350.『賭け』

また似たような馴れ初め話を書いてしまいました…。

BUT、管理人的ベジブル感が 結構込められていたりします。

ブルマが おぼこではなかったことが、

二人の仲の進展の大きなポイントであるように思うのです。]

『わたしが魅力的だからって、悪いこと しちゃダメよ。』

悪いこと。  今のところは まだ されていない。

わたしの着ている物 … 

たとえば、体にフィットしたTシャツやミニスカート、ショートパンツ。

それらを、あの鋭い目で ジロリと見た後、いかにも不快そうに顔を背ける。

それくらいだ。

 

でも その代わり 次々と、難しい、ひどく ややこしい内容の命令をしてくるようになった。

例の、不思議な少年からの警告の後、それは顕著となった。

そんなわけで わたしは今日も、重力室の調整をさせられている。

専門の器具を使って装置を開き、内部のあちこちを点検する。

そういう時でも彼、ベジータは、リラックスしているとは言い難い。

少し距離を置いた場所から、しっかりと わたしを監視している。

 

「あーあ。」  手を動かしながら、ため息をつく。

今日は本当に、ろくなことがなかった。

仕事の方でトラブルが起こり、その対応に追われた。

担当者に一任できることはしないと、きりがなくなる。

父さんに言われていたことが、よく わかった。

 

でも それ以外にも、もっと腹の立つ出来事があった。

わざわざ 社長室宛てに、こんな電話が かかってきたのだ。

『ヤムチャさんは もう、新しい恋人がいるんですね。

 あなたと一緒にいた時より、ずっと幸せそうですよ。』

声色を、変えていたって わかる。

電話の主は ヤムチャと一時、同じバイト先にいた女の子だ。

当時は浮気を疑った。

けど 結局、その子の片思いで、相手にされず終わったらしい。

ヤムチャの、本当の相手は別の人だ。

でも、わたしの方に嫌がらせをしてきたってことは、その人とも もう …

今は一人で、厳しい修行を頑張っているのだろうか。

だけど わたしは、心の中で応援をするだけだ。

だって もう、ただの友達。  恋人ではないのだから。

 

「まだ かかるのか。 さっさと終わらせろ。」

背後から、ベジータの苛立った声が聞こえる。

何よ、もう! 疲れてるところを、厚意でやってあげてるっていうのに!

「 … 」

工具を、わざと床に落とした。

「? なんだ、どうした?」

膝をついて、倒れたふりをする。

「おい!」

… 呼びかけだけなの? 抱き起こすくらい、してくれたっていいのにね。

だから、こう言ってみる。 「苦しい … 」

「なんだと?」

「胸が苦しいの。 ね、ボタンはずして。」

もちろん 何ともない。 反応を、見てやるためだ。

「な…! 自分でやれ!」

「手、しびれちゃって動かないの。 ね、お願い。」

ためらっている様子だった。

それでも彼は、ブラウスの襟元に手をかけた。 

小さく舌打ちをした後で。

 

帰宅して、すぐに呼びとめられた。

だから わたしにしては比較的、オフィス向けの かっちりとした服装をしている。

それも あって、こういうことを思いついたわけだ。

「まだ、苦しいわ …。」

「どうしろっていうんだ。 医者でも呼んで来いというのか?」

「ううん。 下着、はずして。」

「なに?」

手を取って、当てさせる。 偶然にも、フロントホックの物を身に着けていた。

そして今日 ベジータは、手袋を着けていない。

わたしの胸に、指先が触れる。

相変わらず不機嫌な表情。 でも 頬が、赤く染まっている …。

ふふっ、 そうでしょうとも。

戦闘民族の王子様っていったって、健康な若い男だもんね。

 

「あら? 治ったみたい。 ごめんね、どうも ありがと。」

体を起こし、熱い頬に軽くキスして、

うろたえる彼を尻目に、いい気分で作業を再開する。

そのはずだった。

けれど やはりというか、そうは いかなかった。

「キャッ!」 

硬い床に仰向けにされ、男が覆いかぶさってきた。

荒い息、ギラギラとした目つき。

怖かったけど、好奇心が勝ってしまった。

 

