『孤独なバランス』
[ 「クリパチの部屋」のkotosaki様より、当サイトの3万打のお祝いで
いただいちゃいました!! 天津飯×ランチです。
ああ、どうなる?この三角関係! 餃子がめっちゃ好きです♪ ]
オレのなかにはもう一匹オレがいる。
ブリブリでポワポワの、女くせえオレだ。
ちょっと何かありゃあ、「きゃー」とかぬかす、どうしようもねえ女だ。
いや、女じゃねえな。ありゃあメスだ。
そこ来たらオレは立派なモンだ。銃を取らせりゃ外さねえ。バイクもメカもお手の物。
メスの武器なんざあ使わなくても、オレは女一匹、狩人よ。
だが、そのオレのなかにいるメスが気にいらねえ。
このメスときたら、どうやらオレの獲物を狙ってやがるんだ。
「そういう言い方はどうかしら・・・」
メスの声だ。ちっ。メスはメスらしく震えておねんねしてやがれ。
「うるせえ。言っとくけどな、オレが天津飯に惚れてんだ。
てめえは黙ってネンネこいてりゃいいんだよ」
「・・・・・」
闇のなかで、いつも同じだ。 いつも同じ問答をする。
どうしててめえがオレのなかにいやがる?
どうしてオレはてめえのなかにいる?
オレと、てめえ。どっちがオレなんだ?
「あなたが、あの人のことを好きなのは分かったわ。
何度町に戻っても、気が付いたら山にいるんですもの」
「人が苦労して峠を越えたと思やあ、くしゃみ一発でてめえと交代だ。
苦労がおじゃんだ。ろくなモンじゃねえ」
「だから、わたしは町で暮らすのは諦めたわ。ここにいれば、銀行を襲う心配もないものね」
「皮肉が言えるたあ、たいしたメスだ」
けっけっけと笑うと、メスがため息をついて首を振った。
「その言葉使い、どうにかならないかしら。わたし、あなたの言葉がたまに分からないわ」
「オレもてめえのお上品なお言葉様は分からねえよ」
闇に溶けそうな黒い髪。黒い目。垂れて情けねえ面構えだ。
それにひきかえオレはどうよ。
エメラルドの瞳にブロンドの髪。てめえとじゃ月とスッポン、シンデレラと灰かぶりだ。
やっぱりオレのほうが「本物」なんだ。
オレがこの体の持ち主で、このメスは体に生えた寄生虫だ。
「ふん。てめえみてえなややこしいメスが居くさるから、
天津飯も混乱してんだ。とっとと出て行け」
「あら。あなた。あの人のこと何も分かってないのね」
「ああ?」
「あの人は、恋をあまり知らない人よ。
だから、わたしにどう接していいのかわからないんだわ。それで困ってしまっているのよ」
「てめえに接してんじゃねえ!オレだ!!」
勢いあまって叫んじまった。
だって、このメスが。あたちにさわるぅ、とか言いだしやがるもんだから。
「同じよ。わたし、今まで黙ってたけど」
くそう、このメス。やけに迫力出しやがる。
「あなたたちのことを考えて黙っていたけど、わたし、あの人が好きだわ」
「な、何だって!!!!????」
アホかこのメス!!
「お、お、お、オレの男だぞ!!この泥棒野郎!!死にてえのか!!」
「いいえ。あなたのものではないわ。天津飯さんは天津飯さんのものよ」
「よ、横からさらうたあ、太え野郎だ!ぶっ殺してやる!!」
「・・・・・あなたの気持ちが、わたしに流れたのよ」
何言ってんだかわからん。このメス、電波か。
「オレの体に勝手に住みついた寄生虫が偉そうに言うんじゃねえ!
