355.マジメな征服者
[ 第2回VB69Fes.参加作品です。 馴れ初め別ver.です。
しまった。 ちょっと、言い過ぎただろうか。
目の前に立っている男の顔つきを見て、わたしは後悔していた。
だって・・・
ここ何日か、仕事が本当に忙しかった。
なのに この男ときたら、 久しぶりに早く帰って来られた わたしを捕まえて、
重力室だの 戦闘服だの、ややこしいことばかり言ってくるのだ。
それに・・・
忙しすぎて、しんみりする暇も あまり無かったんだけど、
少し前に わたしは、ヤムチャと別れた。
円満と言っていい別れだったと思う。
今度会う時には きっと、まるで何もなかったように、笑顔で話をするだろう。
だけど、 ふとした拍子に、何ともいえない空虚な気持ちになってしまうことがある。
おそらく これは、喪失感と呼ばれるものだ。
ヤムチャは修行、 わたしは仕事。 べったり一緒にいたわけではなかった。
それでも、16歳の頃からの 長い付き合いだったのだから。
そんなわけで、わたしの精神状態は最悪だった。
とにかく、 ものすごくイライラしていたのだ。
向き合っている男・・・ ベジータは、
突き刺すように 鋭い視線をこちらに投げかけ、問いかけてくる。
「貴様、 誰に向かって ものを言っているんだ?」
「誰って・・・」
あんた。 ベジータ。 侵略者。 サイヤ人。
頭に浮かんだ単語とは、別の言葉を口にする。
「王子様、よね。」
・・・
男の口元が、皮肉に歪む。
強い力で、わたしは壁に押し付けられた。
「痛っ! 何するのよ!!」
「自分が何者なのかを、わからせてやるだけだ。」
伸びてきた男の手が、襟元を掴む。 一気に引きちぎってしまうつもりだ。
「イヤよ、 こんなの。」
必死に訴える。
「ねっ、 お願い。 こんなのはイヤ。」
ベジータの口が開いて それを一蹴してしまう前に、わたしは続ける。
懇願ではない。 説得だ。
「自分で脱ぐわ。 だから、乱暴はやめて。」
着ていた物を手早く脱ぎ棄て、下着だけの姿になる。
「それに、こんな所じゃ・・・。 隣りの部屋に、仮眠用のベッドがあるの。
そっちに行きましょうよ。」
不本意ながら、こちらから誘う形になってしまう。
だって・・・
ベジータを、この家に招き入れたのは他の誰でもない、 わたし自身なのだ。
その男に服を破かれ、壁に手をついた姿勢をとらされ、後ろから無理やり・・・
なんて、 あまりにも みじめではないか。
ベジータの表情からは、わずかながら戸惑いが見てとれた。
もしかすると 脅すだけが目的で、本気でレイプする気は なかったのかもしれない。
だけど ベッドと、裸のわたしを目の前にして、引っ込みがつかなくなってしまったようだ。
わたしも、 同じだ。
けれど 同時に、この男に抱かれること自体は、決してイヤではない。
そう思った。
・・・ 彼のやり方は、少し乱暴かもしれない。
もっとも 比較する対象は、たった一人だけなんだけど。
それでも、面白くなさそうな顔をしながらも、
抗議や 短い言葉で示す要望を、一応は聞き入れてくれる。
女と抱き合っているところなんて あまり想像できないけれど、
恋人・・ 決まった相手が、ちゃんと いたのかもしれない。
「あ・・ ん・・ 」 気持ち、いい・・。
体の そこかしこが、じんわりと熱を帯びてくる。
奥の方から たっぷりとあふれ出てくるもの。
その量が、半端ではない。
それで わたしは、あることに思い当った。 頭の中で、日にちを数える。
そうか。 だから さっき、あんなにイライラしちゃったのね。
体って、正直だわ・・・。
両膝の、裏側を掴まれ 折り曲げられる。
やや高い位置から 弾みをつけるようにして、彼は一気に入ってきた。
「・・・!」
その時、 わたしの体を貫いたもの。 それは強い快感、 そして・・・
「痛っ・・ 」
鈍い痛みだった。
意外にも、彼は そのまま突き進もうとはしない。
だから、瞼を開いて わたしは言った。 「大丈夫よ。」
あんたのせいじゃないのよ。
「ね、 動いて。」
そして あんたも、気持ち良くなって・・・。
仰向けの姿勢で腕を伸ばし、彼の腰を押さえ込む。
ざらついた、 わずかに盛り上がった個所に気付く。
尻尾の痕だ。
感触を確かめたくて、指を、手のひらを動かしてみる。
なのに、 「ああっ ・・・ 」 それは不可能になった。
理由は 体位を変えられてしまったこと、
それと・・
そんな余裕は、まるで なくなってしまったせいだ。
「すっごく、 よかった。」
ああ、 この男が、わたしの恋人だったなら。
両腕を背中に きつくまわして、耳元にそっとささやくのに。
ぼんやりと考えていた、 その時。
