Atonement

[ 当初DOMiCA様の方へ投稿するつもりで考えていたのですが、

カップル要素が薄いため見合わせたものです。

こんな未来編があってもいいかな・・ と。]

みんなからの温かい言葉と握手。 若い母さんからはハグ。 

そして・・・

離れた場所に 一人佇んでいた父さんのピースサインに見送られ、おれはタイムマシンに乗り込んだ。

 

平和が戻った世界を後にし、生まれ育った時代に戻る。

母さんも 半壊のC.C.も特に変わった様子は無く、心の底から安堵する。

無事を喜び合ってから、『お土産』 だと言って持たせてもらったケースを開けてみた。

 

驚いた。 

厚みのほとんど無い、数十センチ四方のケース。 

その中には小さなカプセルが、隙間なくギッシリと詰め込まれている。

『本当は一緒に行って、いろいろ手伝ってあげたいんだけど。』 

『その言葉だけで十分です。 時空を超えるなんて、本来は決して許されないことですから。』

そんなやりとりがあったことが思い出される。 

同時におれは、タイムマシンを一人乗りにした 母さんの胸の内を思った。

 

「すごいわ。 小さいけど容量は かなりのものよ。 新しい製品ね・・。」

カプセルの中身を一つ一つ確かめていた母さんは 感心したり笑ったり、

時には目元を押さえたりもしている。

けれど 何個目かを開けてからは動きが止まった。

真剣な様子で、じっと見入っているようだ。

「どうしたの?」 「・・・。」 

「何が入ってたの?」

 

覗きこもうとしたおれを制して 母さんは、研究室として使っている部屋に籠ってしまった。

出てきたのは翌日、ノイズだらけのラジオ放送が 人造人間の出現を告げた時だった。

「トランクス・・。」 

「母さん。 ついに この時が来たんだよ。 これで、ようやく終わるんだ。」

 

都の上空。  奴らは このC.C.の、すぐ近くまで飛んで来ていた。

「よお、トランクス。」 

男のほう、 17号が、まるで友人に そうするように 気安く声をかけてくる。

「よかったよ、間に合って。 このところ面白いことが無いせいか、18号の機嫌が悪くてさ。」

女のほう、18号を横目で見ながら続ける。

「構わないから もう、C.C.を壊しちまえって聞かないんだ。」

 

・・・今日が最後になる。 「ひとつ 教えろ。」  

おれは、ずっと疑問に思っていたことを 尋ねることにする。

「ん? なんだ。」 

C.C.を半壊のまま、残していたのは何故だ?」

「ゲームの最終ステージのつもりだったからな。 それと、 」 

あっさりと答えた後で、奴は こんな言葉を付け加える。

「いよいよ地球がやばくなったら、宇宙船を作らせようと思ったんだよ。 

おまえの母親の、ブルマ博士にさ。」

 

「冗談じゃない。」  おれが言おうとしたのと同じことを、18号が先に口にした。 

双子の弟である相棒に、強い口調で言い放つ。

「あたしはイヤだよ。 わけのわからない所になんか行くもんか。」 

「ちぇっ。 これだもんな・・。」

「その心配は ない。」 言い終わらぬうちに おれは、奴ら目掛けて気弾を撃った。

 

どこもかしこも、それはひどい状態だ。 

どれだけ 人が生き残っているかもわからない程に。 

だが ぎりぎりのところで、どうにか間に合ったんだ。

「おまえたちは もう終わりだ。」 

 

奴らの動きが、まるでスローモーションのように見える。 

これまでのことを思うと、嘘か冗談なのではないかと疑いたくなる。

しかし そうではないのは、奴らの表情を見れば明らかだ。 

次の瞬間。  

至近距離から放った一発のエネルギー波によって、17号は消滅した。

 

18号は、しばしの間 茫然としていた。 

少し離れた位置から、いつものように援護するつもりだったのだろう。

何が起こったかを理解したらしい 数秒後。  「・・・、  ・・・!!」 

狂ったように叫びながら、滅茶苦茶に攻撃してくる。

 

叫んでいるのは、名前なのか? 人の、男の名前のようだ。 

おそらく、 それは・・・。

そう思っていた時、信じられないことが起きた。 

「!?」 

攻撃が突然やんだ。 

空の上で18号は まるで硬直したように静止し、あっという間に落下したのだ。

 

「どうしたっていうんだ?」  

後を追って地上に降りると、そこには母さんがいた。 

見慣れない、小さな機械を手にしている。 

「動作停止装置よ。」 「動作停止・・? それのせいなの?」 

頷いて答える。 

「カプセルの中に入ってたの。 もしもの時のために、ってね。 向こうのブルマの、親心ね。」 

「そんな物、無くたって・・・。」 

言いかけて黙る。 まあ、よかったのかもしれない。 

母さんにとっても人造人間は、どれだけ憎んでも憎み足りない仇なのだから。

 

