116.『星の王子様』

NLCP強化委員会参加作品です。

この時期にしては ちょっと仲が良すぎだとは思いますが、筆者好みということで・・・。]

ベジータの部屋に行くこともある。

けれども、今日は逆だった。 わたしの部屋の、ベッドの上。

終わった後で 体を離した彼に、わたしは話しかけた。 「あのね・・

もう一度引き寄せられたら もう、朝が来るまで瞼を開けられなくなってしまう。

そして・・・ 

朝になったら 彼はいつでも、いつの間にかどこかへ消えてしまっているのだ。

「明日、わたしの誕生日なの。」

 

「なんだ、 それは。」 「え? 生まれた日ってことよ。」

ベジータが生まれた星では、そういう呼び方をしないのだろうか。

「地球ではね、お祝いをするの。 おいしいものを食べたり、贈り物をしたり。」

興味なさげな彼に、わたしは付け加える。

「それでまた、一年間頑張ろうって思うのよ。 いい習慣でしょ?」

「・・以前にも そんなことを言ってたぞ。」

「あら、そうだった?」

 

クリスマスか何かの時に、同じような説明をしたかもしれない。

「ふふ・・。 あんたも、結構長いこと 地球にいるってことね。」

ドラゴンボールの復活を待って、 孫くんの帰りを待って。

そして 今は、人造人間という新たな敵を迎え撃つために、この人はここに留まっている。

 

そんなことを考えていたら、ベジータが起き上がった。

ベッドから出て、身支度を始める。  「もう、行くの?」 

返事をせずに、窓の方へ歩いて行ってしまう。

シーツを体に巻きつけて、わたしもベッドから出る。 見送るために。

リモコンを使って、窓を開ける。 「わぁ・・・

今夜はよく晴れているらしく、星がとてもきれいに見える。

「こんな夜空を飛べたら、最高でしょうね。」

 

そう言ったわたしを一瞥して、ベジータはつぶやいた。 「何か着ろ。」

「えっ?」 「さっさとしろ。」

言うとおりにしたわたしを、彼は両腕でしっかりと抱え上げた。

 

空の上。 目の前に広がるたくさんの星。

そして眼下には、街の灯りが宝石のようにきらめいている。

風が少し冷たいけれど、そんなことは気にならない。

「すごいわ・・。 きれい・・ 本当にきれいね。」

歓声をあげていると、ベジータがぼそりと言った。

「おおげさな奴だ。 これまでだって、何度もこうして飛んでるんだろうが。」

「そんなことないわよ・・。」

 

舞空術を自在にこなせるようになってからのヤムチャとは、ケンカばかりだったもの。

どうして ああなってしまったんだろう。

楽しいことも、たくさんあったはずなのに。

 

首を横に小さく振って、わたしはベジータに尋ねる。

「ねぇ、 あんたの誕生日って いつなの?」

「・・この星とは、暦の数え方が違う。」

ああ、 やっぱりそうなのね。

十代の頃の孫くんの幼さと、その後の急激な成長ぶりをわたしは思い出していた。

 

「残念ね。 わかってたら、ちゃんとお祝いしてあげたのに。」

ごちそうをたくさん用意して、プレゼントだって。

だけど、ベジータの欲しがる物って、重力装置? より性能のいい戦闘服?

「それじゃ、いつもとおんなじよね・・。」

声をあげて笑ってしまう。 黙ったままでいる彼に、わたしはこう言ってみた。

「あんたが生まれた日は、みんな さぞかし喜んだでしょうね。」

「・・何故 そう思うんだ。」

「だって、後継ぎだったんでしょ? 王子様だもんね。」

 

ベジータは、何も答えてくれなかった。

だけど その表情は、いつもよりも少しだけ穏やかに見えた。

 

その後 ベジータはわたしを部屋に送り届けると、

替えの戦闘服が入ったカプセルだけを手にして、どこかへ行ってしまった。

だけどわたしは、彼から もうひとつのプレゼントを授けてもらっていた。

 

C.C.に、わたしの元に、小さな王子様がやってきたのは、その翌年のことだった。