『魅かれる本能』
[ 「クリパチの部屋」のkotosaki様より、当サイトの一周年のお祝いで
いただいちゃいました!! 未来トラ⇒現代ブルマです。]
しゃきり、と軽い音が耳元をくすぐる。
母親に髪を切ってもらうなんて、子供みたいで少し恥ずかしい。けれど、嬉しい。
「ねえ、トランクス」
背後から聞こえる柔らかい声。
「はい」
この女性は、自分の母親であり、母親でない。
自分の母親にそっくりなしぐさや目線、声の調子はあるけれど、
母親とは全く違うものを持っている。
「あの子がこんなハンサムになるんだものね。あたし、断然育児に興味が出てきたわ。
あんたも、未来の世界では女の子をひいひい言わせているんでしょ?あたしの子だものね」
「ひ、ひいひい?」
あっけらかんと言ってのける母親に、トランクスは我にもあらず動揺した。
「い、いや、それどころではなくて」
「そうなの?駄目よ。いついかなる時でもいい女やいい男はチェックしておきなさい」
「は、はあ」
こんなこと自分の母親は言わなかった。
でも、これが母親の本来の姿なんだろうか。
最高峰の知力を持ちながら、地下に身をひそめて、
多くの人間が死んでいく叫びを聞き続けた自分の母親。
明るく笑う声は同じだ。それでも。
心から何の悩みもなく笑うことは、自分の母親にはできない。
誇り高いような、それでいていたずらっこのような、何とも言えない魅力のある笑い声。
相手を釣り込ませてしまう、絶対の自信に満ち溢れた笑顔。
自分の母親にもこんなふうに笑ってくれたら。
「・・・・トランクスったら!聞いてる?」
「あ、は、はい?」
急に言われてびくっとした。
「片思いくらいはいるんじゃないの?」
どうにもこの母親は、男女の話に目がないようだ。
「・・・・それは、まあ」
「やっぱり!どんな子?可愛い?」
「・・・ええ、明るくて、優しくて」
「あらあら。こました?」
「こ、こますとかやめてください!」
真っ赤になって否定するトランクス。ブルマにはなんだか面白かった。
「・・・・死にました、から・・・」
「・・・・・・・」
「未来では、人が死にすぎて、処理が間に合わないんですよ。
人の死体を処理するような心の余裕なんて、もうないんでしょうね」
「・・・じゃあ、その子は?」
トランクスの脳裏に浮かぶ、ほのかに思いを寄せていた女性の姿。
男の人造人間にさんざんに遊ばれて、生きながら体を裂かれ、
首をまるで飾りのように高々とかかげられた、あの絶望的な表情の生首。
それが日常茶飯事だという悪夢。
「・・・・・・・」
「・・・・ごめんね。もう言わない。さあ、終わったわよ」
ぱんと強く肩を叩かれて我にかえる。
相当険しい顔をしていたのだろう。
「・・・・母さん。ひとつ、質問していいですか?」
立ちあがって髪を払いながら向き直る。
「母さんは、どうして父さんを選んだんですか?」
「うふふ・・・。どうしてかしら」
ブルマが小悪魔のような顔をして笑う。
「亭主と畳は新しいほうがいいってことかしら」
「・・・・・・・」
自分の母親とは全然違う。
自分の母親は、口にすら出さないが、戦いに赴き、
そして亡くなった父のことだけを一途に思い続けている。
それに比べ、内面は量ることはできないが、
この母親は女性としての魅力を失わないことを強く前面に出している。
まるで、亭主は妻を彩る飾りのひとつのように。
数々の死線をくぐり抜けてなお、この母親は気高く美しく振舞うことを誇りとしている。
「ありがとうございます。母さん」
薄く笑って母親を見る。
魅力的にきらきらと、宝石のように光る瞳。香り立つ女性としての自尊心。
(父さんと母さんは、似ているな)
それがなんだかおかしい。
「未来に帰ったら、母さんみたいな、強くて綺麗な女性を探します」
「ああら。よしなさい。マザコンはNGよ」
「・・・・・では、」
そこでトランクスは口ごもった。
「貴女のような人を見つけます」
言い捨ててくるりときびすを返す。ちょっとだけ顔が熱くなっていた。