『あってないようなもの』

[ 『5959』のMickey様より、1万ヒットのリクエストでいただきました。

姉弟のようで そうでない、悟空×ブルマの物語です。]

「やっぱり違うわね・・・」
目の前の光景を少し離れた庭の椅子に座り見ていた。
7年の時を経て戻ってきた友人を向かえて仲間を集めて開いたガーデンパーティ。
彼の周りにはいつでも笑顔が耐えない。
あのベジータすら、悟空に無理矢理引っ張ってこられたとはいえ肉を取り合って喧嘩しながらも楽しそうに見える。
彼のいない間、こうして仲間がみんな集まることはなかった。
それは、何か理由があったことではない。ただ、なんとなく。
なのに彼がいるだけでこんなにも、みんな容易く笑顔を作れる。
彼がいたからこそ、こうして集まった仲間なのだろう。
思わず冒険の日々を思い出しながら、空を見上げ紫煙の先を視線で追いかける。
「まったく、落ち着かない人生よね〜」
「何してんだ?こんなところで」
「きゃぁ!」

煙が消えた代わりにぬっと突然現れた顔に驚き、手にしていたワイングラスを落とした。
それを空中で受け止めたその主は、そのまま液体を喉に流し込む。
「うぇ。やっぱうめぇもんじゃねぇな。飲めねぇことはねぇけど、喉が熱ぃ」
「そりゃ、そうでしょ。あんたが飲めるわけないわ。どうでもいいけど、その突然現れるの止めてくれない」
「ははは。わりぃ、わりぃ。で、何してたんだ?」
「何って・・・なんでもないわ」
「昔のことでも思い出してたんか?」
「・・・あんたって、あいかわらず変なところ鋭いわね」
「そっかな?昔ってなんのことだ?」
「あんたと出会ってから今までのことよ。色々ありすぎて思い出しきれないわ。でも、ここにいるみんなは孫君がいたから仲間になったのよね」
「そんなことはねぇだろ」
「そんなことあるわよ。私一人で旅続けてたって、みんなと仲間になれた気がしないもの」
「ブルマがいたからオラだってみんなと仲間になれたんだぞ」
「良く言うわね・・・悪かったって思ってるわ」
「何だよ急に」
「まさか、孫君が死んじゃうなんて思ってなかったから」
「何のことだ?」
「孫君が悪い奴を引きつけてるなんて思ってたわけじゃないの」
「ああ〜なんだ。そのことか」
「そのせいで戻ってこないなんて思ってもみなかった」
「別にそのせいじゃねぇぞ」
「え?」
「悔しかったんだろうな、オラ。セルにも勝てなくて、悟飯にも追い越されて。その上死んじまったなんてさ。だから生き返んなくていいやって思った。あの世で誰にも負けねぇ力つけてやるんだって思ってたんだ。それによ、いくら地球を救ったからってそう何度も生き返っていいもんでもねぇだろ?」
「そんなの・・・理由にならないわ」
「・・・そうかもな」
「それに私の言葉を生き返らない理由にしたのは事実でしょ」
「・・・・・」
「あれは、孫君を失いたくないから言ったのよ」
「え?」
「だって・・あぁ言っておけば、きっと孫君は責任なんて感じることはないだろうけど、地球を、私たちを守らずにはいられないでしょ?私たちから・・・ううん。私から離れていってほしくな・・」
「ブルマ」
「・・・何よ」
「分かってるさ」
「え?」
「分かってるって。オラも同じだ」
「あんた何言ってんのよ。私が言いたいことなんてあんたに分かるわけないわ」
「そんなことねぇって。まぁでも、チチと結婚しなきゃわかんなかっただろうけどな」
「どういう意味よ」
「まぁ、そういうことだ」

悟空の言わんとしてることはすぐに分かった。
じゃあなと言わんばかりに片手を挙げこの場を去っていこうとする悟空のその手を掴み思いっきり引っぱる。
いくら強いと言ってもみんなといる時は力を最小限に抑えていることくらい分かってる。
不意を突かれた悟空が倒れこみそうになるのを支えるように胸の中に飛び込むと同時に唇が触れた。
もちろんわざと。
目を見開いたまま驚いている悟空の唇に人差し指を立てて押し付ける。
「ナイショよ」
「・・・・何してんだよ」
「何ってキスよ」
「それはわかっけど、そんなことすんなよ。こんなとこベジータに見られたらオラまた死んじまうことになんだろ」
「そうかもね。私だってチチさんに見られたら、まぁ死ぬことはなくても友人は無くすわね」
「わかってんなら・・」
「だからナイショって言ったでしょ」
「そういう問題じゃねぇだろ」
「いいじゃない。コレくらい。挨拶みたいなもんよ」
「ったく・・・ブルマには適わねぇな」
フッと笑う悟空につられるようにクスクスと笑った。

別に気持ちに気付いて欲しいわけではなかった。
誰よりも何よりも愛おしいと思う人は他にいる。
ただ、何にも代えられない大切な人なだけ。
ここに来て確かめ合えるなんて思ってもいなかったから、うれしかったという気持ちを伝えたまでのこと。
「絶対ぇ言うなよ」
「あんただって」
「これでオラの命はブルマのもんだな」
「?・・何言ってんの」
「ブルマがベジータに言ったりしなきゃオラは死ぬことはねぇかんな」
「あ〜なるほど・・いいじゃない。それくらいのほうが。また無茶やりそうになったときの保険になるわ」
「それよりそろそろあっちに戻ろうぜ。ベジータのやつ大変なことになってっぞ」
「え?・・・・ちょ、何、あれ・・・」

亀仙人に挑発されたらしいベジータは、言われるがままに酒を煽り目もうつろなほどにフラフラしていた。
そしてここまで聞えてくるほどの大声でベジータが発したとは思えない言葉を叫んでいる。
「おい!ブルマ〜!!ブルマはどうしたぁぁ!オレの妻だぞ〜オレの傍にいろぉぉ」
「あいつ、酔っ払うとあんなんなるのか?」
「し、知らないわよ。あんな風になったことなんてないわ」
「カカロットぉ〜貴様、人の妻と何してやがる〜!!!」
「おっと、早く行けよブルマ」
「もうバカね、ベジータのヤツ!飲みすぎなのよ!!」
「そういうなって。いいじゃねぇか」
「悟空さ〜どこ行っただ?」
「ああ、今行く!」

少し早足にチチの元へとこの場を去っていく悟空。
その背中に向けて未だ手にしていたタバコの煙を吹きかけ、その煙にまた昔の姿を見る。
今の自分があるのは今までの日々があったから。
でも、この気持ちはあってないようなもの。
私たちがどうにかなることなんて、ありえないことなのだ。
そして、ベジータいてくれるからこその気持ちなのだと気付いた。
それを悟空はわかっていたのだろう。
「やっぱり、変なところだけ鋭いのよね」

また楽しくなりそうな日々にワクワクしている自分を感じながら、久しぶりに心から楽しんでいる仲間達の元へと歩みを進める。
これからも変わらない、大切な仲間達と楽しい時間を過ごす為に――――――