『未来』

[ ブログ開設一周年のリクエストで書かせていただいたお話です。

 未来編でトランクス×パンを、とのことでしたが、

こんなかんじにしてみました。 ]

『天国に行くんなら、あんまり年をとらないうちが いいわ。』

平和になってから 母さんは時々そんなことを口にしていた。

なんてこと言うんだよ、 と怒るおれに

『だって、わたしだけ おばあちゃんじゃイヤだもの。』

なんて、笑って言った。

 

そして、ある朝 それは現実のことになってしまった。

おれが結婚してからは、『でも、孫の顔を見てからじゃなきゃね。』って

必ず付け加えていたのに。

 

「おとうさんが、迎えに来たんだと思うわ。」

温かな手のひらで、おれの背中をさすりながら 彼女は言った。

「朝、 お義母さんを呼びに行った時ね、 部屋の窓が少しだけ開いてたの。」

・・ 母さんは、微笑んでいるみたいな顔をしていた。

「きっと、天国の入口まで 二人は一緒だったのよ。」

 

おれは、顔を上げる。

「今頃、天国で君の両親に会ってるかもしれないね。」

涙でぬれた頬をぬぐってやると、彼女は笑顔をつくって おどけたように言う。

「いい奥さんで トランクスは幸せ者です、って ちゃんと言ってくれてるかしら。」

その言葉で、おれも思わず笑ってしまう。

涙をぬぐっていた手を、彼女のおなかに当ててみた。

また すぐに三人家族になる。

おれたちの子供が、もうじき生まれてくるんだ。

 

それから数ヵ月後。

生まれたのは、黒い髪の女の子だった。

「サイヤ人っていうのは、黒髪なんだってさ。」

じゃあ、もしかすると もう伸びてこないんだろうか。

過去の世界で父さんが言ってたことを思い出して、

おれはちょっと心配になった。

 

「あたしの母さんに似たのかもしれないわよ。」

おとなしい方のランチさんは、黒い髪だったそうだ。

「いろんな人に似ているのよね。 あたしから生まれてきたのに、不思議ね・・・。」

眠っている 小さな娘を見つめて彼女はつぶやく。

 

彼女の父親の祖先から受け継ぐものは、この子には表れなかった。

「次の子には出てくるかもね。 いやがるかしら。」

一人目を産んだばかりで、彼女は もうそんなことを言っている。

「間違いなく 母さんが愛した人の娘なんだ、って思えたから

あたしはうれしかったけど。 でも、わかってくれるわよね。」

あっさりと言ってほほ笑む、そんなところが おれはとっても好きだと思う。

そう、彼女もまた 戦いで父を失い、母親一人の手で育てられた子だった。

 

「ねぇ、名前 なんにするの? 顔を見てから決めるって、言ってたでしょう?」

「うん・・・。」

おれは 話し始める。

少し前に、不思議な夢を見た。

この世界とは違う町並み。

おれにそっくりだけれど、おれじゃない別の男。

あれは、おそらく ・・・

 

そして、その傍らには 黒い髪の女の子がいた。

顔は よく見えなかったんだけど、なんだかとっても なつかしい感じがした。

夢の中のおれ、ではない彼は、女の子のことをこう呼んでいたんだ。

 

・・ 気を悪くしたかな。

そう思って、取り消そうとしたら 彼女は声をはずませた。

「かわいい名前じゃない。」

ちょうど眠りから覚めた娘を、ベッドから抱きあげる。

サイヤ人のシンボルである、長い茶色のしっぽが揺れる。

「覚えやすいし、呼びやすいわ。 あたし、とっても気にいっちゃった。」

 

母親になったばかりの彼女の腕の中から、

まだ 見えていないだろう黒い瞳をおれに向ける。

おれは 夢の中で聞いたその名前を、もう一度呼んだ。

「パン。」