026.『ささやき』

馴れ初めの頃の、毎度おなじみ ベッドの上のお話です。

同じような話がいくつもあるのですが…

体から先に結ばれてしまうものの次第に心の方も… という物語が、

すごく好きなんですよね。]

夜、 ベッドの上。

横たわる俺の背中に、女が寄り添っている。

向き直り、その 華奢な肩を 引き寄せてやるのは容易い。

だが そうした時に、この女が俺に見せる表情。

無意識なのかもしれないが、やけに得意げな、

まるで、『してやったり』 とでも言っているかのような…

「くそっ。」

無性に腹立たしくなり、あえて手を出さずにいる。

 

 

何の やせ我慢なのか知らないけれど、

ベジータときたら ずっと向こうを向いたままだ。

よーし、それなら …。

横たわる彼の体を ひょい、と跨いで移動して、ちょうど向き合う形になる。

眠っていない唇を、チュッと短く ついばんだ後、下半身に手を伸ばす。

 

「貴様! いきなり 何しやがる!!」

そう、わたしは素早く、彼の下着を下ろしてしまった。 穿いていた、ズボンごとだ。

「決まってるでしょ。」

顔を埋めて、口に含む。

頼りなげだったはずのものは すぐに、熱く硬く、膨らんでいく。

ベジータに、これをしてあげるのは初めてだ。

ベッドを共にするのは、えーと、何回目だっただろう?

そろそろ、いいかなと思ったのだ。

 

「… やめろ。」

肩を掴まれ、揺り動かされる。

「おい!」

もうっ、 何よ!

知らんぷりをして、続ける。

もう少し。 あと もう少しで 先端が、おかしいくらいに膨らんで、弾ける。

なのに、 「キャッ!」

髪の毛を掴まれて、無理やり引きはがされてしまった。

「痛―い! ちょっと! ひどいじゃないの、 何すんのよ!」

「こっちのセリフだ、下品な女め!」

… ?

この人、これまでに あれを、してもらったことが無かったんだろうか?

たとえ 恋人、決まった相手が いなかったとしても。

彼のような立場の人には、快楽を与えるための存在というのが、いるものではないだろうか?

ああ、そうか。

この人は王子だけれど、王子様として暮らしていたわけではないんだった。

 

いたわしいと、思ったからではない。

だけど 下着を脱いだ わたしは、仰向けになった彼の下腹部を目がけて、一気に腰を沈めてしまう。

「ん … っ、」

「こいつ…。 いったい どこまで下品なんだ。」

そうね、確かに。

ベジータからは まだ、何もされていない。

それなのに わたしの体は、準備ができていた。

もう十分に、潤っていたのだ。

 

彼の上で、ゆっくりと腰を使う。

胸をさわってほしいのに、取った手を払いのけられてしまう。

表情は、ずっと憮然としたままだ。

「何よ、どうして? 楽ちんで、気持ちいいでしょ?

 男の人は みーんな、これが好きなんだと思ってたわ。」

もちろん、一般論のつもりだ。

なのに この男ときたら、こんなことを言いだすではないか。

「フン。 ずいぶんと ぐうたらだったんだな、あの優男は。」

「 ! 」

「今も、どこかの女を腹の上に乗せて楽しんでいるのか?  いい御身分だ。」

… 自分だって、そうじゃないの。

だけど、 もし本当に、同じような息抜きをしていたとしても 関係ない。

恋人ではなく 友だちに戻ったんだし、第一、わたしの方だって …

でも、 あんまりだわ。

膝を起こして、わたしは 彼の体から離れた。

 

できるだけ、端の方に横たわる。

ベジータに、背を向けてしまう形で。

ベッドの、きしむ音が耳に届いた。

この部屋を出て、どこかに行ってしまう気だろうか?

