013.『夜明け前』
[ 馴れ初めというか、トラを授かる頃です。切り口と言いますか
やりとりが少し違うだけで、いっつも似たようなかんじですみません・・。]
ベッドの中。 体を離した彼に向かって言ってみる。
「好きよ。」 ・・・
欲しい言葉を返してくれないことは、わかっている。
少しでも、ほんの少しだけでも、表情を動かすところが 見たいのだ。
なのに沈黙が怖くなり、こんな言葉を付け加える。
「あんたのやり方・・ あんたと こうすることが、好きってことよ。」
数秒ののち、彼は口を開いた。
「あいつは、 」 「えっ?」
「出て行った あの男は、おまえを満足させてくれなかったのか?」
「何言ってんの? そんなこと、 」
言い終わらぬうちに、彼は再び わたしの上に覆いかぶさる。
そして言った。 皮肉な嗤いを浮かべながら、耳に向かってささやくように。
「戦闘だけでなく、そっちの方もか。 つくづく中途半端な野郎だ。」
「ひどいわ! ・・・あ ・・っ、 」
「おまえが、言いだしたんだろうが。」
指に、舌先によって もたらされる、まるで津波のような快感。
「ねえ・・。」 「なんだ。」
溺れながら、 もがきながら、 わたしは何とか言葉を探す。
「あんたは、どうして わたしを・・ 」
愛撫の手を休めることなく、彼は何かを言いかける。
それを遮るようにして、もう一言を添えてみる。
「・・わたしを抱くの? 何度も。」
彼は黙った。
頭の中で用意していた答えを、使えなくなったせいかもしれない。
本当は、尋ねなくても わかっていた。
愛とは呼べなくても、 体だけだとしても、
この男は わたしが好き・・・ 気に入っている。
そのことだけは、確かだと思う。
だって彼の・・・ 少しだけ乱暴で余裕のない、だけど ひどく優しい触れ方は、
恋人への それだと思うから。
「したいだけなら、相手は誰だっていいはずだわ・・。」
食い下がるわたしに、彼は答える。 「その方がいいのか?」
「イヤ・・・ あ、 あっ、 」
荒れ狂う波間に顔を出し、必死に呼吸をするかのように わたしは喘ぐ。
「好き。 好きよ、 ベジータ・・。」
本当は以前から、何度も その言葉を口にしていた。
彼の背中に両腕をまわして、自分でも気づかぬうちに、何度も、何度も。
どのくらい経ったのだろう。
まだ明けきらぬ時刻、 身支度をする彼の気配で目が覚める。
ちゃんと、新しく用意した方の戦闘服を選んでいる。
地球に来てからのベジータが、身につけている戦闘服。
フリーザ軍の物を参考にしたけれど、これは わたしが一から作り上げた。
ベジータからの、厳しい注文を取り入れながら。
こちらを見ずに、彼が口を開く。 「なんだ。」
「やっぱり似合うわね、 それ。 すっごく かっこいい。」
いつになく素直なわたしに、呆れたように、だけど満更でもない様子で彼は告げる。
「恰好だけでは どうにもならん。 性能が第一だ。」
「わかってるわ。 いつでも改良できるように、準備してあるから。」
だから・・ あんまり日をあけずに、帰ってきて。
言いたい言葉を、ぐっと呑み込む。
ふと、頭をよぎった。
もうじき現れるという、新たな敵。
次の戦いが終わったら。 どういう形かわからないけど、何とか丸く収まったら。
この男は わたしに、宇宙船を造れと命じるのだろうか。
地球には存在しない素材でできた戦闘服を用意するよう命令した、あの日と同じように。
もし そうなったら。
わたしは もちろん応じるだろう。
父さんに頼んで 仕事の方は休ませてもらい、わたし一人で手掛けるつもりだ。
皮肉以外では決して他人をほめない彼が、何も言わないような船を・・・。
ベジータが、窓から出て行く。
「頑張ってね。」 「・・おまえに言われるまでもない。」
振り向かない彼に、わたしは小さく手を振る。
そして、 その後。
少し時間はかかっても、おそらく わたしは、もう一台 宇宙船を造ると思う。
安全性と居住性を さらに向上させて、最高の追跡機能を搭載する。
ベジータに、会いに行くために。
いずれ 父親に会いたいと言い出すであろう、この子のために・・・。
気が早すぎたかもしれない。
つい この間 気付いたばかりで、まだ誰にも話していないのに。
膨らんでいない おなかに、両手で そっと触れながら、
わたしは 彼が飛び去った空を見上げている。
もう あと 少しで、夜が明けようとしていた。