260.『動悸、息切れ、眩暈』

管理人は下戸なので、お酒ネタはあまり書いたことが無かったので…。

比較的テンプレな内容ですが、ひまママver.としてお読みいただければ幸いです。]

深夜、空腹で目が覚めた俺は 食堂へ向かった。

すると そこには、

「あーら、ベジータじゃないの。 今日は うちにいらしたのね?」 …

下品な女がいた。

食卓の椅子に浅く腰かけ、だらしのない姿勢で飲み食いをしている。 

グラスの中身は おそらく、酒だろう。

女を無視して俺は、食い物を探そうとした。

だが、それを察したらしい女は席を立ち、

「いいから いいから! 王子様はどうぞ座ってちょうだい!」

そんなことを言いながら、嬉々として世話を焼こうとする。

 

この機嫌の良さは、酔っているせいだ。

普段、重力室を調整するよう言い渡す時とは、態度が まるで違っている。

ともあれ 女は、家電機器の間をバタバタと往復したのち、食い物の乗った皿を食卓に並べ終えた。

やけに ちまちました料理ばかりだったが、食えるなら まあ いい。 

俺は皿に 手をつけ始めた。

 

「… ?」 

気がつけば さっきから、女が 妙な動きをしている。

手を当てながら腰をひねり、首をかしげて 流し目をする。

「… 何だというんだ。」

「ん? あのね、どう思う? この服。」 

「服だと?」

たしかに、いつもよりも布の分量が多いようだが… 

「知らん。 地球の女の服など わからん。」

俺の言葉に意を介さず、ぶつぶつと女はひとりごちる。 

「下品ではないでしょ? スカートの丈も長いしさ。 でも、わたしらしくないわよね…。」

 

「知るか。」 

出された物を食い終えて、さっさと この場を去ろうとする。 

すると女は、咎めるような声を上げた。

「あら! せっかく ついであげたっていうのに、飲んでないじゃない!」

背の高いグラスに注がれていた、飲み物のことだ。 

「これは酒だろう。 俺は酒は飲まん。」 

「どうして? 飲めないの? もしかして、アルコールに弱いの?」 

「違う!」

相手にしないつもりだったが、『弱い』 という言葉は癇に障る。

「必要がないからだ。 腹の足しにも栄養にもならん。 

だいいち、酔ってボンヤリしているところに敵が現れたら どうなる。」

 

それを聞いた女は、少しの間 黙っていた。 

が、すぐに 「大袈裟ねえ。」 などとつぶやき、グラスを手にして中身を口に含んだ。

そして、「!」

あろうことか、そのまま顎を突き出して、俺に向かって手招きをする。

「チッ、バカか! 誰が そんな誘いに乗るというんだ。」

とはいえ この下品な女も、普段はさすがに そこまではしない。 

酔っているためだ。 やはり、酒は毒なのだ。

「ふーんだ、何よ、つまんない奴!」 

出て行きかけた俺に、女は さらに、言葉をぶつけてくる。

「結局さ、味覚が子供なんじゃないの、サイヤ人って。 

孫くんも そうだったもの。 コーヒーは嫌いだったし、お酒もほとんど飲まないってチチさんが… 」

「黙れ!!」

 

カカロットの名前を出され、不愉快になった俺は 手近にあった瓶を適当に掴んだ。

種類はわからんが、酒だろう。 

「ちょっと! それは、」 

女が何か言おうとしているが、構うものか。 手刀で開栓し、口の中に流し入れる。

まずい。 舌も喉も、焼けつくようだ。 

それでも瓶の中の、半分ほどを飲み干してやった。

「くそっ、何だ、これは…。」 

敵か? それとも、地震か何かか? 目の前が、ぐるぐると回っている。

「ねえ、ちょっと 大丈夫なの、ベジータ。 ベジータったら!」

俺の名を呼ぶ女の声が、やけに近くに聞こえた。

 

重たい瞼を開くと、女の顔が 視界に飛び込んできた。

「大丈夫? びっくりしたわよ。 おかげで こっちの酔いはすっかり覚めちゃった。」

ぺらぺらと早口で、いつもどおりに女は続ける。

「あんたが飲んだのはね、カクテル用の ものすごく強いお酒だったのよ。

ストレートで がぶがぶ飲むような物じゃないの。」

「…。」  

周りを見回す。 俺の部屋だ。 いつの間にか、俺はベッドに寝かされていた。

「どうやって ここに運んだ?」 

「え? ああ、手伝いロボットよ。 父さんたちを起こすのも悪いし、それに、」

ヤムチャは もう いないし。

 