「あん … 」

少しばかり乱暴だけど、暴力的というほどではない。 女の扱い方は、知っているみたいだ。

「ねえ あんた、恋人 いたの?」

… 答えない。 

本当は、何人知っているのかと聞いてみたい。

わたしはね、一人だけなのよ。

もったいないわよね、 もっと もっと、たくさん恋をするつもりだったのに。

いつの頃からか、戦えない男の人のことは、好きになれなくなっちゃったのよね …。

「… っ!」

広げられ、持ち上げられて、彼が入り込んできた。

思わず、口にしてしまう。 「痛い!」

「何だと?」  冗談言うな。 そう言いたげな彼に向かって、付け加える。

「そうじゃなくてね、背中が痛いの! だって床の上だもの。」

すかさず、提案してみる。

「わたしが、上になってもいい?」

 

面喰った様子のベジータ。 彼の、下腹部を目がけて またがる。

腰を、沈めていく。 「あんたは、鍛えてるから平気なんでしょ?」

そんなことを言いながら、快感に合わせて腰を動かす。

「あ、 あ、 いい … っ、」

「チッ、信じられんほど下品な女だ。」

憎々しげな彼に向かって、言い返す。

「ふんだ、なによ。 王子様には、こういう役の女がいるもんなんじゃないの?」

「こういう役、だと?」

あら。 めずらしく食い付いてきた。

「そう…。 正式な妻を迎える前に、女のことを教えてあげる役、よ …」

「貴様なんぞが 何故、そんなことを知っている?」

「ん? 前に 映画で、そういうのを観たの… ああんっ!」

もう 自分では、動けなくなってしまった。

腰を両手で、強い力で押さえ込まれて、突き上げられる。

「あ、あっ、 もっと … 」

「くっ、 この … 」

ほどなくして わたしの中は、彼の放った熱いもので満たされた。

 

ここは重力室。 普通の部屋ではないから、拭く物が何もない。

仕方がない。 シャワーを浴びることにする。

入口付近に、小さなシャワールームがある。

トレーニング後のベジータのために、わざわざ設えた。

わたしまで使うことになるなんて、思ってなかった。

 

まるで それが当然のように、ベジータも入ってくる。

… 仕方ない。 シャワーで丁寧に、汗と汚れを流してあげる。

思い立った わたしは 腰を落とし、彼の体の中心を、文字通り くわえ込んだ。

「何しやがる!」

その声とは裏腹に、口の中は、あっという間に いっぱいになる。

頬張りきれなくなった それを、舌先で、唇で愛撫する。

「… それも、映画とやらで観たのか?」

「うん、 そうよ …。」 そのくらいの返事はできた。

ただし、普通の映画ではない。

それほどハードではなかったけれど、成人向けの内容だった。

ずっと前、18くらいの頃、ヤムチャと一緒に観た。

奥手だった あいつをその気にさせようと考え、他の映画と間違えたふりをしたのだ。

なんだか わたし、似たようなことをしてるわね。

今も、昔も …

 

そう思った瞬間。 ベジータに、顔を両手で押さえ込まれた。

「ん、 くうっ …」

腰を、激しく動かしてくる。 自分の快感だけに合わせて。

喉がつかえる。 苦しい。 苦しくて、涙が滲んでくる。

ああ それでも、 もう少しで …

けれど、そうはならなかった。

「ああっ!」  

彼は再び、わたしの奥に入り込む。

注ぎ込まれる。

引き剥がされて 後ろ向きにされ、壁に手をついた姿勢をとらされた後、

しっかりと 腰を押さえ込まれながら。

 

それから。

彼の部屋、ベッドの上で、わたしは やっと普通に抱かれた。

重力室とシャワールームでのあれは、抱き合うという感じではなかった。

向き合って、お互いの体温を感じ合える、この形が一番好き。

付け加えると、そこで ようやく、キスも交わしたのだ。

どちらからだったかは、覚えてないけど。

 

わたしたちの関係は、その日限りでは終わらなかった。

悔しいけれど、抱かれるたびに わたしは、彼のことを好きになっていった。

ベジータの方も、そうだったと思う。 絶対。

だけど彼の場合は 朝が来て、離れてしまえば 忘れてしまう。

そうだったのだと思う。

 

好きだとか、愛してるという言葉は無かった。

だから、恋人ではなかったかもしれない。

けど しばらくのちに わたしは、彼の子供の母親になった。

そして いつの間にか、妻、にもなっていた。

いつまでも、年をとっても まるで、恋人みたいな妻。

そうなれたら いいなと、今は思っている。

 

ところで、ベジータに … なんていうか 仕掛けたことは、

今思えば、かなり 大きな賭けだった。

やっぱり、何をするか わからない、危ない男だったから。

つまり わたしは、賭けに勝った。

だって、とっても幸せで、うんと愛してもらってるもの。

言葉の方は、相変わらず無いけれど。