STEADY

‘10 夏発行の次世代混血CPアンソロに管理人が出品しました

天ブラIFストーリーの、一部分を膨らませた内容です。

ブラはセル戦後に生まれた子で、悟天と同い年という設定です。]

やけにキョロキョロしてると思ったら、ブラの奴は こんなことを口にした。 

「料金は、結局 どこもあんまり変わらないみたいね。」

 

ここは繁華街の裏通り。 ・・いわゆる、ホテル街ってやつだ。

「じゃあ もう、あそこに決めましょ。 新しめで、清潔そうだから・・。」

そう言うと、視線の先にある一軒に向かって、さっさと歩き出してしまった。

 

入ってすぐに、部屋を選ぶためのパネルが目に飛び込んできた。 

どこがいい、と ご意見をうかがうよりも早く、心配そうに尋ねてくる。

「大丈夫? 払える?」 「・・・。 大丈夫だよ。」 

少しだけムッとしたおれは、一番高い部屋・・はやめておいたけど、

それでも一番安くはない部屋を選んでボタンを押した。

 

エレベーターの扉が開く。 中からは結構年のいってそうなカップルが出てきて、ちょっと驚いた。 

一基しか無いから、居合わせたり すれ違ったりもするらしい。

「あれって不倫よね。 夫婦だったら、わざわざ こんな所に来ないわよね。」 

温かい吐息を おれの耳に吹きかけるようにしながら、ブラはそんなことをささやいた。

 

外の天気が わからなそうな造りの部屋。

ブラは興味津津といった様子で ライトの明るさを調節したり、

あちこちの扉を開いたり閉じたりしている。

かと思えば、今度はリモコンを手にとって TVのスイッチを入れた。 

『あ、 ・・・ん

喘ぎ声。 大画面には裸で絡み合う男女の姿が映し出される。

驚いたことにブラはベッドに腰かけて、まるで観察でもするように じっくりと観ている。

 

「・・面白いのか?」  そう尋ねるよりも早く、おれに向かって質問してきた。 

「こういうの、観たことあるんでしょ? どこで観たの?」 

「・・・。」 

 

自分の家では観られないということを、よく知っているのだ。  「友達の家、かな。」 

「誰? 友達って。」 「いいだろ、誰だって。」

「もしかして、お兄ちゃん?」 

おれが否定しないのを見て、わざとらしく騒ぎ立てる。 

「二人してそんなの観てたの!? やだ〜、イヤらしい。」

「ちょっと黙れよ。」 「今度ケンカになったら、そのことを言ってやろうかしら。」 

「黙れってば。」

 

うるさいブラをベッドの上に押し倒し、口を塞いでやった。 

実をいうと、ここまでは これまでにも何度もあったんだ。 ブラの部屋でも、おれの部屋でも。

だけど どうしても、同じ家にいる家族のことが気になって、それ以上は進めなかった。

この間なんて 閉め出されたパンが怒って、ドアをこじあけちまったんだよ・・・。 

あの時は まいった。

だからこそ 小遣いをはたいて、こういう所に来たわけなんだけど。

 

手にしたリモコンでTVを消したおれは、意を決して 着ていたシャツを脱ぎ捨てた。 

「・・ブラも脱いでよ。」

思い切って声をかけると、意外と素直に言うとおりにしてくれた。

「シャワー、浴びないの?」 「後だろ、普通。」 

「そうかしら・・。」

 

華奢な体。  貫けるように白い肌。

ベジータさんが ブラに戦うことを教えなかった理由の一つが、理解できた気がした。

「子供の頃とあんまり変わってないな、って思ってるでしょ。」

ブラは胸が小さめだってことを、ずいぶんと気にしている。 

「思ってないよ。」

答えながら、そういえばチビだった頃は、一緒に風呂に入ったこともあったんだよな、なんて思った。

 

「悟天は ずいぶん変わっちゃったわ。」 

ブラらしくない、しんみりとした口調。 うるんだ瞳でじっと見つめられると 何だか・・・、

呼吸が浅くなってくる。 

落ち着きたくて、もう一度 キスをしてみた。  さっきよりも深くて、ずっとずっと長いキス。

唇が離れてからは、さすがのブラも瞼を閉じて おとなしくしていた。 

ただし、しばらくの間は、だけど。

 

 

悟天は、そりゃあ大変だったと思う。  

だけど わたしだって、結構大変だったのだ。

それでも まあ、何とか・・・ ふふっ。  

悟天の大きな手は今、わたしの髪を優しく撫でてくれている。

小さい頃は、当たり前みたいにつないでいた、そして 少し前から、またつなぐようになった手。

それは ついさっきまで わたしの体のあちこちを、不思議そうに、大事そうに触れていた・・・。

ずっと好きだった男の子と、こういう関係になれたこと。 

本当にわたしは幸せ者だと思う。

でも その気持ちを保ち続けていくには、努力が必要だ。

それは、ママを見ていると よくわかる。

 

「どうかした?」 

少しだけ心配そうに、悟天がわたしの顔を覗き込んでいる。

「何でもない。」 

腕を伸ばして、両手で頬を包み込んでキスをする。 

今日は もう、何度目なのか覚えていない。

好きよ、という言葉の、代わりのつもりだった。 

けれど、やっと離れた唇で、わたしに向かって悟天は言った。 

「好きだよ。」

 