付け加えた言葉が終らぬうちに、俺は言い返した。

「フン。 だったら そのまま、ロボットに見張らせればいいだろう。 

わざわざ付き添う必要は無い。 さっさと ここから出て行け。」

「そうね。」 

女は一旦 言葉を切り、こう言い残して出て行った。 

「これからは重力室の調整も、ロボットに頼むといいわね。」

「チッ、」 

口の減らない、生意気で下品な女め!!

 

しかし、すぐに扉は開いた。 女が、戻って来たのだ。

「ロボットは、指示したことだけしかやってくれないわよ。」

そう言って、冷えた水の入ったボトルを差し出す。 

受け取って口をつけると、女はベッドに腰を下ろし、こんなことを言いやがった。

「おいしそうに飲むわね。 ねえ、わたしにも ちょっと ちょうだい。」

馴れ馴れしい奴だ。 断る! 

そう告げる代わりに、俺は一気に、半分ほど残っていたボトルを空にした。

だが、 「? 何? あっ…!」  

女の肩を ぐいと引き寄せ、顔を 思い切り近づける。

ゆるく開いた口をめがけて、口内に残っていた水を、流し込んでやる。 

「ん …っく、」 

女の喉が、鳴る音が聞こえた。 

 

何故 そんなことをしたのか、うまく説明はできない。 

しいて言えば 何となく、この女を うろたえさせてみたかったのだ。

が、やはりと言うべきか、女はそれほど動じなかった。

ベッドの上で半身を起している俺の、背中に腕をきつくまわして、自分の方から唇を押しつけてくる。

くそっ、 まだ酔っているのか?

「やめろ!」  

肩を揺すって腕を解き、女の細い手首を掴む。

脈拍が、指に伝わる。 それが思ったよりも遅いことに、言いようのない苛立ちを覚える。

この女を動揺させたい。 その一心で 俺は、女の服に手をかけた。

 

力の加減を誤ったため、縫い目が裂けて あちこちが破れてしまう。

それについて、女は意外にも文句を言わない。 

だが その代わり、こんなことを尋ねてきた。

「セックスは、構わないの?」 

「なに?」

「だってさ、酔っぱらってる時に敵が来たら困るから、お酒を飲まないんでしょ? 

セックスは もっと、無防備になるわ。」

「フン…。」 

それには答えず 俺は、露わにした胸を ぎゅっと掴んだ。

「ああっ!」  

これまでに、聞いたことのない女の声。

押し倒して仰向けにし、たわわに実った胸の谷間に、思い切り顔を埋めた。

鼓動が伝わってくる。 よし、もっと速めてやろう。

そう決めた俺は がむしゃらに吸いつき、白い肌に 指を這わせていった。

 

「は、 あ、 っ… 」 

浅く短い息を 何度となく吐き、女は俺に懇願する。 

「ねえ、もう、 お願い…。」

それで やっと、俺は この女に勝った気がした。

 

 

事の後。 

彼、ベジータの 無愛想な背中に、わたしは話しかけている。

「とうとう しちゃったわね、 悪いこと。」

返事は もちろん、返ってこない。 けど、構わずに続ける。

「でも、もう 別に 悪いことじゃないわね。 

ヤムチャとは友達に戻ったんだし、今日の… もう昨日か。 お見合いも、断ることに決めたし。」

「…。」  

相変わらず、何も言ってくれない。 だけど、聞いているのはわかっている。

「お見合いって わかる? 結婚相手にどうかって、人を紹介されることよ。 

優秀で誠実そうな人だった。 けど、そういうんじゃなくて、わたしは もっと… あっ!」

 

ベジータが、いきなり向きを変えた。

体重をかけて のしかかり、その唇で、わたしの口を強く塞ぐ。

鼓動が速まり、深い呼吸が できなくなる。

愛の言葉は一つも無くて、お酒の力で、つい何となく こうなった。

それでも 多分、後悔なんか しない。

わたしは、めくるめくような幸せな めまいの中を漂っている。