『奥さまはプリンセス』
[ トラパンの、『キスしてほしい』の天ブラver.です。]
「こんな仕事しなくたって、暮らしていけるんじゃないの?」
妻であるブラがC.C.の令嬢だと知ると、そういう 嫌味みたいなことを言ってくる奴が
たまにいる。
はっきりとは言ってなかったけど
兄さんも、主に新婚の頃、同じような目にあったらしい。
まあ、あきらかに妬みだから、笑って流してるけどね。
でも、考えてみたら
ブラはずーっと、そういうことと戦ってきたんだろうな。
学生の頃なんかは特に。
トランクスも、そうだったのかな・・・。
昼休み、そんなことを考えていたら携帯が鳴った。
「どうしたのさ、
電話なんて めずらしいね。」
かけてきたのはトランクスだった。
もし残業が無いなら、たまには外で会おうと言われた。
夜。 教えられた店に行くと
トランクスはもう来ていて、グラスを半分ほど空けていた。
食事と、いろんな種類の酒が楽しめる、落ち着いた店だ。
アルコールを注文しない
おれを見て、トランクスは言った。
「おまえ、あいかわらず
飲まないんだな。」
「うーん、全然ダメってわけじゃないけど、あんまり おいしいと思えないんだ。
お父さんや兄さんも、そうみたいだよ。」
「ふうん。 孫家の人って、そうなのかな・・。」
そうつぶやいた後 しばしの間、何か言いたげな顔をしていたトランクス。
だが
ついに こらえきれなくなったらしく、声をひそめて話し始めた。
「実はさ・・。」
話の中身はこうだった。
結婚して数年。
パンが夜の生活に
いまひとつ積極的ではないことに不満を抱いたトランクスは、
ある薬を手に入れた。
といっても、アダルトグッズなんかと一緒に売られているような物だから、
半分は冗談のつもりだったらしいけど。
薬嫌いのパンに、どうにか飲ませたまではよかった。
けど、その後が結構大変だったようだ。
めずらしく口にしていたワイン、
偶然目にしてしまった満月という条件が重なって、そりゃあ もう・・。
いや、もちろん
その辺りは ちゃんと割愛して、ご想像にお任せ、だったんだけどね。
おれたちの奥さんは
お互いの身内だから、そういう話は ほとんどしない。
だって、ちょっと生々しすぎるだろ。
でも・・
「普通に暮らしてると忘れちまうけど、やっぱり パンも、サイヤ人の血を引く女なんだよなあ・・。」
料理をつまみ、グラスに口をつけながらも トランクスは何度も その言葉を繰り返していた。
そう。 そうなんだ。
俺の妻であるブラもまた、紛れもなくサイヤ人の女だ。
実を言うと
おれとブラにも、似たようなことがあったんだ。
トランクスには
この話、しなかったんだけどね。
あれは4人目が生まれて、しばらく経った頃のことだ。
ちょうど仕事がすごく忙しかった時期で・・
いろいろと不満だったらしいブラも
おれに、その手の薬を飲ませようとした。
だけど
おれは、簡単には引っかからない。 短気なところのあるブラは、業を煮やして訴えてきた。
『ちょっと
その・・ Hな気分になるだけなのよ。 別にあやしい薬じゃないわ。
だって、この わたしが調合したんだもの。』
自分で作ったってのも
すごいな。
でも
おれは、しっかりと抗議させてもらった。
『おれって
そんなにブラのこと、ないがしろにしてるかな。
そりゃあ平日は、疲れて寝ちゃうこともあるけど・・。』
そういうことに関しての
ブラの基準って、やっぱり自分の両親なのかな。
しゅんとしてしまった顔を見て、ちょっと心が痛んだ おれは、折衷案を出してみた。
『半分ずつなら
いいよ、飲んでも。』
『えっ? わたしと?』
『そう。 おれだけがヘンになって、じっと観察されちまうのはイヤなんだ。』
それを聞いたブラは、ベッドのそばに設置してあるスピーカーに目をやる。
子供部屋で何かあったら、知らせてくれる仕掛けだ。
もっとも
うちの子供たちは 生まれて間もない頃を除いて、夜泣きなんか まず しないんだけど。
『わかったわ。 わたしも飲む。』
きっちり半分に割った錠剤を、おれたちは飲み下した。
どうやら効いてきたらしい。
『なんだか、熱くなってきたな・・。』
体質なのか、ブラは
さらに切なげな様子だ。
『熱い・・ すっごく・・ 』
『大丈夫かい? ちょっと風を入れようか。』
寝室の大きな窓を開ける。
すると、赤々とした円い月が視界に飛び込んできた。
満月だ。 おれは、反射的に目を逸らした。
生まれてすぐに尻尾を切られちまったから、大猿になったことはない。
だけど周りの人から、いろんなことを聞かされていたから。
