『
Mother&Woman 』
[ ‘11の悟チチの日合わせでupしたものです。 時期はGTベビー戦後です。]
またしても現れた、新たな敵。
恐ろしい戦いが どうにか収束した後、いつものように 仲間内の集いが催された。
その席で、チチに向かってブルマは つぶやく。
「孫くんは結局、子供の姿のままなのね。」
「… おらはもう、どっちだって構わねえ。 大きくても小さくても、悟空さは悟空さだ。」
「ふうん。 さすがはチチさん、達観してるのね。」
「… 。」
チチは答えを返さなかった。
本当は、達観などしていない。 だが それを 今、ブルマに訴える気はなかった。
「あっ!」 ブルマが声をあげた。
遅れて姿を見せた夫 ベジータに、いち早く気付いたためだ。
「もう! 来るのなら一緒に来ればいいのに!」
文句を口にしながらも そそくさと、夫の元へと駆けて行く。
その後ろ姿は、何だか とても嬉しそうだ。
全く、懲りない夫婦だ。 どうせまた、行く行かないで つまらぬ言い争いをしたのだろう。
いつものことだというのに チチは何故だか、意地の悪い気持ちになった。
いけない いけない。 打ち消すように、あわてて首を横に振る。
実は このところ、自分の夫、悟空に対しても そうなのだ。
ささいな、今始まったわけではないようなことに、ひどくイライラしてしまう。
いったい、どうしてなのだろう。
相変わらず落ち着かないとはいえ、ちゃんと元気で、自分の元に戻って来てくれる夫。
二人の息子は どちらも 強く 優しい青年となり、長男の悟飯は早いうちに家庭を持った。
家族の暮らしを守りながらも、弱い者を護ってやれる力もある悟飯。
それが、理想だったのだ。
教育のたまものであると満足しつつも、ビーデルのことが うらやましいと思ってしまう。
多分、疲れているのだろう。 自分は もう、若くはないのだ。
外で食べてくるから、夕飯はいらない。 悟天から電話があった、ある日の午後。
チチはまるで倒れこむように、ベッドに横になった。
どのくらい経ったのだろうか。
涙が 頬をつたう感触、 そして 何度も名前を呼ばれたことで目が覚めた。
瞼を開けると、すぐ目の前に 顔があった。
黒い髪と瞳の少年。 心配そうに覗きこんでいる。
「… あ、悟空さか。」
日の沈みかけた、薄暗い部屋。 一瞬、悟天かと思った。
そんなはずはない。 数時間前、大学の友達と食事をしてくると、連絡があったばかりではないか。
悟天は もう、子供ではないのだ。
「大丈夫か、チチ。 怖え夢を見たんか?」
伸びてきた手が、濡れた頬を拭ってくれる。
「いや、違うだよ。 おっとうの夢を見てただ。」
「そっか … 。」
温かな手のひらが、今度は頭を撫でてくれる。
父親である牛魔王は、二年ほど前に亡くなった。
夢の中で、娘に向かって彼は、大層 楽しげに語った。
あの世で再会した 旧い友人たちと、楽しくやっている。 そんなことを話していた。
傍らには、母親が立っていた。
けれど、夢の中に出てくる母は いつも、顔が はっきり見えなかった。
向こうから、話しかけてくれたこともない。 声を 覚えていないせいだろうか。
周囲からは 母親似だと言われていたし、昔の写真も 何枚も見た。
それなのに … 。
幼い頃に死に別れ、向き合った記憶が あまり 無いせいかもしれない。
そう考えるとチチは いつも、とても寂しい気持ちになった。
今は、少年の姿でいる悟空。
薄暗がりの中、その顔を じっと見つめる。
大きな戦いの後に生まれてきた次男、悟天も、自分と同じになるはずだった。
父親の記憶の無い子。 そうなってしまうはずだった。
だけど、ならずに済んだ。
七年後に起きた、素晴らしい奇跡。
それは この人、孫悟空の力があったからこそ …
「わっ、 なんだ?」
ベッドの上、仰向けの姿勢で腕を伸ばし、チチは悟空を抱き寄せた。
もしかすると自分には、こういう気持ちが足りなかったのではないか。
ブルマやビーデルが幸せそうに見えるのは、まず 自分の方から、愛する夫を抱きしめているから。
きっと、そうだ。
小さいけれど逞しい肩、日なたの匂いのする黒髪。
息子たちの、小さい頃を思い出す。 けれど、何かが違っている。
「チチぃ … 。」
ああ、そうか、呼び方だ。 さあ、夕飯の支度を始めなくては。
そう思って、半身を起こしかけた時。 強い力で 押し倒されてしまった。
「? 悟空さ、どうしただ?」
「だってよ、おっぱい ぎゅーぎゅー押し付けてくるんだもんよ … オラ、もう … 」
覆いかぶさる姿勢のままで、道着の帯を解き始める。
「な、何考えてるだ! 子供のくせに、とんでもねえ!!」
「オラ 子供じゃねーぞ。 えーと、50 … いくつだっけ?」
指をおって、数えだす。 その隙に押し返そうとしたのだが、そうはいかなかった。
「わかったよ。 チビじゃなくなりゃ いいんだろ?」
「え? … !!」
あっという間に、悟空は超化した。 しかも、超サイヤ人4である。
「ほら、これなら いいだろ? ちゃんと大人だし、チチの嫌えな金髪でもねえぞ。」
「そ、それも嫌いだ! そんな真っ赤な目張り … 」
「そうなんか? まあ 声はおんなじだからよ、今日のところは目え つぶって我慢してくれよ。」
「そういうふうに、強引なのが嫌いなんだ! … ひゃっ!!」
あれよあれよという間に、着ている物を剥がされていく。
手を止める気は、さらさら無いようだ。
あきらめ半分で、チチは訴えかける。
「悟空さ、夕飯 …。 腹へってねえのか?」
「悟天は遅えんだろ? オラは後で構わねえよ。」
ああ、 もう、こうなっては …
「おら、もう年だから、その、」
「わかった わかった。 優しく、ゆっくり やってやっから。」
「ゆ、ゆっくりって … … ひいっ!!」
甲高い悲鳴は いつしか、甘い喘ぎに変わっていった。
その頃。 玄関の扉の前で、悟天が うなだれていた。
「入れない …。」
デートがキャンセルになってしまい、仕方なく家に帰って来たのだ。
「あら、 どうしたの?」 パンに、声をかけられた。
「あっ、ちょうど よかった。 頼む、今日はそっちで夕飯を食べさせてよ。」
「あいにく、パパとママは一緒に出かけちゃったのよ。 わたしはC.C.に行くところなんだけど … 」
「そうなの? じゃあ、おれも行くよ。」
飛んでいけば すぐなのだが、人目につかぬよう ジェットフライヤーを使うことにする。
「ブルマさんたちもいないんですって。 だから今日は、ブラちゃんと夕飯を作るのよ。
うふっ、何を作ろうかな。」
悟天の顔が、不安げに曇る。
「えーっと … 大丈夫なのかい?」
「… 失敗したら、トランクスに何かご馳走してもらうわ。」
「いいね! 最初っから そうしてもらえばいいのに。」
「何か言った?」
西に向かう、空の上。 そんな会話を交わしながら 二人は笑う。
暮れなずむ空には、星が瞬き始めている。
親になった、男と女。
彼らが過ごす 甘い時間は、賢い子供たちの気遣いによって 成り立っているのかもしれない。