 

二人は結局、 シャワーなど浴びずに、ぎりぎりの時間まで ベッドの上で過ごした。

外に出てから悟天は言った。 

「ちょっとパンにおみやげ買っていくからさ、 適当なのを選んでよ。」

珍しいと思いながらも、ブラは快諾する。 「うん、いいわよ。 ・・だけど、大丈夫?」 

「何が?」 余計なお世話と知りつつも、尋ねずにはいられない。 

「お小遣いよ・・。」

「大丈夫だよ。 休みになったら アルバイトするし。」 

「えーっ、宿題は? それに、進学のことも考えなきゃ。」

「宿題は、ブラに・・。」 「ただ写すのはダメよ。 解き方を教えるんならいいけど。」 

「ちぇっ、厳しいな。」

 

しっかりと手をつなぎながら そんな会話をしていた二人は、

すぐそばにある強大な気の存在に気付かなかった。

 

そう。  若い二人を見つめていたのは ブラの両親である、ベジータとブルマ夫婦だった。

何故 こんな所にいるのかというと・・ 

買い物に出たのはいいが 人混みに不満たらたらの夫を、ブルマが悪戯心で誘導したためだ。

『だったら、静かな場所で休んでいきましょうよ。』 などと、言葉巧みに。

 

「あら〜・・ あの二人、ついに そうなっちゃったのね・・。」 

呑気な、だが うれしそうな妻の声。

それにより、驚きのあまり固まっていたベジータは 正気を取り戻した。

「くそっ、 あの小僧・・・。」

追いかけようとする夫を、ブルマは必死に押しとどめる。 

「やめなさいよ。 すごく楽しそうだったじゃない。 水をさしちゃ、かわいそうだわ。」

 

そして、いつになく きっぱりとした口調で告げる。 

「今晩はそっとしておくけど・・。 ブラには明日、わたしの方からちゃんと話をするわ。」

「話だと? 何の話だ。」 

「これまでどおり、勉強を頑張ること。 きちんと門限を守ること、 あとは・・ 」 

一旦、言葉を切る。

「必ず、避妊すること。」

 

怒りと衝撃のため、ベジータは すぐに言い返すことができない。 

そんな夫に向かって、ブルマはさらに続ける。

「あの子たち、まだ若いでしょ。 ケンカもいっぱいするだろうし、どうなるか わかんないわ。 

でもね、もし傷ついたとしても 絶対に、」

うんと大切な思い出になるはずだから・・・。

 

「あっ、 今のは一般論ね。 別に、わたしのことってわけじゃないのよ・・ きゃあっ!!」

夫へのフォローが終わらぬうちに、ブルマは悲鳴をあげることになった。 

強い力で引き寄せられたと思ったら、まばたきをしている間に、

すぐそばにあるホテルに連れ込まれたのだ。 

それは まるで、瞬間移動のような早業だった。

 

いつもよりも丁寧に紅を塗られた、形の良い唇をとがらせながらブルマはつぶやく。 

「どうせなら、向こう側にあった 新しめの所がよかったわ。」

 

 

ブラが選んだ小さなぬいぐるみを手にして、パンが歓声をあげる。 

「わあ! うれしいな、ありがとう!!」

けれども すぐに、心配そうに尋ねてくる。 

「でも、大丈夫? お小遣い足りないって、いつも言ってるのに。」

・・なんで みんな、同じことを言うんだ。 

「平気だよ。 それよりさ、こないだのこと、おばあちゃんたちには言ってないよね?」

「ん? うん。 言ってない。」 

よかったーーー。  胸をなでおろしたおれに、パンは再び質問をする。 

「どうしてブラちゃんは、あんな恰好をしてたの?」

 

・・あの日は おれの部屋で、ちょうど制服のブラウスを脱がせ終えたところを、

パンに見られちまったんだ。

「えーっと、 暑いって言うからさ・・。 ほら、よその家なのに 行儀が悪くて恥ずかしいだろ、

だから、 な。」

「うん。 わかった。 内緒ね。」 「そうそう、 頼むよ。 パンはいい子だな。」 

・・・

 

おれは甘かった。  というか、誤魔化し方に問題があった。

よその家で服を脱ぐなんて行儀が良くない。 だから、みんなには内緒。 

だけど、ブラの兄貴であるトランクスになら 言っても構わないだろう。 

パンは、そう考えたらしい。

パンの口からトランクスにばれて、

その会話を聞いていたお母さんにも、知られる羽目になっちまった。

 

ブラによれば、ブルマさんたちも 何故かとっくに知っているという。

その結果 おれたちは、これからの付き合い方について、いろいろな取り決めをさせられてしまった。

 

「あーあ。」  溜息をついたおれに、苦笑いを浮かべながら ブラは言った。

「仕方ないわよ。 ほんとは もうちょっと、みんなには秘密にしておきたかったけど・・。」

なんだかんだ言って、二人っきりになるのは久しぶりだった。

 

学校、 進路、 それに将来のこと。 

この地球には、戦闘以外にも大変なことが いっぱいある。

 

だけど、おれの隣を歩いているブラの横顔は きれいで、

つないでいる手は あったかくて柔らかい。

だから おれは、やっぱり すごーく 幸せ者だなって思った。