289.『ポーカーフェイス』

たまには拒否するブルマを書いてみたいなと思い、こんなふうにしてみました。]

ベジータのために、用意した部屋。  結構広いし、置いてあるベッドだって 良い物だ。

それなのに 日中、彼が ここで寛ぐことなんて無いに等しい。 だけど、夜は ・・・

それは、わたしが いるから、よね?

 

このところ わたしは この、ベジータの部屋で眠ることが多くなっている。 

彼が外から戻ったら、すぐに顔を合わせられるように。

でも 別に、それだけってわけじゃないのよ。 

だって わたしの部屋は今、ものすごく散らかってるんだもの。

お掃除ロボットがパニックを起こして、緊急停止しちゃうくらいにね。

 

深夜。  窓が開く音がする。

プロテクターをはずし、 ブーツと手袋 ・・・  全て、わたしが手掛けた物だ。

それらを脱ぎ捨て、ベッドの上、 わたしの上に 覆いかぶさってくるベジータ。

声もかけずに、まるで あたりまえのような顔をして、わたしを抱こうとする。

確かに わたしは、この男がここに来るのを待っていた。

けれども 何故か、今夜は そのことが、ひどく悔しく感じられた。

彼の表情を、変えてやりたくなる。

怒らせたって構わない。 彼の 心の中を、揺さぶってみたくなったのだ。

だから 言ってやった。 「今日はイヤ。 したくない。」

 

「・・・。」  

枕元の 小さなライトだけが灯った薄暗がりの中、意外にも彼は、何も言わずに 体を離した。

同じベッドの上、 少し離れた位置に、ごろりと横たわる。  

こちらに、背を向けてしまう形で。

何よ。 別に、どっちだってよかったの? 

仮眠だけとって、また さっさと、どこかへ行っちゃうってわけ?

それも、何だか・・・。

 

背中に向かって、話しかける。 

「これまでだってね、したくない時も あったのよ。 仕事で疲れちゃってることも多いし。」

返事はないけれど、話し続ける。 「あんたに合わせてあげてたのよ。 ね、 どうしてだと思う?」

やっと、口を開いた。 「知るか。 疲れてるなら さっさと寝ろ。」 

「・・・。 今は別に、疲れてないわよ。」 

そういう気分じゃない時だって、あんたに触れられてしまえば 体が開く。

そんなことは、もちろん 言ってやらない。

 

「理由はね、あんたが、他の女を抱かないようにするためよ。」

「何だと?」  反応した。 だけど、背中を向けたままだから、表情は見えない。

「だって、危険でしょ? 欲求不満の あんたを野放しにしちゃ。 

外で、女の人に悪いことするんじゃない?」

めずらしく、すぐに答えが返ってきた。 

「フン。 だったら どうなんだ。」 

声の調子を変えることなく、彼は続けた。

「手当たり次第に 物を投げつけて、ここから出て行けと言いながら 泣きわめくのか?」

 

「・・!」  

それは かつての、わたしとヤムチャのケンカの一幕だ。 ベジータと、こういう関係になる前の・・・。

興味なさげな顔をして、この男は しっかりと見ていたのだ。

「そうね。 家になんか入れてやらない。 当然だわ・・。」

言ってやる。 怒らせて、傷つけられてもいい。 

ひどい目にあわされたって、構うものか。

「だって、あんたなんかに 女の方から来るはずないし、口説くなんてことも ないわよね。 つまり、」

一旦 言葉を切る。 

「レイプってことでしょ。 しかも、用が済んだら・・」  殺しちゃうんじゃないの。

 

その言葉の終わらぬうちに、強い力で押さえ込まれた。 突然 向きを変えた、ベジータによって。

準備のできていない体に、無理やり ねじこまれる。 そう思った。 

けれど、違っていた。

丁寧な・・・ ううん、 それも違う。 ひどく、執拗な愛撫。

縛られてはいない。 別に、固定されているわけではないのに、体が、自由にならない。

声が、勝手に出てくる。  脚が大きく、ひとりでに開いてしまう。

両腕を 背中に、きつくまわして しがみつきたい。 

両手で頬を包み込んで、唇に むしゃぶりつきたい。

でも、 したくない。  理由は一つだ。 悔しいから。

だけど、熱い。 どこも、かしこも。  我慢、できない ・・・ もう、 

「あ、あ ーーーー ・・!」

 

わたしは、達してしまった。 ベジータの指と手のひら、 舌と唇によって。

反り返り、 のけ反って、為すすべもなく 陸に打ち揚げられた、哀れな魚のようになって。

 

 

瞼を開き、どうにか呼吸を整えて、わたしは ベジータに 覆いかぶさった。

「どうして、」 最後まで しなかったの?  

終わりまで言わなくとも、彼には通じた。 「したくないと 言ってただろうが。」  

それだけ・・?

「じゃあ、今のは何よ。 サービス? マッサージ?」 「・・・。」

重なっている わたしたち。 さっきから、おなかの辺りに当たっているものを掴む。

強く、握りしめる。 彼は わずかに、眉を寄せた。

「わたしも、してあげる。  お礼、お返しよ。」

 

上下に、さするように動かす。 手が すべりそうになる。 先端から滲み出てきた、透明の液のせいだ。

「ふふっ・・。  こんなになってちゃ、とても 眠れなかったんじゃない?」

あと少しだ。 でも 今日は、口は使わない。 顔を見てやりたいからだ。 

ああ、 あと、もう 少しで・・・

その時。 「キャッ・・ 」

乱暴に手首を掴まれて、体勢を入れ替えられた。 

仰向けにされ、体重をかけて 圧し掛かられて、一気に貫かれる。

 

「ん、 んーーっ・・ 」 唇を、押し当てられる。 

繋がって、一つになっている間中 ずっと、唇は離れなかった。

口を塞ぐためではなくて、顔を見せたくなかったのだろう。  まったく。

 

 

夜が明ける前に、ベジータは どこかへ行ってしまった。

一人になった部屋、 寝乱れたベッドの上で、 わたしは考えている。

あの後、 わたしはこう言ったのだ。 

『もう一回 して。』

・・・

その時の、ベジータの顔ときたら。 

そう。 彼の表情を変えてやるには、ああいうことを口にするのが一番のようだ。

そして、こんなふうに 付け加えた。

『わたしが じゃなくてね、あんたが まだ、足りないんじゃないかと思って。』 

『チッ、下品なことばかり言いやがって。』

『だって 万一、他の女の人を襲ったりしちゃ大変だもの。 

わたしはね、自分の身を投げ出して、それを止めてるってわけ。』

呆れたように、心底バカにしたような顔で 彼は笑った。 

『まだ言ってるのか。』

でも、笑っていた。  表情を変えてやるという試みは、とりあえず 成功したのだ。

 

白い天井を見つめながら、口に出して つぶやいてみる。 

「そんなこと、するはずないわよね。 他の女になんて。」

言葉を切って、続ける。 

「だって あいつ、 わたしのことが好きなんだもん。」

わたしのこと。 わたしの、体 ・・ かも しれないけど。 好きなのは、確かだと思う。

 

瞼の裏が、ほんの少し 熱くなる。 別に、泣く理由なんか ないのに。

「どうせ、 また すぐに来るわよ。」 

夜遅く、 この部屋に直接、 わたしに会いに、 抱くために・・・。

 

「さあ、もう 起きようっと。」 

力を込めて頬を拭い、窓辺に立って、ブラインドを上げる。

窓からは 朝の光が差し込んで、 鏡の中にはいつもの、きれいな わたしがいた。