HAPPY BIRTHDAY

蒼穹乃郁経 NOIR様より、誕生プレゼントをいただきました!

ブルマの誕生日の物語です。]

「誕生日?」

「そうよ。明日、私の誕生日なの。知らなかった?」

 

ある日の朝、トランクスが小学校に行った後、トレーニングを終え

朝食を食べているベジータの前に座り、コーヒーを飲みながら自分の夫に問いかける。

 

「ああ」

「ああ、って…。今まで何年一緒にいたと思ってるのよ」

「何年だ?」

「そういうこと訊いてるんじゃないのよ!」

 

何年も一緒にいたくせに、相手の誕生日も知らなかったの?

そう半ば怒りながら発した言葉に、目の前にいる宇宙人はとんでもないことを言い放った。

 

「サイヤ人にそんな習慣はないからな。興味がない」

 

”興味がない”

流石の私でもこの台詞にはカチンと来て

(「おめぇいっつも怒ってるぞ」、なんていう孫君の言葉は無視よ!)、

気がついたらコーヒーカップを机に叩きつけ、

「あぁそうよね!アンタ達サイヤ人にとって地球の行事なんてどうでもいいわよね!

訊いた私が馬鹿でした!!!

と捲くし立て、唖然とするベジータを置いて、部屋を出て行っていた。

 

「ああもう何よ、アイツ!」

 

衝動的に部屋を出た私は、そのまま研究室へ向かった。

理由は至極簡単。誰にも会いたくなかったのだ。

自室はベジータと共同、庭にはママがいるだろうし、重力室はベジータが来る可能性が高い。

研究室はパパも使うが、幸いなことに今日一日は外出している。

頭に血が上っている自分がそこまで考えたかは分からないが、とにかく今、私は研究室にいる。

 

「私の誕生日知らないなんて信じらんない!」

 

研究室に入ったはいいものの、そのまま実験等をする気にはなれず、

私は仮眠用のベッドに横になりながら愚痴をこぼしていた。

 

「普通、自分の妻の誕生日くらい知ってて当然でしょ!?有り得ないわ!」

と、そこまで考えてふと気付いた。

「ああ、アイツは普通じゃないんだっけ……」

 

そう自分の夫は地球人ではない。戦闘民族サイヤ人の王子。それが夫の肩書きだ。

生まれてからずっと戦うだけために生きてきた。

人を殺し、星を略奪し、売り払う。そんな人生を送ってきたのだ。

そんな男に”地球人としての普通”を求める方がどうかしている。

 

「私ってバカね…。そんなこと、ずっと前から分かってたじゃない」

 

自分の考えの甘さに溜め息が出る。謝らなきゃ、とまでは思わないが、

「いつも通り、いつも通り」と心に念じた。

 

だが、そう意識しすぎたのがよくなかったのか。その日1日私は恐ろしく機嫌が悪かったそうだ。

トランクス曰く、「気は不機嫌なのに、顔が笑ってるからなおさら恐い」、だそうだ。

言われた時は相当驚いた。

自分では気付かなかったし、

何よりベジータの反応がいつもと変わらなかったから分からなかったのだ。

 

「でも悪いのはアイツだし…まぁ仕方ないわね」

「何一人でブツブツぼやいてるんだ?」

!!!どこから出てきたのよ、ベジータ」

「どこからって…さっきから俺はずっとここにいたが?」

 

それは確かに事実だ。今時間は夜12時前、ここはベジータと共同で使っている自室。

時間的にも場所的にも今ここにベジータがいないほうがおかしい。

 

「別に何でもないわよ」

「そうか…」

「ええ…」

「――――――…」

「――――――…」

 

気まずい。

恐ろしく、気まずい。

事の発端はベジータの一言によるものだが、

短絡的にキレたのは自分だしその話題を振ったのも自分だ。

その一言というものも、極普通の地球人の観点からすれば怒りの対象となるものだが、

相手はサイヤ人。

常識なんてものが通用しないのは、20年来の友人によって経験済みだ。

つまり。自分が出した話題に対して、異常な相手は至極真っ当な答えを返したのだが、

普通の恋人を求めた自分が勝手にキレた。ただそれだけなのだ。

 

「あのさ、ベジータ?」

「――――――…」

「ねぇ、ベジー…」

タ、と続けようとしたら、口が唐突に何か柔らかいもので塞がれた。

それが相手の、ベジータの唇だってことに気付いたときには、もう既に唇は離れていた。

 

「え…?えっ、え?」

「――――…」

「どうして…?」

 

返ってきた答えは、ビックリしている私をさらにビックリさせるものだった。

 

「誕生日、なんだろう?」

「あっ……」

「お前、忘れてたのか?」

 

忘れていた。というよりはそんなことよりも、朝のことが気になっていたのだ。

 

「その朝のことはこのことだろうが」

そりゃそうだけど…。でも!

「まだ12時過ぎてなかったじゃない!」

「今さっき過ぎてたぞ」

「へ?」

 

そういわれて時計を見れば、短針は12、長針はその短針を少し過ぎていた。

 

「あっ…」

すいません。もう何も反論できません。

 

「おい、もう寝るぞ」

「あっ、うん」

 

私の夫は”普通”ではない。

だけど、私はそれに満足している。

だって私は、普通よりも”特別”を選んだのだから…。

 

「あんたは最高に特別よ」

「いきなり何だ?」

「何でもないわよ」

「……変なヤツだ」