体を離した後、 当のベジータの動きが止まっていることに気付いた。
「どうかした? ・・あら、やだっ!!」
よく見ると、シーツも少し汚れている。
あわてて体を起こし、 サイドテーブルの方に目をやる。
だけど、ティッシュの箱が置かれてない。
「この部屋、 普段使わないから・・。」
あ、 でも、シャワールームがついているんだった。
ベジータの手をとる。 「来て。 お詫びに、洗ってあげる。」
流すだけでは済まさずに、ボディソープも泡だてる。
結構、汗をかいていたみたいだったから。
憮然としながらも、されるがままになっている彼。
それは やはり、王子様だから なのだろうか。
もしも 故郷の星が滅びていなければ、下女か誰かに 体を洗わせていたのだろうか。
ふと思いついて、こんなことを口走る。
「わたしねえ・・ あんたが、初めてだっだのよ。」
「なに?」
「だって、見たでしょ? さっき・・。」
もちろん嘘だ。 我ながら、品の無いジョークだと思う。
「貴様には、男がいるだろうが。」
「別れちゃったけどね。 ・・ヤムチャには、最後までは許さなかったのよ。
どうしてかっていうとね・・、」
わたしは、出まかせを続けることにする。
「地球ではね、セックスしたら その相手と結婚しなきゃいけないの。
昔から、そういう決まりなのよ。」
理由は、いろいろなことや物を、まるで当然のような顔で受け取る この男の、
表情を変えてみたいと思ったためだ。
「何を言ってやがる・・。」
「まあ、別に罰せられるとかではないわよ。
うんと小さかった頃から刷り込まれている、動かしがたい価値観ってとこかしら。」
シャワーを止めて、タオルを手渡し、こんな言葉で締めくくる。
「だから わたしは、もう他の人とは・・・。 でも、いいの。
王子様の相手ができるなんて、光栄なことだもんね。」
完全なる皮肉だ。
タオルで体を拭いている ベジータは、何とも形容しがたい表情になっていた。
少し、胸が すっとする。
彼がC.C.に来てから起こった いろいろを考えたら、
この程度の冗談は 許されるのではないか。
それに・・・
ベッドの上で ベジータは、一度もキスをしてくれなかった。
抱かれている最中、何度となく唇が重なった。
けれども それは全て、わたしの方から したものだった。
恋人ではないのだから当然なのだろうけど、少しだけ 寂しいと思った。
その後の話。
わたしとベジータの関係は、一度きりでは終わらなかった。
だけど 例の冗談、出まかせのことは、すっかり忘れてしまっていた。
あまりにも、いろいろなことがあったから。
あの日から、10年余りが過ぎた夜。
「あら ヤダ! ごめん!!」
同じことが起こった。
「少し おなかが痛いな、って思ってたんだけど・・。 来て。 シャワーで洗ってあげる。」
それで、思い出した。
昔と同じように、わたしに体を洗わせながら ベジータは言った。
「おまえ・・ あの話は、嘘だったんだな?」
「え? ああ・・ まあね。」
曖昧に答える。 覚えてたのね。 っていうか、信じてたのね、この人・・・。
「ねえ、ベジータ。」
いかにも不機嫌そうな、彼の顔を覗き込む。
「・・なんだ。」
「どっちに腹をたててるの?」
「なに?」
「Hした相手とは、結婚しなきゃいけない決まりだって言ったこと? それとも、」
バージンだって、嘘をついたこと?
言い終わらぬうちに、口を塞がれた。
シャワールームの壁に押し付けられて、まるで 獣が 噛みつくようなキス。
相変わらず乱暴だ。
でも、彼のやり方は いつだって わたしの体を熱くさせ、芯から とろけさせていく。
「どうしよう。 また、したくなってきちゃった・・。」
「チッ、 まったく・・。」
タオルを取ろうと伸ばした 屈強な彼の腕を、そっと制する。
「ここでいいわよ。 ベッドの上じゃ、汚れちゃうから。」
あきれた様子で、おなじみの一言を 彼はつぶやく。
「下品な女だぜ。」
そう。 相変わらず下品な女である わたしは、今、王子様に身を委ねている。
ベジータが ここに留まってくれた理由。
もしかして その一つは、あの日ついた わたしの嘘、だったんだろうか?
この人なりに、責任をとろうとしてくれたのだろうか?
わからない。
だけど もう、どっちだっていいの。
激しい快感に、身をまかせる。
今は わたしの夫となったベジータ。
王子様、 愛する男、そして、意外とマジメだった征服者。
事の後。
向き直ってから、背中にきつく腕をまわして、キスをする。
今でも、わたしからすることの方がずっと多い。
だけど もう、どっちだって構わない。
心から、そう思っている。
なるべく遠まわしに表現したつもりではありますが、
下品ですので、ご注意ください・・・。]