てめえみてえな図々しい野郎は初めてだ。とっとと出ていきやがれこのメス野郎!!」
「・・・・・それは、できないわ。だって、わたしもここにいたいもの」
「畜生畜生!!てめえなんか大嫌いだ!死ね!!死ね死ね死ねっ!!!」
「・・・・・」
「死にやがれ馬鹿野郎がっ!!」
「・・・・さん・・・?」
はっと目が覚めた。
「ランチさん・・・?」
心配そうな顔でオレを見ている男。が二人。
「・・・・天津飯・・・」
「どうかしたんですか。うなされていたようですが」
「ランチさん、死ねとか言ってた」
見ると汗びっしょりだった。畜生。
あのメスが出てくる夜はいつもこうだ。忌々しい。
「・・・心配してくれたのかよ?それで夜這いに来るたあ、嬉しいじゃねえか」
「よばっ・・・・い、いえ、そういうわけでは!!」
「いいんだぜ。この、汗に濡れたオレの色っぽさ。ぐっと来いよ」
「し、失礼します!!」
ばんと閉められてしまった。
「天津飯!情けねえぞ!!てめえそれでも男か!!」
イラついて扉に向かって枕を投げる。
くそう。
両手で髪をつかんで、じっと見る。まぎれもないオレの髪だ。綺麗な色してやがる。
「オレが、ランチだ。あいつじゃない。オレが本物のランチなんだ」
それなのにこの心細さは何だろう。
戸を開けて台所に行くと、餃子がぼうっと立っていた。
「なにしてんだ」
「天さんが」
指差した先に天津飯。壁に向かって正座している。
「・・・・?」
「女性のベッドルームに上がりこんで、あらぬ誤解をさせてしまった。
俺は最低だ。とか言って動かない」
「・・・・・ぷぷっ。馬鹿なやつだ」
思わず笑うと、餃子も振り向いて笑った。
「僕もそう思う」
「ははは。だよなあ」
しょぼくれた背中がおかしくて、ついつい笑っちまった。
「よう、天津飯」
その背中に一気に抱きつくと、天津飯が硬直して動けなくなっちまった。
「・・・・・・」
言葉も出ねえみてえだ。
「オレがてめえを好きなんだ。だからよ、誤解も糞もねえぜ」
天津飯の心臓がばくばくしてんのがおもしれえ。
「・・・・なあ。天津飯。許してほしいか?」
聞くと、こっちを見もしないで首だけ必死に振った。
その後ろ頭が真っ赤っ赤だ。
にやにや笑ってわざとおっぱいを押しつけてやったら、
案の定、湯気が出るくらい熱くなりやがった。けけけ。
「オレを、好きって言ったら許してやる」
「・・・・・」
「あの、うるせえ垂れ目の女じゃねえ。
オレが好きだって。オレが本物だって。言えば許してやるぜ」
「・・・・・・・」
相変わらず固まったままだ。こいつ、生きてるか?
「ら、ランチさん」
「おめえに聞いてねえよ」
口をはさむ餃子をちょっと睨む。
「ランチさん。その質問は駄目。天さんに答えがない」
「ねえわけねえだろ。うりうり、どうだこのおっぱい!好きなんだろうが!!」
「ら、ランチさん」
泡食ってる餃子を横目に、ぐりぐり押しつける。
「!」
突然、天津飯がくるりと体ごとこっちを向いた。と思ったそばから引きはがされた。
畜生。隙を狙いやがったな。
「先ほどは、すみませんでした」
ぺこんと頭を下げてきやがった。
「オレが聞きてえのはそれじゃねえ!!」
「・・・・・」
「あの女より、オレのほうが好きだって言え!
オレがこの体の持ち主だって、お前が太鼓判を押せ!!
それとも、てめえは、オレより」
そこで顔が歪んじまった。
「あいつのほうが、好きなのかよ・・・・」
畜生こうなりゃヤケだ。
わんわん泣いたら、二人が大慌てでおろおろしてた。
「ランチさん。何があったの。どっちもランチさんだよ」
「その、わ、私が悪かったです。何か、怖い夢でも」
「背中から手が生えた三つ目の怪物に襲われる夢?」
「餃子。俺のこと嫌いか」
「客観的事実」
「とにかく落ち着いて下さい、ランチさん」
何がなんだか、もうわかんねえ。
天津飯に取り付いて、わんわん泣いちまった。
怖い夢。 そうだ、怖い夢だ。
オレがオレじゃない夢。 オレはオレなのに。
あいつは、一体何だ?
オレはあいつに殺されるのか。 あいつがオレなのか。
もう、わかんねえ。
「天津飯・・・・怖えよう・・・」
悔しくて悔しくて、怖くて怖くて、情けねえベソをかいちまった。
「・・・・・・」
「・・・!?」
きゅ、と体が包まれる。何かと思ったら、天津飯の手だ。
「・・・・・・」
「大丈夫です。怖くありません」
真っ赤な顔で。でも真顔で。
「・・・・・・」
初めてじゃねえか。こいつに抱きしめられんの。
あったかくて、でけえ腕してんだなあ。こいつ。
「・・・・もっぺん、言え」 「・・・・大丈夫です」
「もっぺん」 「大丈夫です」
「もっと!」 「大丈夫、です!」
「よしもう一回!」 「大丈夫です!!」
「もっとはっきり!!」
「大丈夫ですっ!!!」
最後の方は餃子も混じっての合唱だったけど。
オレはそこでけたけた笑って許してやった。
「やっぱりオレ、お前が好きだな」
それだけ言って立ち上がる。
「・・・・・・」
そっちは答えねえのかい。まあいいさ。
「オレが、オレだ。大丈夫だ。怖くない・・・。ありがとよ、天津飯、餃子」
にかっと笑って手を振った。
女々しく泣いたりしたのが、ちっと恥ずかしかったからよ。服もひでえし。
「お休み!」
「は、はあ。お休みなさい」
「ランチさん。今度はいい夢見てね」
「おう。三つ目の化け物に襲われる夢を見るぜ!」
叫んでベッドにもぐった。
オレがオレだ。あいつじゃない。
「オレは・・・・負けねえぞ・・・」
あいつに負けてたまるか。オレが天津飯に先に惚れたんだから。
そのまんま、朝までオレは寝ちまった。
三つ目の化け物は来てくれなかったみてえだ。薄情な野郎だ。