『はじまりのうた』

管理人初になります、未来トラ×未来パンです。まだ小さなパンちゃんですが・・

あんな話やこんな話を書いている身ではありますが、すごく楽しんで書けました。]

人造人間を倒した日から、数カ月が過ぎた。

難を逃れた人達の状況を把握するため、おれは地球のあちこちを 飛びまわっていた。

何日かぶりでC.C.に戻り、中に入ろうとした時。 

「・・・?」 

強い気を感じた。 けれど、邪悪なものではない。 

赤ん坊の頃から知っている、とても なつかしい気。

だけど、そんな、まさか・・・。

 

扉を開こうと、手をかける。 それと同時に、母さんの叫び声が聞こえてきた。

「こらっ! ダメよ、待ちなさい!!」 「・・? どうしたの、母さん!?」 

「トランクス、よかった・・! その子を捕まえて!」

「えっ?」  

黒い髪の小さな女の子が、こちらに向かって走ってくる。 しかも、なんにも着ていない。

「な、 なんで? 誰?」 「いいから、捕まえて!!」 

「わかった。 ほら! ダメだよ ・・・ っ

 

捕まえた。  だけど、まだジタバタしてる。 ちっちゃいくせに、すごい力だ。  

さっき感じた気の持ち主は、この子だったんだ。 それに・・・

服を着ていないから わかった。 尾てい骨の辺りに感じられる、独特のざらつき。 

「これは・・。」

「尻尾の痕よね。 お風呂に入れて、そのことを確かめようとしたら 逃げられちゃって。」 

「どういうこと? この子はいったい・・

「力も強いし、どうやら間違いないみたいね。 ・・悟飯くんの子供だそうよ。 名前はパンちゃん。」

 

腕の中で もがいていた女の子、パンちゃんは どうやら落ち着いたようだ。

服を着せてやった後、驚いて混乱気味のおれに向かって、母さんは話し始める。 

今から数時間前にあった出来事を。

 

話の中身はこうだった。

 

『あのう・・ カプセルコーポレーションは、こちらですよね?』 

扉の外に、見知らぬ老夫婦が立っていた。 孫のような年頃の、小さな女の子を連れている。 

一体どこから来たのだろうか。 古い形の車も目に入った。

『そうですけど、何か ご用?』 『孫悟飯さんというかたは、こちらにおられますか?』 

『・・・。 彼は もう、5年ほど前に亡くなりましたけれど・・。』

母さんがそう答えると、夫婦は悲しげな様子で肩を落とした。

 

『彼に、何か?』  

一緒にいる女の子、パンちゃんを見つめながら、夫婦は代わる代わる説明をする。

『わたしたちは、この間 病気で亡くなった この子の母親に頼まれたんです。』 

『自分が死んだら この子を、西の都のC.C.にいる父親の所へ連れて行ってやってほしいと。』

 

パンちゃんと母親は、生き残った人々が身を寄せ合って暮らす 小さな集落で その夫婦と知り合い、

親しくなったという。

とても善良そうな人達で、死んでしまった母親の代わりに

自分たちの手で育ててやりたかったとまで言っていたそうだ。

そうしないのは C.C.にいるはずの父親の元へ、と何度も頼まれたこと、

老い先が短いため 一人前になるまで面倒を見てやれそうにないこと、

そして・・・。

 

パンちゃんは一言も発することなく、荷物の中に入っていた 小さなぬいぐるみで遊んでいる。

この世界で生きている子供は 皆そうなんだろうけど、おもちゃの類は ほとんど手作りだ。

見たところ きれいで、まだ新しい。

もしかすると、母親の手による物ではなく、夫婦から贈られたのかもしれない。

 

「悟飯くんって、恋人がいたのね。 トランクス、あんた 知ってたの?」  

おれは首を横に振った。 「最後の頃は、別行動をとることも多かったから・・。」

あの頃、 ラジオによる情報はずいぶん減ってしまっていた。 

現場をおさえるために 悟飯さんとおれは地域別に分担して見回りをしていたのだ。

 

「その人と そうなって、間もなく・・ だったのかもしれないわね。 

この子が授かったことも知らずに・・。」

少しの間 パンちゃんを見つめていた母さんは、明るい声で こう続けた。 

「それにしても悟飯くんったら やるわね。 さすが孫くんの息子だわ。」

男女の区別もつかなかったくせに 年頃になった途端、

かわいい女の子・・  チチさんと、さっさと どこかへ消えちゃってさ。

 

これまでに、何度も聞かされた話を付け加える。 その声には、涙が混じっていた。

 

小声で尋ねる。 「この子・・ パンちゃんを、引き取ることにしたんだね。」

「もちろんよ。 もしも尻尾の痕が無くて、悟飯くんの子かどうかはっきりしなかったとしても、

そうするつもりだったわ。」

悟飯さんが パンちゃんの母親である女性と関わったこと、それは確かなのだから。

けれども母さんは、全く別の理由を告げた。

「わたしね、近頃 何度も同じ夢を見るのよ。」 

「夢? どんな?」

「トランクス、あんたに年の離れた妹ができるの。 あんたが大きくなって、世の中が平和になって、」

ベジータも落ち着いてくれて。 

小さな声で、付け加える。

 

「ようやく楽になったと思ってたらね、今度は女の子を授かっちゃうのよ。 

もう若くないから、結構大変なわけ。」

だけどね、 とっても、とっても 幸せなのよ・・・。

 

最後にそう言って、顔を逸らした。 

母さんは、おれの前では決して涙を見せないから。

母さんの見た夢、 それはきっと、おれが過ごしてきた もう一つの世界で起こる出来事なのだろう。

 

床に座って遊んでいるパンちゃんに、身をかがめて 話しかける。 

「おれはトランクスっていうんだよ。 よろしく。 えーと、何て呼んでもらおうかな。」

その時。  鈴を転がすような声で、はっきりとパンちゃんは口にした。 

「トランクス。」 ・・・

 

それは とても、大切な一言だった。

例の夫婦が この子を手放したのには、もう一つ 理由があった。 

母親が亡くなってからパンちゃんは、ほとんど喋らなくなってしまったというのだ。

だからこそ、実の父親か その縁者に・・ そう考えたのだという。

 

うれしくなった おれは、照れ隠しに こんなことを言ってしまった。 

「おにいちゃんって呼んでもらった方がいいかな。 兄貴代わりになるなら。」

そこへ、母さんが口を挟んできた。 

「いいじゃないの、トランクスで。 ねえパンちゃん、わたしのこともブルマさんって呼んでね。

おばさんなんて言ったら、返事しないから。」

 

パンちゃんが笑いだした。 

わかっているのか いないのか定かじゃないけれど、その声も笑顔も、とっても可愛い。

なんだか とっても、幸せな気分になる・・・。

 

その後 母さんは、おれに そっと耳打ちをした。 

「お兄ちゃんなんて、呼ばせない方がいいわよ。」  

・・・?

 

その言葉を実感するのは、それから10年程経ってからのことだ。

でも それは、また別の機会に。