地面に倒れている18号を見つける。 

焼き払おうと 手をかざしたおれに、母さんがぽつりと言った。 

「まだ、生きてるのよ。」

「え?」 「死んではいないはずだわ。 昨夜、段階調節できるように 装置を改造したの。」

そして おれの顔を見つめながら、意外なことを口にする。 「少し、話をしてみたら。」

「なんだって? ・・・どうしてだよ。」

母さんに向かって、疑問をぶつける。 

「女だから? それとも、父さんや悟飯さんにとどめをさしたのは

こいつのほうじゃなかったからなの?」

「そういうわけじゃないけど・・。」 

「まさか、生きて償わせるとでも言うの? こんな、こんな奴に。」

吐き捨てるように言ったおれに、静かな声で母さんは答えた。 

「そこまでは言わないわよ。 殺すなら それもいい。 トランクス、あんたに任せるわ。」

 

「何 考えてるんだよ・・・。」 

父さんだって・・ どちらの父さんも、そういうに違いない。

 

 

しばらくのち。 18号が瞼を開いた。 

「気がついたか。」 「この野郎・・ よくも、 ・・・を ・・。」

奴は何とか半身を起こすと おれに向かって手をかざし、攻撃しようとした。 

が、うまく構えられない様子で、苦しげに顔をしかめる。

あの高さから落下し、地面に叩きつけられたのだ。 

人造人間といえども、いくらかのダメージは受けたようだ。

 

「・・・ってのは、17号の名前か?」 

答えない。 だが、こういう奴が言い返さずに沈黙するのは、肯定と考えていい。

「もう一つ聞く。 おまえたちは自分から望んで改造手術を受けたのか? それとも、」 

一旦 言葉を切る。 

「レッドリボン軍に捕えられたせいなのか?」

 

そう。 母さんは こうも言っていたのだ。 

『人造人間っていうくらいだから、ロボットじゃないのよね。

この地球で生まれた、普通の赤ん坊だったはずなのよ。』  ・・・

 

やはり、何も答えない。 おれは言った。 

「わかってるだろう。 おまえは もう勝てない。 おれは ある場所で、特別な修行をしてきたんだ。」

母さんのおかげでな。  そう小さく付け加えたとき、18号が口を開いた。 

「そうだ。 あの女が来てから動けなくなった。 あの女、いったい あたしに何をしたんだ?」

「ああ。 これのせいだよ。」 母さんから預かった 動作停止装置を見せる。

「? なんだ、それは。 よこせ・・ 」 「母さんは、本当にすごい人だよ。」 

ひとりごちながら おれは、一番 効き目の弱いスイッチを押した。

 

がれきや破片が無数に散らばる地面の上に、18号は再び倒れる。 

だが、意識は はっきりしているらしく、どうにか会話はできる。

「くそっ・・ だからC.C.ごと壊しちまおうって、何度も言ったんだ。 あたしをどうする気だ。」 

「どうもしない。」 

「なんだって・・?」

体を起こすこともままならない 奴の、目の前に装置を突き出す。 

「しばらく休んでいろ。 そのままの状態でな。」

手足だけでなく、表情も思うようにはならないようだ。 

それでも鋭い目が、怒りに燃えているのがわかる。 

「冗談じゃない。 殺すなら さっさとやれ。」

「気が向いたら、そのうち解除してやる。 

だが、復讐を考えても無駄だ。 おまえはおれに勝てないし、母さんにはこれを持ち歩いてもらう。」

ポケットに装置を戻して、おれは続けた。 

「向こうの母さんのおかげで、物資も手に入ったからな。

簡易式の物をできるだけ多く作って、生き残った人達に配るつもりだよ。」

 

動くことのできない18号を置いたまま、おれは その場を後にした。 

C.C.に向かって飛びながら つぶやく。

「おまえは もう、脅威じゃないんだ。」

 

おれの話を聞いた母さんは、「そう。」 と何度か頷いてから こう言った。 

「とりあえずは終わったのよ。 今日からは 明日の、未来のことを考えて生きていかないとね。」

 

数日後。 装置を手に 様子を見に行くと、あの場所から18号の姿が消えていた。 まさか・・ 

「母さんが・・?」

生きて償わせるっていうの? あんな奴に。 

頭の中で 同じ言葉が、何度も何度も 浮かんでは消えた。 

 

 

それから数年が経ったある日。 

ブルマは、復興しつつある街を歩いていた。 一人息子が、妻を迎えることになったのだ。 

華やかな式など望むべくもないが、親として できるだけのことをしてやりたい。 

そう思って、ある店を覗こうとした時。

少し離れた場所から 見覚えのある女が、こちらの方をじっと見ている。

そう背の高くない、細身の、金色の髪の女。  

あっ、と声をあげそうになったブルマに向かって、女は手をかざした。

ブルマの方もまた、お守りのように持ち歩いていた 動作停止装置を握りしめる。

まだ十分に整備されていない道を挟んで、二人はにらみ合う形になる。

 

その時。  「ママ。」 

伸ばした金髪を二つに分けて結んでいる幼女が、女の方へと駆け寄ってきた。

その後ろには 平凡な容姿の、だが善良そうな男の姿も見える。

なおも女はブルマの方に鋭い視線を向けていた。 

しかし、もう一度 幼女から呼びかけられると、何もせずに歩き去った。

 

「本当に、終わったんだわ。」  誰にともなくつぶやく。

 

その日のことを ブルマは、息子にも 他の誰にも打ち明けなかった。

人造人間が再び現れたという話は、その後一切 耳にすることはなかった。