340.『悪趣味な』

ブウ戦の直前直後を、自分なりのかんじで書いてみました。

6月末にサイト作成に使用していたソフトの入ったPCが故障してしまい、

やむを得ずブログの方に上げていたものを再up致します。

(それに伴い、ブログの方は下げさせていただきました。)

7年ぶりに聞く、孫くんの声。

あの世からだという その声が、

来たる天下一武道会の日に、一日だけ戻ってこられる、

そう告げた時。

悟飯くんは、ものすごく うれしそうだった。

 

孫くんのことを知らないトランクスは きょとんとしていたけど…

わたしだって、うれしかった。

でも もっと喜んでいたのは、誰あろう、ベジータだ。

ちらりと顔を見ただけで、それは よくわかった。

黒い瞳は輝きを増し、気分が、何とも言えず高揚しているように見えた。

 

当たり前のことかもしれない。

彼、ベジータは、孫くんと決着をつけるために この地球に留まっていた。

その目的が ついに、

かれこれ10年以上もの時を経て、叶えられるというのだから。

喜ぶべきなのかもしれない。

セルとの戦いの後、ひどく無気力だった彼を思えば。

だけど、なんだか複雑だった。

だってベジータときたら、本当に機嫌がいいのだ。

この7年間、ううん、

出会ってから これまでの中で、一番かもしれなかった。

 

なんだか、考えてしまう。

わたしとのことは、

そして トランクスが生まれ、家族に加わってからの日々は、

彼にとっては そんなに、取るに足らないものだったのだろうか。

まったくの行き掛かり上、

それに すぎないものだったのだろうか。

 

夜。

明日は いよいよ、天下一武道会だ。

さすがの彼も、落ち着かないらしい。

ベッドの中、めずらしく ベジータの方から手を伸ばしてきた。

いつもは、何だ かんだと勿体つけるくせに…。

「イヤよ。」

拒否してみる。 すると、

「付き合え。 これも、妻の務めだろう。」

意に介す素振りを見せず、覆いかぶさり、いつものように愛撫を始めた。

「やめてったら!」

無視される。 

唇を、強く 何度も押し当てられる。

首筋から、胸元にかけて。

 

… 。 

もう、いい。 あきらめた。

せめて できるだけ、反応のない人形のようでいてやろうと決める。

実をいうと、これまでだって何度か あった。

失敗すると わかりきっている試みなのだけど…。

ところが、そういう時 ベジータは、いつも途中で やめてしまう。

自分の方から、離れてしまうのだ。

「チッ。 … 」

聞えよがしの、舌打ちとともに。

どうしてなんだろう。

欲望を満たすためならば、構わないはずなのに。

下品な わたしが のってこないと、つまらないのだろうか?

 

不機嫌になった背中に向かって、話しかける。

「あんたって、ひどい夫よね。

お金を稼ぐ気はないし、たとえばプレゼントなんて、考えたこともないでしょ。」

めずらしく、彼は即座に答えを返した。

「花や菓子なんぞ、この家には あり余っているだろう。」

「そういう問題じゃないのよね…。」

「じゃあ、何が欲しいというんだ?

腐るほど持っている服か? それとも、悪趣味な装飾品か?」

後者は、アクセサリーのことだろうか?

少し、へえっと思った。

悪趣味なんて言葉を ベジータの口から聞くなんて、思わなかったからだ。

「だから、気持ちの問題なんだってば。 もう、それはいいわ。

わたしが言いたいのはね、たまには喜ばせてほしいってこと。」

いったん、言葉を切る。

半身を起こし、耳元に向かってささやく。

「ただし、セックス以外のことでね!」

「チッ、 下品な女め …。」

そう。 

それこそが、これまで何百回、

もしかしたら何千回も耳にしてきた、彼の決まり文句だった。

 

「死なないでね、ベジータ。」

「なんだと?」

勝ってね、とは、あえて言わなかった。

「おまえは、この俺が負けると思っているのか?」

それに対し、こんなふうに わたしは答える。

「わかんないわ。 

戦闘のことは わかんないし、勝負は時の運 ともいうでしょ。」

たたみかけるように言った後、わたしは何度も繰り返した。

「ちゃんと、無事に戻ってきてね。 お願いよ。」 

ベジータは何も答えず、向き直ることもしてくれない。

けれど今夜、このベッドから、寝室から、出て行くこともしないだろう。

 

 

朝。  

気分を上げるために、買ったばかりの赤いワンピースを纏った。

生地や形がカジュアルだから、ハイカットのスニーカーにも合う。

その姿を見るなり ベジータは、何か言おうと口を開いた。

難癖を、つけるつもりだったのだろう。

だけど、口をつぐんでしまった。

大きく開いた襟元。

そこから見える首、胸元?

それに、昨夜自分が刻みつけた、唇の痕を見て。

「もちろん、スカーフを巻くわよ。 どっちがいいかしら…。」

手元には、二枚のスカーフがあった。

姿見の前で、合わせてから決めようと思ったのだ。

 

「え? あ … 」

何も言わずに ベジータが、そのうちの一枚、

レモンイエローの方を引っ手繰った。

そして すかさず、わたしの首に巻いてくれる。

「こっちの色が似合うかしら?」

「知るか。」

凝った巻き方なんて、できるはずもない。

だから、ごく普通の結び方。

だけど … 

「なかなか、趣味がいいじゃない?」

うれしくて、キスで お礼をしようとした。

それなのに、彼ときたら パッと離れてしまった。

その理由は、 

「あら。 トランクス、おはよう。」

 

邪魔しては いけないと思ったのだろうか?

少し もじもじした後で、トランクスは こう言った。

「少年の部なんて、まともな奴は悟天しかいないよ。

あーあ、つまんない。 大人と戦いたいのになあ…。」

それは もう、何日も前から、

幾度も聞かされていた ぼやきだった。

運命の日。

その日は、そんなふうにして始まったのだった。

 

 

大きなショックを受けて、泣いて、安堵して …

笑った。

そうして わたしたちは、我が家であるC.C.に戻ってきた。

正確に言えば、元通りにしてもらった地球の、都の それなのだけど。

それでも、よかった、戻ってこれて。

生きていて、ううん、 生き返ることができて。

そうよ。 生きていれば、文句も言える。

こんなふうに ベッドの上で、

貪るように わたしを抱く この男を見据えて、思うことだってできるのだ。

 

『ほら、見なさい。 

あんたはね、わたしがいなけりゃダメなのよ。

少なくとも この地球では、わたしのそばが あんたの居場所なの!』

 

ああ わたしは、本当に趣味が悪いと思う。

だって この男は また、きっと、似たようなことを繰り返すだろう。

大切にしてきたこと、積み上げてきたものを いとも容易く、台無しにしてくれるだろう。

でも、それでも。

生きて戻ってきてさえ くれれば…。

 

わたしの表情に、彼は気づいたようだ。

「なんだ。 どうした?」

「ううん。」

なんでもないの。 

そう続けようとしたけれど、やっぱり言ってしまう。

「あんたって、女の趣味が いいわよね!」

ベジータの口の左端が、ニヤリと持ち上がった。

 

この後、体を離した後も 彼は、

この部屋のベッドで、わたしの隣で眠るだろう。

どこかに行ってしまうとしても、それは朝になってから。

もしかしたら そのことこそが、

わたしとベジータの過ごした、7年間の日々の結果なのかもしれない。

そんなことを思いながら、わたしは身を任せている。

溢れるような快楽に。

そして その後 訪れる、愛する夫の傍らでの、安らかな眠りに。