073.『いつも一緒に』

未来トラパンの最終話のつもりで書き始めましたが、

BUTその後、補間話も書いてしまいました・・・。)

ほとんど現ベジ×未ブルになってしまったため、お題からタイトルをつけました。]

ああ、 わたし、 どうやら このまま死んじゃうみたいね。 

やっぱり、薬だけじゃ ここまでが限界だったみたい。

でもね、入院なんてイヤだったのよ。 

殺風景な病室や、検査検査の毎日を送るのなんて、どうしてもイヤだったの。

だから、どうか 気に病まないでちょうだいね。 わたしが選んだ道なんだから。

 

ぎりぎりのところだったけど、パンちゃんの花嫁姿を見られたことは ほんとによかった。 

清らかで、本当にきれいな花嫁さんだったわ。

トランクス、 パンちゃんと幸せにね。

パンちゃん、 トランクスのこと、お願いね。 

どうか ずっと愛し続けて、うんと幸せにしてやってね。

 

ある日の、夜が明ける頃。 そんなことを思いながら、わたしはこの世に別れを告げた。

 

なのに、しっかりと その自覚はあるというのに、特に何にも変わっていない。

「? おかしいわね。 天国って、どうやって行けばいいのかしら。 迎えとか、来てくれないのかしら?」

戸惑っていると、窓が開く音が聞こえた。  

気なんてものは読めないけれど、ひどくなつかしい この感覚。

「ベジータ・・。」  

わたしは彼の名前を呼んだ。 本当に、久しぶりに。

 

目の前に現れたその人は確かに、間違いなくベジータだ。 

だけど、どうしてなんだろう。 何かが違うのだ。

はっきり言って 老けているし、雰囲気も どことなく穏やかというか・・・。

「わかった! あんた、別の次元で暮らしてたベジータね? 

タイムマシンでトランクスが会ってきたベジータ。 そうでしょ?」

「そうだ。」

ごく短く答えた後で、彼はわたしを抱え上げ、まだ明けきらぬ空に浮かんだ。

 

「あの・・ どうして あんたが?」

答えない。  どうせなら やっぱり、わたしが愛したベジータに来てほしかったんだけど。 

地獄にいて、出て来れなかったのかしら?

別の質問をしてみる。 

「どこへ行くの? あっ、もしかして あの世? あんたが連れて行ってくれるの?」

「・・ 入口までだがな。」 

 

ベジータの腕の中から、C.C.の方角を見つめる。 小さくつぶやく。 

「さよなら。」  ・・・

 

ところで 今のわたしって、肉体から抜け出た魂なのよね? 

だったら もっと若い時のルックスに戻してくれればいいのに。 サービス悪いのね。

まあ このベジータも あんまり若くなさそうだから、つり合いはとれてると思うけど。

「ねえ、もしかして あんたも死んじゃったの?」 

「ああ。」 

「どうして? やっぱり 戦闘で?」

「違う。」 少し、悔しそうな声。 

「老衰だ。」 

 

「えーっ?!」  さすがに、そこまでの年にはとても見えない。 

「老衰って・・ いったい いくつまで生きたわけ?」

彼が口にした年齢に、わたしは驚愕した。 

「ぜんっぜん そんなふうに見えないわ。 50代くらいだと思った。 ずるいわね、サイヤ人って・・。」

ベジータの口の端が、わずかに持ちあがる。 

とても なつかしい、彼独特の笑い方だ。

ごくたまに 彼が その表情を見せると、わたしは いつも、とても幸せな気分になった。

 

そんなやりとりをしていたら、あっという間に・・・。 

「着いたぞ。」

「え? ここ?」  雲に囲まれた、ここが あの世の入り口なの?

もうちょっと、ゆっくり飛んでくれればよかったのに。 復興した都を、もっと ちゃんと見せたかった。 

よくやったって、言ってほしかったわ。

まあ、このベジータは知らないんだけどね。  あの惨状・・ 都がどうなっていたかってことを。

 

「じゃあな。」 「えっ、 ちょっと・・。」  

彼は もう、行ってしまうつもりだ。

「待ってよ。 もう少し、話でもしましょうよ。 せっかく会えたんだから。」 

「・・・。 何の話だ。」

もうっ。 張り合いがないわねえ。 

ベジータとの再会なんて、わたしにとっては夢にまで見た出来事だっていうのに。

だけど、気を取り直して話し始める。

 

「えーと、まずはね、トランクスのこと。 その節はどうもありがとう。」

もっといろいろ言いたいけれど、手短に付け加える。

「あんたのおかげで強くなったのよね。 そのおかげで、こっちの世界も救われたわ。 

ほんとにありがと。」

「おまえが、そうなるよう 仕向けたんだろうが。」 

「うん、 そうなんだけどね。 それと、」

言葉を切って、続ける。 

「行きがかり上、かもしれないけど・・ 向こうのわたしとずーっと一緒にいてくれたんでしょ。 

どうもありがとう。」

 

