092.『くちびる』
[ ついなんとなく?寝ちゃってから日が浅い頃の二人です。
ワンパターンなので(ですが、時間的には夜ではなくて昼過ぎをイメージしました。)
二人の心情が交互にくるようにしてみました。]
研究室で わたしたちは、話し合いという名の口論をしていた。
ベジータの言いだす難題に腹を立てたわたしは
言い返してやる うまい言葉を探すべく、
少しの間黙った。
その時。
「きゃっ・・・!」
普通ならば肩を抱き寄せ、そっとキスでもしてくれるところだ。
なのに、この男ときたら いきなり・・・
「何するのよっ!」
着ている物を、まるで引きちぎるように剥がしてしまう。
「ねえ・・ ここじゃイヤよ。 ねっ、お願い。」
冷たい床の上に組み敷かれるのも、壁に手をついて後ろ向きに立たされるのも御免だ。
どうにかして、隣接する仮眠室の方に連れて行く。
広くはないベッドの上に仰向けにされ、両脚を大きく広げられる。
「あ、 あ っ ・・・ 」
二本の指が 襞を掻き分け、何処よりも敏感な部分をとらえる。
これで何度目だっただろうか。
ベジータは もう、わたしの体についての
さまざまな癖を、心得てしまっているようだ。
くやしい。 だから こう言ってやった。
わたしだけを裸にして、自分の方は手袋さえもはずしていない
男に向かって。
「汚れちゃうわよ、手袋。」
「・・・ そうだな。」
意外にも ベジータは、素直にそれを両手からはずした。
けれども。 「イヤっ・・ 」
ピッタリとフィットするだけでなく、どこまでも限りなく伸びる、本来
地球には無かった素材。
その新素材で作られた手袋を使って、彼は
わたしの両手首を、腰の位置で固定したのだ。
「ちょっと! こんなことしなくたって、わたし
逃げたりしないわよ!」
「手袋は もう一つあるぞ。 もっとほかの縛り方がいいか?」
「・・・。」
彼によって 再び仰向けにされた わたしは、
指、手のひら、あるいは舌に、唇に、されるがままになっている。
「こんなことのために 苦労して作ったんじゃないのに・・。」 手袋のことだ。
これはベジータがつけていた・・ フリーザ軍の物を参考にした。
「・・ いつも、こんなふうにしてたわけ?」
「なに?」 「だから! こういうふうに、女に言うことを
きかせてたのかって・・ んっ!」
あっという間のことだった。 わたしは、口がきけなくなった。
もう片方の手袋に 猿ぐつわの形で、口を塞がれてしまったために。
そうだ。 初めから こうしてやればよかったのだ。
驚いて 慌てはするが、怯えることをしない、怖いもの知らずの
この女。
眉を寄せ、切なげに喘いでいても、その口元は
どこか・・
まるで、笑っているように見えた。
だったら もっと、痛めつける手段としてのセックスをすればいい。
そのことを踏みとどまっている自分に対しても、俺は苛立っていた。
女の両膝を掴んで持ち上げ、高い位置から
腰を打ちつける。
「ん、 んーっ ・・」 塞いでやった口から、うめき声が漏れる。
だが どうも、苦しんでいるわけではないようだ。
頬は上気しており、 繋がっている個所からは
水の音が響いている。
「くそっ、 いやらしい女め ・・・」
その言葉の終わらぬうちに、俺は熱いものを吐き出した。
女の体の、奥深くを めがけて。
ふと気がつけば、女のでかい目が俺を睨んでいる。
まったく、口を塞いでいても うるさい女だ。
ここは、この女の家だ。 このままの姿で放っておいても、すぐに
どうにかするだろう。
だが・・ まあ いい。
ベジータの手によって、ようやく 枷がはずされた。
「もうっ、 なんなのよ、いったい・・。 ああ、でも
すごいわね。」
手袋を拾い上げる。
「あんなふうに使っても、全然 形が崩れてないわ。 さすが
わたしの作った物よね。」
ベジータの、舌打ちの音が聞こえた。
「あーあ、 わたしの服、ボロボロじゃないの。」
原型はとどめていたけれど、もう一度 身につける気には
あまりなれない。
「これから、家にいる時は あんたに破られないような素材で作った服を着ようかしら。」
でも、それじゃ つまんないわよね。
小さな声で そう付け加えて、マットレスからシーツをはがそうとする。
とりあえずは それを 体に巻いて、この部屋から出ようとしたのだ。
女が俺に 背中を向けて、身をかがめている。
何も着けていないから、何もかもが丸見えだ。
白く、丸い尻。
その程良い大きさは、さっき さんざん
頬張って揉みしだいた、胸の感触を よみがえらせる。
突然 思いついた。 どうせなら そっちにも、同じことをしてやろうと。
今度は背後から、抱きすくめられて うつ伏せにされた。
「あ、あ ん、 」 胸を、お尻を、両方の手で、代わる代わる まさぐられる。
「まだ する気なの・・?」
「・・ また、しばらくの間 外に出るからな。」
トレーニングのことだ。 「だから 今
やっておくってわけ? サイテーね。」
「フン、 なんとでも言え。」
それだけ言うと ベジータは そのまま、後ろから
わたしの中に入ってきた。
「あ、 あー っ ・・・ 」
今は縛られてはいない。 だけど 両手で腰を押さえこまれて、やっぱり身動きはとれない。
くやしい。 だから言ってやった。 「ベジータ・・。」
「なんだ。」 「もっと・・・ 」
ベジータの動きが止まった。 やや乱暴に、わたしの向きを変える。
ああ、 やっと いくらか自由になった。 背中に腕をまわそうとしたけれど、思いなおす。
わたしは両手で、彼の頬を包み込んだ。
「チッ・・、」 この遅れた星で生まれ育った、下品な女。
どれだけ苛んで 辱めてやっても、口元は
いつも、笑っているように見える・・。
唇が、触れ合った。
ベジータとわたし、 いったい どちらの方から重なったのか、よく
わからなかった。
事の後、ベッドの上で ぼんやりしていた。
ベジータは さっさと、途中で脱ぎ棄てていた服を身につけ始める。
何か言ってやろうと 口を開きかけた、その時。 ドアが開く音とともに、機械音が耳に届いた。
コーヒーの、いい香りも漂ってくる。 「あら・・。」
手伝いロボットが、軽食を運んできた。 母さんが気をきかせてくれたらしい。
見ていたら、なんだか 急に、おなかがすいてきた。
ベッドから下りて、サンドイッチを さっそくつまむ。
「おいしーい。 あんたも食べなさいよ、ほら。」 「・・・。」
裸で、立ったままで 女は ものを食っている。
女の手からは受け取らず、皿の方に手を伸ばした。
ベジータは、わたしから サンドイッチを受け取らなかった。
ふんだ、かわいくないわね。 あっ、でも・・・
口についてる あれって、バター? マヨネーズ?
手を伸ばし、 指先で拭いとってあげた。
「ふふっ。 子供みたい。」
くそっ。 気付いていないだけで この女だって
さっきから、口の端に食い物のカスがついているんだ。
下品な女は舌を出し、自分の指を舐めている。
紅い唇と、同じような 舌の色。 それは
つい、さっきまで・・・。
何故 そうしたのか わからない。 だが
俺は、女の肩を引き寄せていた。
彼の方から重なる唇。
ベジータからのキスは、何故だか甘く感じられる。
どうしてなんだろう。 お菓子を食べたわけでもないのに。
女は目を伏せており、口数が あきらかに減った。
この女を おとなしくさせる、 もっとも手っ取り早い方法。
俺は、あの時に それを悟ったのだった。