『秘密のデート 悟チチ編』

あの場所に行くシリーズの悟チチ編です(苦笑)。オチは思いっきりベジブルです。]

ある日の午後。 

ぽっかりと時間があいてしまったブルマは エアカーを使って孫家を訪れた。 

仕事で ちょうど、こちら方面に来ていたのだ。

 

息子たちは学校、 夫は もちろん修行に出ている。 

退屈していたチチは、喜んで室内に招き入れた。

 

いつもの食堂兼居間。 

そこで お茶を淹れてもらいながら ブルマが周りを見回すと、

なつかしい写真が飾られているのが目に入った。

この家の次男坊である、悟天が赤ん坊だった頃のものだ。 

まだ幼さの残る悟飯や、いかにも幼児らしい表情のトランクスも一緒に写っている。

もしかしたら、自分が撮ったものかもしれない。

 

「ねえ。」  

以前から思っていたことを、ブルマは口にする。

「チチさんたちは、三人目はつくらないの?」

 

苦笑しながら チチは答える。 

「そんな・・。 もう、そんな年じゃねえだよ。」

「あら。 わたしより若いじゃない。」  きっぱりとした口調で、ブルマは続ける。 

「孫くんが7年ぶりに戻って来た時、きっと そうなると思って 楽しみにしてたのに。」

「おらたちは もう・・。」 

「わたしは、できればほしいと思ってるのよ。 二人目の子供。」 

「・・・トランクスも喜ぶだろうし、ブルマさだったら いいかもしれねえな。」

「まあ、 あくまでも自然な形でね。 そうじゃないんなら、あきらめるけど。」

 

手造りの茶菓子をつまみながら 付け加える。 

「こんなふうに平和が続くと忘れちゃうけどさ、

わたしたち みんな、一度は あの世に行った身でしょう?」

「・・・。」  

「だからね、 思う存分、悔いのないように生きたいの。 人生のフルコースを、味わいたいのよ。」

それは とても、ブルマらしい言葉だった。

 

「だから、って わけじゃないんだけど・・・ はい、これ。」 

「なんだべ?」  

何かの券のようだ。  「チチさんにあげる。 孫くんと行ってきなさいよ。」

手渡されたそれは、ホテルの招待券だった。 

しかし・・・。  世間知らずなところのあるチチだったが、すぐに察した。

書かれている所在地、そして名称の雰囲気から、どうやら普通のホテルではないということに。

 

ブルマの話は こうだった。

 

都の繁華街に昔から存在している そのホテルは、少し前に大規模なリニューアルが行われた。

今風の洒落た外観に変わったこともあり、若いカップルに大層人気がある。

また 今回の改装に際し、客室内の設備は全て、C.C.社の新製品に入れ替えられた。

 

「その縁でね、そこの経営者から たくさんもらっちゃったのよ。 

ほとんど、うちの社員に配ったんだけど・・。」

困惑気味のチチに向かって ブルマは続ける。 

「都で買い物するついでに、ちょっと寄ってくればいいわ。」

「こんなとこ・・ 若い恋人同士が行くとこだべ?」 

「じゃあ、悟飯くんに渡す?」 「と、とんでもねえ! まだ学生だってのに。」

「なら やっぱり、チチさんたちが使いなさいよ。 少なくとも、マンネリ防止にはなると思うわ。」

 

ブルマは そう言って、にっこりと笑った。

 

 

数日後。  夫である悟空とともに チチは、例のホテルの前にいた。

それほど買い物好きではないつもりだが、やはり 都に出れば、欲しいものはいろいろある。 

けれども今日は何だか、それどころではなかった。

 

「今度は あそこに行くんか? 何の店だ?」  

何も知らない夫からの問いかけに、こんなふうにチチは答える。 

「いや、 その・・ 休憩する所だ。」

「そっか、 ちょうどいいな。 オラ、腹へっちまった。」

レストランなどに入ってしまうと、いくらかかるか わかったものではない。

「弁当を用意してきただよ。 前にブルマさに もらった、カプセルに詰めてきただ。」 

「やったあ。 じゃあ、もう 入ろうぜ。」

 

・・・ せっかくのブルマの好意であるし、招待券のおかげで料金は かからないはずだ。

夫とともに 入口に向かって、チチは歩き出した。

 

客室のドアを開く。 薄暗い。 

だが、ライトをつけてみれば清潔で、高級感もある部屋だ。

しかし どうあっても視界に入ってしまう、キングサイズのベッドの存在がプレッシャーだ。

 

「へえ〜、風呂まで ついてるぞ。 なんだか、人の家みてえだな。」 

「そうだ。 悟空さ、先にシャワーを浴びてくればいいだよ。」

別に、汗などかいていない。 

そう思ったけれど、その間に昼食を並べておくと言われたため、悟空は黙って従った。

 

