204.『ゆーわく』

[ ブログの1万ヒット御礼で書いたお話です。

  馴れ初めの別バージョンです。 ]

「おい、 あの入口はどうなってるんだ。」

やっぱり来た。 予想通りだ。

昨夜遅く、わたしは重力室のドアに細工をした。

 

「入るのに、段階を踏む仕様にしたのよ。

前と違って 家の中にあるんだから、あぶないでしょ?」

 

そう。

以前 ベジータが父さんに無理を言って作らせた重力室は、宇宙船を改造したもので

C.C.の敷地内、 つまり庭にあった。

何度注意しても 彼は無茶な使い方をやめず、少し前にそれはついに爆発し、

跡形もなく壊れてしまった。

その際には さすがのベジータも重傷を負い、

その時の傷は まだ治りきっていないのだ。

 

苛立っている彼と一緒に、新しい重力室の前に立つ。

C.C.の最上階に設けたそれは、忙しい父さんに代わって ほとんどわたしが手がけた。

わたしはドアの上部に取り付けたパネルの扉を開き、説明しながらいくつかのキーを押した。

 

「ね。 これで、登録した人しか入れないってわけ。

で、最後に このキーを・・・ 」

「どうでもいい。 さっさとドアを開けろ。」

「どうでもよくないわ・・。」

 

わたしはパネルの扉を閉めて、レトロな形の鍵を穴に差し込んで回した。

最後のキーを押す前に。

 

「? 何だ。」 「・・ケガ、治りきってないでしょ。」

 

あの時の気持ちは、今でも うまく説明できない。

だけど、わたしも多分 苛立っていた。

爆発事故で大ケガをして、動けなかったベジータ。

わたしはこの手で何度も包帯を換えた。

言葉は無くとも、なんとなく心が通じたような気がしていたのに・・。

 

「チッ、 こんなもの・・。」

ベジータは、パネルの扉をこじ開けようとする。

「それ、無理して開けるとエラーになってドアが開かなくなるわ。

室内に入れないわよ。」

彼の怒りの表情に向って付け加える。

「ドアをきちんと閉めないと重力装置が作動しないのは前と同じ。

だから、ドアを壊すのもダメよ。」

 

「・・鍵をよこせ。」 「いいわよ。」

 

ベジータに鍵を見せる。

けれど その後 わたしは自分の胸元に、すばやく それを押し込んだ。

金属のひやりとした感触が、胸の谷間に納まっている。

 

「何のつもりだ。」

彼の目を見て、わたしは言った。

自分の胸を指さしながら。

「何にも。 取っていいわよ。」

 

ベジータはわたしの腕を捉えると、自分の方へ引き寄せた。

もう片方の手の行方を見つめる。

数秒ほど 胸の前で止まっていた手は、わたしのあごを掴んで 顔を上げさせる。

「貴様・・。」

 

怒った彼に、この後 何をされたとしても

わたしは後悔しないつもりでいた。

 

その時。  

「ブルマ。」  聞き慣れた声がした。 

「ヤムチャ・・。」

 

私の声とほぼ同時に、ベジータは手を離した。

そのことには触れず、何事もなかったようにヤムチャは言った。

「ちょっと 話がしたいんだ。」 

「・・今?」  「ああ。」

 

わたしたちのやり取りを見届けることなく、ベジータは立ち去った。

 

その日、わたしとヤムチャは別れることになった。

恋人としては もうダメだ、とずいぶん前から思っていた。

だけど、思いきることができなかったのだ。

 

外へ出てしまったベジータは、結局 しばらくの間 戻ってこなかった。

あれほど拘っていた重力室を放ったままで。

 

 

C.C.に ようやく戻ってきたベジータに、

わたしは戦闘服一式の入ったカプセルを渡して

新しい重力室のドアを開いた。

「前よりも ずいぶん頑丈にしてあるけど・・  気をつけてよね。」

 

言い終わらぬうちにわたしは、強い力で引き寄せられた。

その部屋の重い扉は、彼の手によって閉じられた。

ベジータはわたしを床の上に組み敷きながらつぶやいた。

 

「・・これが望みだったんだろう。 回りくどいこと しやがって。」

 

そんなふうにして、わたしは初めて彼に抱かれた。

 

多分わたしは、ずっと前から そうしたかった。

彼もきっと、そうだったのだと思う。

 

ベジータの黒い髪に顔を埋め、

あの日 鍵を隠した個所に 何度もキスを受けながら、

わたしはそんなことを考えていた。