『僕たちの片想い』
[ 未来トランクス目線の飯ブル・悟ブル・ヤムブル・ベジブルです(笑)。
そして最後は・・・ ]
「ああ、やっぱり難しいわ・・。 失敗しちゃったらゴメンね。」
大きな鏡の前でハサミを持って、ブルマさん・・ 若い母さんがおれの髪を切ってくれている。
「構いませんよ、適当で。」
「時間さえあれば ちゃんとお店に行ってカットしてもらえるのに。」
鏡にうつる、おれに向かって微笑みかける。
「あんたが街を歩いたら、女の子はみんな振り返るわ。」
「えっ・・ おれ、何かおかしいですか?」
「やあね、カッコいいからよ。 モデルか何かにスカウトされるかもしれないわね。」
首にも 額にも、しなやかな指先が触れる。 頬が、どうしようもなく熱くなる。
「それはそうと、あんたの世界の悟飯くんは気の毒にね。」
鏡の中の表情が曇る。
けれど次の瞬間には 声をはずませ、おれと同じ色の瞳を輝かせる。
「大人になった悟飯くんって、どんなかんじかしら。 孫くんに似てる?」
「そうですね。 雰囲気は違うけど、やっぱり似てます。」
「そう。 いい男になったのね。」 含み笑いをしながら付け加える。
「孫くんも、黙ってさえいれば いい男だもんね。」
その言葉で おれは、ある夜のことを思い出した。
眠れなかったおれはベッドを出て、明かりのついている部屋の扉の前に立った。
そこでは、母さんと悟飯さんがまだ話をしていた。
『ああ、 本当によく似合うわ。 そうしてると、なんだか・・・。』
悟飯さんが、新しい道着に袖を通していたようだ。母さんの声には、少しだけ涙が混じっていた。
『お母さんが昔、僕に こんなことを言ったんです。』
『チチさんが? なんて?』
『あの天下一武道会に、お父さんに会いに行ってなかったとしたら・・
お父さんはブルマさんと一緒になってたんじゃないかって。』
短い沈黙の後で母さんはつぶやく。 『それはないわよ。 わたしにはヤムチャがいたし・・ 』
『だけど、ヤムチャさんとは別れてしまった。』
やけにきっぱりとした、悟飯さんの言葉。 それに対して、母さんは何故か答えを返さない。
『わたしも子供だったけど、孫くんは本当に子供だったんだから。』
そして、こんなふうに付け加えた。
『悟飯くんみたいに落ち着いた子だったら、恋してたかもしれないけどね。』
その言葉を聞いた悟飯さんが、何かを言いかけた。 それを遮るようにして、母さんは話し始める。
『この間 言ってくれたこと、うれしかったわ。』 『それじゃあ・・ 』
『でも、やっぱり そんなのダメよ。 いい?今は特殊な状況なの。』
これ以上聞いてはいけない。
わかっていたのに おれは、二人の会話に耳をすまさずにはいられなかった。
『こんな世界じゃなかったら、学校や仕事場にいくらでも出会いがあったわ。
悟飯くんは魅力的よ。 きっと、ステキな恋人ができたと思う。』
悟飯さんが否定する。 母さんは、それに構わず言葉を続ける。
『わたしね、考えてることがあるの。 ものすごく大変だけど・・
うまくいけば、全てがひっくり返るわ。 平和を取り戻せるの。』
『ブルマさん、僕は・・。』
『そうなったら、やり直せるのよ。 悟飯くん、あんたは まだ若いわ。 自分の人生を生きなきゃダメ。』
『僕は、あなたのそばで生きていきたいんです。年の差なんて、僕は気にしません。』
『わたしは気にするわ。 それに・・・ 』
わたしには、ベジータがいるの。
あれは人造人間との戦いによって悟飯さんが左腕を失う、少し前だった。
母さんが考えていたこと。
それはタイムマシンを作って過去の世界におれを送り、悟空さんを死なせないこと、
そして皆に警告をすることだった。
「向こうの世界のわたしは、本当に大変だったでしょうね。」
若い母さん・・ ブルマさんの声で、おれは我に返った。
「あんたがあっちに戻る時のおみやげに、化粧品も入れておくわね。
満足にお肌の手入れもできなかっただろうから・・。」
苦笑いをしながら、おれは思っていた。
それでも母さんは前向きで、いつも とてもきれいだった。
あんな世界にいても、素晴らしい人に 深く愛されていました。
そして・・・
自分以外の誰かを想い続ける女性を愛した 悟飯さんの気持ちが、
今のおれには よくわかります。