200.『揺れる心』
[ 文中に性描写が含まれますので、ご注意ください。]
わたしは、ふたりとも失ってしまった。
ドラゴンボールを探す旅の途中で出会った、古い友達と、大切な人を。
あんなに強くて、いろんなピンチを乗り越えてきた孫くんが、病気なんかで逝ってしまうなんて。
あんなに・・あんなに呆気なく。
彼を知る人は皆、悪い夢を見ている気分だったと思う。
もちろん、あの男・・・ ベジータも 例外じゃない。
あの夜、 わたしはああすることしかできなかった。
しかし、それはすぐにヤムチャに気付かれた。
その結果、ひどい形でわたしたちは別れた。
「友達に戻ろう。」 と告げなくては。
ずっとそう思いながらも、優しさに甘えて先延ばしにし続けたツケがまわってきたのだ。
頭で考えることと、実際に起こることは違う。
いつでも優しかった彼が声を荒げる様子を見るのは、かなり堪えた。
思い出してしまうのがつらくて、あれ以来わたしは酒浸りだ。
母が不在のキッチンに行くと、ベジータが戻って来ていた。
空腹を満たすために、冷蔵庫の中のものを手当たり次第に口に入れたらしい。
味の濃いものを口にしたのか、彼はしきりに水を飲む。
ふと思いついたわたしは、空のペットボトルに細工をし、ベジータに差し出した。
水だと思いこんで一気に飲んだ彼はむせかえる。
「なんだ、これは・・・。」 「お酒よ。 たまにはいいでしょ。」
あの朝何も言わずに、わたしを残してどこかに行ってしまったベジータは、
またわたしを無視して立ち去ろうとする。
「ちょっと待って。 付き合いなさいよ。」 かすかな怒りを込めて言ってみる。
「あの男に言え。」
「ヤムチャのこと? ・・出てったわよ。」
わたしはベジータの腕をとる。
払いのけようとする彼に言ってやる。
「あんた、よく知らないんでしょ。」 「何をだ。」
怪訝そうな彼の耳元に息がかかるようにささやく。
「女のことよ。」
乱暴に手首を掴まれる。 「俺を挑発する気か?」
もう、 いい。 この場で、この男に殺されてしまっても。
「・・・ほら、それがいけないの。
優しくしてくれたら、もっとよくなるのよ。 この間より、ずーっとね。」
酔いと喪失感の中、自分が今どんな顔をしているのかわからない。
今のベジ-タも、それは同じだったのだろうか。
思いのほか、わたしのペースでことが運んだ。
但し、 一度目は。
彼の上で息をついて、ゆっくりと体を離したとき、ベジータが言った。
「貴様・・・ 俺をあの男のかわりにするつもりなのか。」
数秒の沈黙。
「なれないわ。 誰にも。」
そう答えたわたしの顔をじっと見ていた彼は、強い力で自分の方へ引き寄せる。
そして体勢を入れ替えられて、床の上に抑え込まれる。
ベジータからの執拗な愛撫を受けながら、
わたしはヤムチャが最後に言った言葉を思い出していた。
『あんなやつが、おまえを幸せにしてくれると思うのか。』
『なんで、よりによってあいつなんだよ。』
涙が頬を伝う感覚で、自分が泣いていることにはじめて気付く。
ベジータは、わたしの顎を指先で持ち上げて、あることを問いかけた。
勝負する気のもうないわたしは、こくり、と頷いてつぶやく。
「すごく、 いい・・・ 」
ヤムチャとの別れ以来、
思わない、 わからない、 とかぶりをふり続けたわたしは、ようやく肯定する。
愛しているとも、愛されているとも思いきれないまま、ベジータとの関係はその後も続いた。
そしてわたしは、彼の子を身ごもることになる。