282.『壊れた戦闘服』

やはり悲しすぎるために、これまで あまり書けずにいた

ベジータとの別れを、自分なりの感じで書いてみました。

暗いので、お許しくださるかたのみ お願い致します。]

過去の世界から戻って来たトランクスは、ひとまわりも ふたまわりも大きく、逞しくなっていた。

そして、揺るぎない意志と力、数えきれない思い出とともに

数十センチ四方のアタッシュケースを持ち帰った。

「これは・・?」

「別れ際に、持たせてもらったんだ。 おみやげだって。」

 

テーブルの上に置き、開いてみて驚いた。

いったい、いくつ あるのだろう。

超小型のカプセルが、隙間無く ぎっしりと詰められている。

「おみやげっていうより、支援物資だね。 これが、中身のリストだそうだよ。」

封筒を、手渡される。

花模様が描かれた それはおそらく、母さんから拝借した物だ。

うれしさと、懐かしさが こみ上げてくる。

瞼が熱く 重たくなって、わたしは思わず 顔を逸らした。

 

リストと照らし合わせながら、カプセルの中身を確かめた。

思いが込められている物だ。

重機など、大きすぎる物は後回しにした。 けど それ以外は、一つ一つ検めた。

数百個、全ての中身を調べ終える前にトランクスは、

人造人間との最終決戦に勝利した。

 

「一応 これが、最後の一個ね。」

実は、始めから ずっと気になっていた。

他は全部、超小型ながら 大容量という、最新型のカプセルなのに

これ一つだけは、わたしも知っている旧式なのだ。

それに・・・。 改めて、リストを見る。

きれいな封筒に入れられていたけど 便せんではなく、コンピューターで作成した書類だ。

でも 最後に ペンで、手書きで書き加えられている。

間違いなく、わたしの字だ。

こう書かれていた。

『こちらで、トランクスが着けていた物です。 もう必要ないでしょうけど、記念に入れておきます。』

・・・ 

 

そう。  

中身は例の、ブルーのアンダースーツ。 

それに、白いブーツと手袋。 そして、プロテクター。

戦闘で、破損したのだろう。 よく見ると 所々に、補修した跡がある。

手に取ってみる。 

匂いも ぬくもりも、残ってはいない。

それでも 両腕で、プロテクターを抱きしめる・・・。

大きさで、すぐに わかった。 一目で気付いた。

これらは、トランクスが身につけていた物ではない。

久しぶりに、声に出して 名前を呼んだ。

「ベジータ。」

 

あの日の記憶が、よみがえってくる。

 

 

10歳の・・ ううん、もう 11歳になっていたのだろうか。

悟飯くんに抱えられ、C.C.に、わたしの元に、ベジータは帰って来た。

物言わぬ彼を見て、がっくりと膝をついた。

けれど、泣き叫びは しなかった。

この時が、ついに来てしまったという 思いの方が強かった。

頬を、額を、手のひらで撫でる。

べったりと こびりついた血と灰を拭い、ちゃんと きれいにしてあげなくては・・。

 

プロテクターの表面の、大きな亀裂に気がついた。

知らないうちに声が出ていた。

『こんなに されちゃって・・。』

意識しないまま、次々と言葉が出てくる。

『これ作るの、本当に大変だったのよ。 わかるでしょ?

 防御力と、限りなく伸びる伸縮性を 兼ね備えた新素材なんてさ。』

そういえば、あんたも着たことが あったわね。

そう付け加えると 悟飯くんは、はい、と頷いていた。

 

『何度も言い争ったわ。 

もう大猿にならないんなら、少なくとも伸縮性は それほど必要ないでしょって。

 でも、全然 耳を貸さなかったの。』

あいつにとっては これが正装で、標準服でも あったんでしょうね。

『無理だ、できないって弱音を吐いたら、遅れた星だ、の一言で一刀両断よ。』

その 遅れた星で造られた人造人間に、こんなふうに殺されちゃうなんてね・・・。

 

ぼやきと恨みの こもった言葉を、きちんと発することはできなかった。

いくらでも溢れてくる涙と、嗚咽のせいだ。

ぐずり始めたトランクスを連れて、悟飯くんは外に出てくれた。

よかった。

まだ幼い悟飯くんに、一から聞かせてしまうところだった。

誰も知らない、この人と わたしについての話を。

 

だって、みんな死んでしまった。 もう、誰も いないのだ。

ベジータと わたしのことを知る人は・・・。

 

翌日。 葬る前、最後の別れに、彼の手に 戦闘服の入ったカプセルを握らせた。

けれど 死装束は、かつて都で買い揃えた普段着、カジュアルな服にしてしまった。

動かない体。 脱がせることはできても、着けさせることは難しいから。

新しい戦闘服を着せてあげなかったことを、悟飯くんには そう説明した。

でも、本当は違う。 

自分の格好に気付いて、驚けばいいと思ったのだ。

あの世の、入り口という所で。

 

『くそっ、 あの女、 何を考えてやがる!!』

そう言って、地団太を踏んで 怒ればいい。

そして、わたしのことを思い出せばいい。

そう 思ったのだ。

 

ああ、だけど。

いくつもの星を、世界を破壊し、数えきれないほどの命を奪ってきたベジータ。

あの世に着いたら あっという間に 記憶を消され、魂を洗われてしまうのかもしれない。

だとしたら あの人の存在は もう、記憶の中にあるだけ・・。

そう考えると また、涙が溢れてきた。

 

 

ジーンズのポケットを探って、カプセルを取り出す。

持ち歩いていた これには、形見・・

ベジータが、最後に着けていた戦闘服が入っている。

むこうのブルマから贈られた一式も、一緒に 収納する。

「わたしが死んだら、棺に入れてもらおうかな。 書面にでも、残しておかなきゃ。」

ひとりごちた後で、こうも考えている。

トランクスが会ってきた、別の次元にいる もう一人の わたしに向けて。

 

死なずに済んだ あの人を、平和な世界、自分のそばに、どうにかして引き留めてほしい。

戦いの勝利以外の喜びを、敗北以外の悲しみを、できるだけ多く 教えてあげてほしいの。

 

でも これは、何かに書きとめたりは しない。

わたしの、心の中だけに しまっておく。