けれども、ブラは違った。 微動だにせず、満月をじっと見つめている。
『ブラ・・?』 呼びかけてみる。 ゆっくりと こちらを向いたブラ。
『・・・?』
あれ? 瞳の色が、なんだか・・。
『ごく幼い頃に超化を果たした、強い男。 おまえこそ、この わたしの夫にふさわしい。』
いつもと全然違う口調で、おかしなことを口走っている。
『な、何言ってんの? ・・・っ、』
口を塞がれた。 やわらかな唇に挟みこまれ、もっとやわらかな舌が、口内に入り込んできた。
しなやかな手によって頬を包み込まれ・・ というよりも、顔を押さえこまれている。
おれは手を伸ばし、ブラの下着の中に
指を差し入れた。
水の音が耳に届く。
・・すごい。 感度が、かなり増しているみたいだ。
喘ぎ声を出すためだろう。 唇が、ようやく離れた。
『すごいね。 ほら、玉子の白身みたいだ。』
軽口に言葉を返すことなくブラは、汚れている おれの指を口に含んだ。
吸いつきながら、舌を這わせる。
それと同時に片方の手が、おれの体の中心を捕らえる。
唇と、舌と 同じ動きをしている手。
おれ自身からも、ぬるりとした液体が滲み出してくるのがわかった。
『ベッドに行こうか・・。』 『うん。』
こっくりと頷いたブラ。 その表情は
いつもと何ら変わりはなくて、おれは ほっとした。
さっきのあれは、一体何だったんだろう。
その疑問はベッドの上で、より
はっきりすることになる。
着ていた物を脱ぎ棄て、仰向けの姿勢でブラは言う。 『ね、もう来て。』
『えっ、
でも・・。』 確かにもう、十分すぎるほど潤っていた。 だけど・・・
『ブラの大好きな
これ、しなくていいのかい?』
『あ、あ
・・・ っ、 いいの、
もう、待てない、 早く、お願い ・・・
』
『そう? じゃあ・・。』
おっと。 これからは
もうちょっと気をつけようと、話しあったばかりだった。
5人目を産む気はあるけど、少し間をあけたいと言われていたんだ。
手を伸ばして、サイドテーブルに置かれた小物入れを探ろうとした、その時。
『ダメよ!』 『え?』
『そんな物、いらないの!』
えーっ、
でもさ・・。 『今日って、大丈夫な日だっけ?』
『いいから、早く来て!』
有無を言わさぬ、強い口調。
言うとおりにしてやると、ブラは自ら腰を浮かせて より深く、おれを受け入れようとした。
その夜、
何度となく交わりながら、何度も口にしていた言葉。
『ああ
うれしい・・・。 これで、また・・・。』
『・・?』
その他にも
いつもと違うなと感じたのは、体位を変えようとすると ひどく嫌がったこと、
シャワーを浴びずに
そのまま眠ってしまったことだ。
翌月。
案の定というか・・・ ブラの口から、身ごもったことを告げられた。
『あと何年か経ってからにしようって思ってたんだけど・・ ま、仕方ないわね。』
まだ
ぺったんこのおなかを、さすりながら続ける。
『若いうちに産んじゃって、後で
ゆっくりすることにしたわ。 ママもそうしなさいって言ってたもの。』
そして、こんなふうにも言っていた。
『ところどころしか覚えてないんだけど、あの夜はね、
なんとしてでも悟天の子供を授からなきゃならないって思ったの。』
満月を凝視していた後の、ブラの言葉を思い出す。
もしかすると
あれは サイヤ人の末裔である女としての、使命感だったのかもしれない。
欲望を高める薬の効果と相まって、それが呼び覚まされたのだろうか。
なーんて、結局
よくわかんないんだけど。
いい機会だから、前々から思っていたことを尋ねてみた。
『ブラってさ、おれの
どういうところが好きなの?』
ほとんど間を置かず、はっきりと答える。
『とっても優しいところよ。 だけど決して、わたしの言いなりにはならない。
そこが ほんとに、ものすごく好きなの。』
おれは苦笑し、もうひとつの質問をした。
『サイヤ人とのハーフだってことは? やっぱり、関係ある?』
『そうね・・。』
今度は、少しだけ考えていた。
『あるかもしれないわ。 だって
わたし、強い男じゃなきゃイヤだもの。
お兄ちゃんと同じくらい、そしてパパと戦えるくらいに。』
『そうか。』
深く納得しながら
おれは言った。
『そうだよね。 ブラは、サイヤ人のお姫さまなんだから。』
・・・
そう。 おれは、C.C.のお嬢様と結婚したのではなく、サイヤ人のお姫様を妻にしたんだと思ってる。
だから、いろいろと頑張らなきゃいけないんだよな。
仕事に子育て、 強くあること。 そして 可愛い妻・・ 愛しいお姫様の お相手。
円くない月を見上げた後、家族の待つ家に向かって、おれは歩き出した。