ふと思いたち、チチはリモコンを手に取った。 

大画面のTVでは映画も観られると、ブルマが言っていたためだ。

スイッチを入れる。  『あ、 ・・・ん、 』  

喘ぎ声が耳に響いて、裸で絡み合う男女の姿が映し出される。

あわてて、スイッチを切る。 驚いた。 普通の映画も、観ることはできるようだが・・。

 

「チチー。」  今度は、大声で自分を呼んでいる声がした。 

「どうしただ?」

浴室の扉を開ける。 広い。 自宅の風呂場の二倍はありそうだ。 

「このシャワー、どうやって 止めるんだ?」 「ああ、こういうのはな、 ・・ひゃっ!」 

服に、水がかかってしまった。

「あーあ、濡れちまったな。 チチも一緒に入っちまったらどうだ?」 

「お、おらは いいだ! こんなの、すぐに乾くだよ!」

逃げるように出て行く。 

明るい場所で裸体を晒すことにも抵抗があったし、 おまけに・・・

悟空は気にとめていなかったようだが、チチは気付いた。 浴室内に、あやしげな備品があったことに。

おかしな形の椅子、 それに、やけに厚みがある大きなマット。 

使い方は よくわからなかったが、やはり ここは そういう場所なのだ。

 

ともあれ、シャワーを済ませて出てきた夫と、昼食にありついた。 

「今、お茶でも淹れるだ。」 

棚には、さまざまな種類のティーバッグが用意されている。

だが チチは、自宅の台所には無いコーヒーメーカーという物を使ってみたくなった。 

もちろん、C.C.社製の最新式だ。

妻にカップを手渡され、悟空は恐る恐る 口をつける。

「おっ。 結構 うめえな。」 「んだ。 いい香りだ。」

「昔、ブルマと飲んだ時はさ、苦くて ちっとも うまくねえと思ったんだけどな。」 

「ふふっ。 大人になって、味覚が ちょっと変わったんだべ。」

「そうかな。 チチが、淹れてくれたからじゃねえかな・・・。」

そんなことをつぶやいて、悟空はベッドの上に、ごろりと横になった。

 

ほどなくして、寝息が聞こえてきた。

あまりの無防備さに、少し驚く。 

全宇宙で最強とも言われている夫だが、慣れない人混みには疲れてしまうのだろうか。

それとも 自分が知らないだけで、腹ごしらえをした後は 仮眠をとる習慣なのかもしれない。

 

容器を片付けた後、少々ためらったけれど チチも横になることにした。

隣にいるだけで伝わってくる体温、規則正しい息遣い。 

それは 長いこと、彼女から遠く離れた場所にあった。

もう、いいのではないか。 

こんなふうに、そばにいられるのなら。

狂おしく求められ、抱きしめられることなどなくても、構わないのではないだろうか・・。

 

 

いつの間にか 眠っていた。 「!?」  

男女のささやく声、 若い女の嬌声で、チチは目を覚ました。 

「悟空さ・・?」 

 

めずらしいことに、悟空はTVに見入っていた。 画面には、例のアダルトDVDが流れている。 

「・・・おもしれえだか?」

「こういうの、亀仙人のじっちゃんが よく観てたな・・。 

あの頃は、一体何やってんのか わかんなかったけどよ。」

「大人になったってことだな。」 

苦笑いとともに 妻が発したつぶやきには答えを返さず、悟空は言った。

「あれ・・ あいつ・・ チチに似てんな。」 画面の中の女優を指さす。 

「えーっ、そうか? 髪がなげえってだけだべ。」

「いや、 色もおんなじだ。 目も黒いしよ・・。 それに、」 

「?」  なんだか、息が荒い。

「・・チチも、ああいう顔すんだ。」

 

その言葉が終わらぬうちに、悟空はチチに覆いかぶさった。

 

 

数日後。  興味津津のブルマに向かって、チチは しどろもどろで報告をした。

「きゃあー、 なんだか 孫くんらしいわ。 だけど よかったじゃない、 濃い時間を過ごせて。」

「だども・・ おら、あんなのは もう、当分 いいだよ。 

家に帰ってからも しばらくは、足腰立たなかっただ。」

「そ、 そんなに・・?」  

頬を赤らめた後、ブルマは しばらく考えこんでいた。

 

「どうか しただか?」 

「うーん、 うちも もう少し日にちをあけて・・の方がいいのかしら。 その方が充実するわよね。」

 

・・・プライベートなことだからと、これまで ずっと、遠慮していた。 

だが チチは、ついに疑問を口にする。

「あの・・ ブルマさのとこは その、 何日おきくらいに・・」  

ごく あっさりと、ブルマは答える。

「ん? ああ、 ほとんど 毎晩よ。」

 

毎晩!!   驚きのあまり、チチは気が遠くなりかけた。

 

「できる時は、だけどね。 でも、何日かでも禁欲してトライした方がいいのよね、 きっと・・。」

 

だが、チチをはじめとする周囲が本当に驚くのは それから数年後だ。

念願かなって、ブルマは二人目の子供に恵まれる。

それは チチと悟空の初孫と同い年の、元気な女の子だった。