チッ、と小さく舌打ちをする。  「それも、おまえが・・。」 

「そうね。 わたしは、わたしのことを幸せにしてあげたかった。」

悟飯くんが運んできてくれた あんた、 

そして、トランクスが背負ってきた悟飯くんの亡骸を見て、心に誓ったの。

「幸せな結末を、作りたかったのよ。」 

「・・・。」

 

「愛してるわ、ベジータ。」 「何を、いきなり・・。」 

「って、向こうのブルマは何度も言ったんでしょ? あんたは? 一度くらいは、応えてあげたの?」

無言、 沈黙。 

だけど、後悔しているような、そんな表情。

「でも、ブルマは ちゃんと、わかっていたのよね。」 

声に、涙が混じってしまう。

「あのね、 わたしも言えなかったの。 死んでいったベジータに、愛してるって 一度も。」

目元を拭って、顔を上げる。 「あの人も、わかってくれてたと思う・・?」

その問いかけに、彼は・・ 

わたしの知らない、長い人生を全うしてきたベジータは、はっきりと答えてくれた。

「ああ。」

 

「ふふっ、 ありがと。」  わたしは、彼の手をとった。 温かい。どうしてだろう。 

本当に、不思議だ・・・。

「愛してるって、あの二人なら ちゃんと、お互いの目を見て言えるんでしょうね。 

・・あのね、トランクスね、お嫁さんをもらったのよ。 相手は、なんと・・

「悟飯の娘か?」 「そう! そうよ。 そっちの世界もそうなの?」

わたしの目からは、涙が溢れた。  さっきとは違って、とっても うれしい涙だった。

「そうだわ、 そっちは娘がいるんでしょう? その子も、ちゃんと幸せになったかしら?」 

「・・・。」  

彼は何故か、少しだけ面白くなさそうな顔をして、けれども深く頷いた。

 

「よかった・・。 あ、 あら?」 

目の前にいるベジータの姿が、どんどん薄く 霞んでいく。 「どうして!?」 

「時間切れだな。」 「そんな!」

もしかして、あんたは これから地獄へ・・? 

「いやよ、そんな・・・

「最後に教えてやる。 俺と暮らしていた方のブルマは、もう、だいぶ前に生まれ変わっていた。」

「えっ、そうなの? ・・だから、あんたは こっちに来たの? 

うふっ、そんなにブルマと話したかったの・・。」

「くそっ、黙って聞け。 つまり、おまえの世界での俺も、おそらく 既に・・」 

「生まれ変わって、この地球のどこかにいるってこと?」

「そうだ。 おそらくな。」  

 

ベジータ。 見えなくなっていく彼に向かって、わたしは叫ぶ。 

愛してるという言葉の代わりに。

「ありがとう。 来てくれてありがとう、ベジータ。」

 

最後にまた、例の笑顔をわたしに見せて、ベジータは消えていった。

 

「さあ・・ 行かなくちゃ。」  

彼のぬくもりの残る手のひらで涙を拭い、あの世に通じる扉を押す。

「なるべく早く 生まれ変わらせてもらわなきゃ。 ベジータに、もう一度会うために。」

そしたら 今度は ちゃんと、愛してるって言うつもりよ。 

決して、後悔なんてしないように。

 

 

数日後、 C.C.

パンが目を覚ました。 傍らにいるトランクスが、いたわるように声をかける。 

「起きた? 大丈夫かい?」

泣き疲れて、そのまま眠ってしまったのだ。 

「うん。 ごめんね・・。」 「なんだよ、そんなこと言うなよ。」 

「ううん、違うの。 わたしね、ずっと前から決めてたの。」

 

また、涙が溢れそうになる。

「トランクスに悲しいことがあったら、これからは わたしが支えるんだって。」

そして 両腕で、力いっぱい抱きしめてあげたい。 

心から そう思っていたのに、実際にそうしてくれたのは、やっぱり 彼の方だった。

 

「何言ってるんだよ。 おれは十分、パンに支えてもらってるよ。 もし、パンがいなかったら・・・。」

しばしの沈黙。  

振り切るように首を横に振った後でトランクスは言った。 今では妻となった 彼女に向かって。

「パンがいてくれて、生まれてきてくれて、本当によかった。 それに・・」 

「なあに?」

黒い髪のかかった耳元に、小さな声でささやく。 

「抱きしめてくれるんなら、夜、寝る時の方がいいな。」

「・・・。 もう、 バカッ!」

そんなことを言い合いながら、二人は笑う。

 

「愛してるよ、パン。」  「うん、 わたしも。 わたしも、トランクスを愛してる。」

 

 

同じ頃、 ブルマはあの世で、閻魔大王を相手に こんな交渉をしていた。

「うんと可愛くて、魅力的な女の子に生まれ変わりたいの。 

いいでしょ? わたし 結構、頑張ってきたつもりよ。」

 

そうだわ。 トランクスとパンちゃんの娘になるっていうのは どうかしら?