だけど、違った。 「きゃっ … 」

後ろから伸びてきた手に、体の中心、最も敏感な部分を捉えられる。

くやしくて、ぴったり閉じてやろうとするけれど…

無駄だった。 「ああっ、」

さらに 大きく広げられる。 やっぱり後ろから、ひょい、と足をかけられて。

 

顔は見えない。 けど その代わり、熱い吐息が首筋にかかる。

わたしは どうにか手を伸ばし、彼の体の中心を捉える。

口の中で、その後はわたしの体の奥で、硬く大きく膨らんだ物。

「この女、まだ懲りてないのか。」

「いいじゃない、ギブ&テイクよ。 あんただって、気持ちいい方がいいでしょう?

 … あんっ!」

手首を掴まれた。

一方、もう片方の手指は依然、わたしの奥の、最も感じる個所を弄んでいる。

 

ところで、この男は 何故、わたしの方から 何かしてあげると機嫌が悪くなるのだろうか?

女にリードされるのが許せない?

それとも、やきもち ?

ああ、でも 今は、ややこしいことは考えられない。

「ベジータ、 ねえっ …」

「なんだ。」

「もう しないから、手首、離して …」

「信用できんな。」

「ホントよ…。 あのね、それで そっちの手でね、」

「なんだ。 さっさと言え。」

「おっぱい、さわってほしいの … ああん!」

強く、いきなり、鷲掴みされた。

「もうっ、乱暴ね。 きゃあっ!」

抗議の言葉を言い終えるよりも早く、仰向けにされた。

両膝を掴み、腰を持ち上げるようにして、彼は一気に入って来た。

高い位置から弾みをつけて、

わたしの体の最も奥を、目がけるようにしながら。

 

事の後。  また背中を向けてしまった彼に、話しかけている。

「ねえ、ベジータ。」

本当は、さっき伝えようとした。 けれど、とても無理だった。

「なんだ。」

「男が上になる あれってね、人間だけのものなんですって。

 すごく無防備な姿勢でしょ、特に、下にいる女の方。

 だから他の生き物では、ありえないんですって…。」

サイヤ人も、そうなのだろうと思った。

でも ベジータは、何も言わない。

「わたしは あれが、一番好きなのよ。

 無防備だって へっちゃらよね。 なにせ、相手が あんたなんだもの。」

そして、あえて こう続けてみる。

「だって あんたが、今の地球で 一番強いんだものね。」

やや あって、ベジータは答えた。

短く、ひどく素っ気なく。

「フン。 当たり前のことをぬかすな。」

「ふふっ、そうよね。 この わたしが手掛けた…

 C.C.の科学力の粋を集めた重力室や、戦闘服を使って特訓してるんだもの!」

 

その後 わたしは、一時間ほど前と同じようにして移動し、ベジータと向き合った。

「でね、さっきも言ったけど、どうして あれが好きかっていうとね、」

「楽だからか?」

「違うわよっ。 顔が、見える方がいいの。 途中で、キスだってできるし。」

そう言って また、あえて短いキスをする。

「でも、そういう体位って他にもあるわね。 こんなふうにして…」

たくましい首の辺りに、腕をまわして続ける。

「抱っこしてもらいながらの 〜 とか。 それに、女が上になってても できるわ。

 ね、試してみちゃう?」

彼はといえば、すっかり あきれ顔だ。

「まったく おまえという女は…。」

「あら、教えてあげてるのよ。 あんまり知らないみたいだから。

 だって どうせなら、より気持ちいい方がいいでしょう?」

そうよ、それに、幸せな方が。

最後のそれは、言わなかった。

 

 

そんな くだらん会話の後で、俺は結局、もう一度 女を抱いてやった。

別に ああ言われたためではないが、仰向けにした形で交わった。

だが、 いつも思うことなのだが、

普段とは違う しおらしい顔を見ていると、次第に …

何とも形容しがたい、味わったことのない感情が湧き上がってくる。

これは何だ。  いったい何なんだ。

苛立ちを振り払うべく、強く、何度も、打ちつけてやる。

喘ぎ声の合間、女が いつも、決まって漏らす一言がある。

「好き … 」

 

ささやくような その一言が、全ての答えであるということ。

それを、その頃の俺は まだ知らずにいた。