって。

『わたしが魅力的だからって、悪いことしちゃダメよ。』

なのに わたしたちときたら、悪いことばかりしている。

一方的に、されているわけでは決してない。

わたしからも、わたしの方も、しているのだ。