I know.

[ ‘09 5/7の悟チチの日に拍手の方にupした、サイヤ人パラレルです。

チチさんはサイヤ人の女戦士という設定です。

下級戦士についての記述に抵抗を感じるかたがいらっしゃるかもしれません。

「おらを連れて行ってくれ。 絶対役に立って見せるだよ。」

 

上からの命令を受け 宇宙へ旅立とうとする男たちの前に、その女はまた やってきた。

懲りもせず。

背中まである髪を後ろで一つに束ねている、中途半端な戦闘力しかない女。

はっきり言って、足手まといだ。

 

うちには必要ない、 働きたいのなら他をあたれ。

そのチームのリーダーのような存在の彼が そう言わなかったのは、

言い争うのが面倒だったことと・・・

何というか、この女がわかっていないからだった。

 

こういった半端な戦闘力の女戦士を、星の侵略に同行させる理由など一つしかない。

 

婚姻を許されておらず、家庭を持たない下級戦士。

彼らにとってのそれは、戦闘以外の数少ない楽しみであり、納得ずくの娯楽だった。

ところが この女だけは頑なにそれを拒否する。

金切り声をあげ、敵が向かってきた時よりも 大暴れする。

 

そのたびに彼は、女と、むきになった男たちの間に入って双方を諌めた。

「おめえら、いったい何しに来たんだ。 味方同士で殺し合う気か。」

 

・・もしも自分が断って、女が他のチームに同行し、同じようなことが起きたとしたら。

そこにはおそらく自分のような者はいない。

反抗的な態度の女は、さぞかしひどい目に遭うことだろう。

悪くすれば 殺されるかもしれない。

そう考えると、彼は何故だか不快な気分になってしまう。

 

 

彼の予想通り、目的の星に到着して間もなく また揉め事が起こった。

 

その女は戦闘力は半端だったが、弱点である尻尾は相当鍛えたらしい。

掴んでおとなしくさせようとした男の手を、鞭で打つように払いのける。

その際、一人が軽い傷を負った。

そのことで男たちは逆上し、力任せに女を押さえこもうとした。 彼以外の数人がかりで。

 

「いい加減にしろ。」 

彼は怒りをあらわにした。

「この星は、これまでよりも厄介なんだぞ。でかいし、住んでる奴はやたら多い。

戦闘力だって、そこそこあるんだ。」

 

「・・この女がわかってねえから、教えてやろうとしただけだ。」 

男たちの言い訳を、彼はぴしゃりと退けた。

「オラの言うことがきけねえ奴は、もう必要ねえ。今すぐ惑星ベジータへ帰れ。」

 

普段は穏やかな彼の厳しい口調に、皆は黙った。

しかし、男の一人が 女にだけ聞こえる声でこうつぶやいた。

「おまえもわかってねえが、カカロットの奴もわかっちゃいねえな。」

 

 

「おい、 しっかりしろ。」

彼の呼びかけで 女が目を覚ましたのは、それから数日後のことだった。

「ん、 あ・・ 」 「気がついたか。」

安心したように彼は笑って、女から離れた。

 

「仕事の方は、どうなっただ。」

仕事。 星の侵略のことを、彼ら、下級戦士たちはそう呼んでいた。

「ついさっき、ようやく終わった。 今回は、きつかったな・・。」

彼がそんなふうに言うのはめずらしいことだった。

 

辺りを見回しながら 女は尋ねる。 「あいつらは・・?」

同じチームの、男たちのことだった。

 

「やられちまったよ。」 背を向けたままで、ぽつりと答える。

「おめえは、一番最初にのびちまってラッキーだったんだ。」

「おらに あんなことしようとしたから、バチが当たったんだべ・・。」

「おい・・!」 彼は声を荒げて振り向いた。

だが、女の顔を見て 黙った。

まるで、涙をこらえているように見えたからだ。

 

「帰るか。 予定をちょっとオーバーしちまったからな。 急がねえと。」

そう言うと彼は、女をひょいと抱き上げた。

「ちょっ・・ 何するだ。 自分で歩けるだよ。」

「重さを確かめたんだよ。 このくらいなら、大丈夫か。」

 

激しい戦闘で、乗ってきた宇宙船も壊れてしまったのだ。 一台だけを残して。

 

本来なら一人乗りの船に、大人二人が乗ることになった。

「さすがに窮屈だな。 眠るしか することがねえけど、腹がへって寝つけねえや。」

二人並んでは、体を横にすることも難しい。 

ぼやく彼に、女は自分の方から覆いかぶさった。

「なんだ?」

「こうすれば、よく眠れるだよ。 多分・・ 」

ぎこちなく唇を重ね、身に着けているものをはずしていく。

 

「わかんねえ奴だな。 あんなにイヤがってたじゃねーか。」

「あんたとじゃなきゃ、イヤだっただよ・・。」

 

思いつめたような顔の女に見つめられ、仕方なく彼は言った。

「オラ、やったことねーんだ。 だから、やり方知らねえんだよ。」

「なんで? 興味ねえのか?」

「腹いっぱい食って、たっぷり寝て、いつもそれでおしまいだったからな。」

 

彼らしい言葉に、女は思わず笑ってしまった。

「おらも、これが初めてだ。 だけど、やり方はなんとなく知ってる・・。」

 

「そっか。」 彼も 体に着けているものをはずし、女を引き寄せた。

「物知りなんだな、 おめえ。」

 

そうだ。 おらは知ってる。  昔、まだ子供だった頃、 おらは見たんだ ・・・

 

 

そう。 女は見ていた。 

もう、10年以上も前、 彼が迎えと一緒に惑星ベジータに戻ってきた日の光景を。

 

 

下級戦士の子の常で、彼も赤ん坊の頃に一人、辺境の惑星に送られた。

着陸の際の事故により 頭に傷を負った彼は、植えつけられた命令を忘れて育った。

緑あふれる惑星で、夜明けとともに起き 日暮れには眠る暮らしを送っていた彼は、

満月を目にすることも無かった。

 

しかし平和な日々は、ある日突然終わりを告げた。

 

音沙汰が無いことに 業を煮やした彼の兄が迎えにやってきたのだ。

わけのわからないまま満月を見せられた彼は 育った星の全てを壊し、育ての親を踏み殺した。

 

宇宙船に押し込まれ、生まれた星に連れ戻された時、彼は泣いていた。

「こんな所、オラは知らねえ。 オラはカカなんとかなんて名前じゃねえ・・ 」

オラの名前は・・・

 

 

二人の吐いた息のせいで、宇宙船の窓は白く曇っていた。

 

いつもきっちり束ねられている女の髪は、ほどけて乱れていた。

それに指を通しながら 彼は尋ねた。

「おめえ、なんて名前だっけ。」

「・・チチだよ。 ホントに戦闘以外のことは何にも知らねえだな。」

 

不満を漏らしながらも女は、彼の背中に腕をまわす。

彼の体は汗ばんでいた。

それは戦闘のためではなく、自分がかかせた汗だ。

なんだか、とても満ち足りた気分になる。

 

「よく眠れそうか?」 「まあな。」

「おらもだ・・。」 寄り添って、目を閉じる。

彼の体には、まだ熱が残っているようだった。

 

おやすみ、 悟空さ。 小さな声で、チチはつぶやく。

あの日 耳にした、もう一つの彼の名前を。

ご注意ください。]