『涙のメリークリスマス』

‘09のクリスマスイブに、ブログの方にupしたものです。]

クリスマスイブが目前に迫った休日。

 

6歳のブラは ブルマに連れられ、大勢の客でにぎわうショッピングモールに来ていた。

目的はもちろん、クリスマスプレゼントの買い物だ。

しかしブルマときたら、自分への贈り物選びに 少々熱が入りすぎていた。

長い時間 放っておかれて退屈したブラは、ブランドショップの重い扉を開けて

店の外へ出てしまう。

何軒か先にあるはずのおもちゃ屋へでも行こうとしたのだが、

人の波に押されてしまい、その場から どんどん離れていった。

 

その時。

人の群れの中で ブラは、とてもよく知っている気を見つけた。

「悟天!」 「え? あれ? ブラちゃん。」

父親の意向により戦う訓練はしていなかったけれど、彼の気は感じ取ることができた。

 

悟天は、ガールフレンドと一緒だった。

金髪の彼女との間に割り込むようにしてブラは訴える。

「お買いものに来たんだけど、迷子になっちゃったの。 ねえ お願い。 ママを探して。」

「ベジータさんかトランクスは一緒じゃないのかい?」

悟天は、気を探ろうとしたようだ。

「お兄ちゃんは女の子とどこかへ行っちゃったわ。

パパは来てないの。 人混み、大っきらいだもの。」

 

「・・迷子センターへ行けばいいんじゃないの? その辺の店員さんに頼めばいいわよ。」

金色の毛先を弄びながら 彼女が言った。

デートの邪魔をされ、どことなく不機嫌そうだ。

「そうだね。 アナウンスしてもらった方が確実だな・・。」

「じゃあ、そこに連れてって。」

ブラは悟天の顔を見上げ、ついさっきまで彼女のそれと つながれていた手を握った。

 

実を言うとブラは、母の携帯の番号も、さっきの店の名前だって ちゃんと覚えていたのだ。

だけど もちろん、そんなことは口に出さない。

 

迷子センターで係員に事情を説明した後、

じゃあね、と出て行こうとした悟天の上着を掴んで、ブラは わざと心細げな声を出す。

「ママが来るまで、ここに一緒にいて。 ね、いいでしょ・・。」

 

人のいい悟天は、もちろん突っぱねるはずがない。

並んで椅子に腰を下ろす。

「ブラちゃんは、サンタクロースに何を頼むんだい?」

「プレゼントは、ママからもらうわよ。 お兄ちゃんも何かくれるかも。」

 

「あら。 この子、サンタクロースを信じてないのね。」

彼女が口を挟んでくる。

こんなことに付き合わされて、かなり機嫌が悪そうだ、

彼女に向かって、ブラはきっぱり言い放つ。

「ううん。 きっと いると思うわ。」

「そう。 いい子じゃないから、来てくれないのかしら。」

・・外見はともかくとして、あまり性格の良い娘ではなさそうだ。

「お姉さん、知らないの? サンタクロースはね、お金じゃ買えないものをくれるのよ。」

 

「神龍みたいだね。」

言い返されて ムッとしている彼女を制して、

自分にだけ聞こえるように ささやいてくれた悟天。

「ママが教えてくれたの。」

満面の笑みを浮かべて、ブラは答えた。

 

けれども、駆けつけてきたブルマに礼を言われた後

外に出た二人を目にしたブラは 泣いてしまった。

まるで機嫌をとるように彼女の頬にキスをしている、悟天の姿を見てしまったから。

 

帰宅した後、兄に向ってブラは訴える。

「お兄ちゃん、お願い。 今年はプレゼントいらないから ドラゴンボールを一緒に探して。」

「? 何言ってんだよ。 おまえが前につまんないこと言ったせいで

パパがレーダーを隠しちまっただろ。」

「じゃあ、レーダーを一緒に探して・・・。」

 

泣きべそ顔の妹の頭をなでてやりながら、トランクスはこんなことを言う。

「別に急がなくたって、あと10年もすれば おまえの言うことを聞かない男なんていないさ。」

「ほんとう?」

顔を上げたブラの気持ちを、トランクスは わかっていた。

ああ、と答えて付け加える。

「ただし 独身だったら、だけどな。 結婚しちまってたら無理だな。

あいつは そういう奴じゃないから。」

 

ブラは祈った。

神様でも、神龍でも、サンタクロースでも 誰だって構わない。

わたしが大人になるまで、悟天が待っていてくれますように。

それまで誰とも、結婚なんてしませんように・・・。

 

さて、 その日から10数年の時が経ったクリスマスイブ。

子供たちへのプレゼントを用意しながら、ブラは思い出していた。

「あの時のお願いは、ちゃんと叶ったんだわ。」

そうよね。 だって、わたし いい子にしてたもん。 なーんてね。

 

「ん? 何か言った?」 「ううん。 なんにも。」

そう答えて、ブラはベッドに入る。

大人になった今、もう靴下は下げていない。

けれども 温かなベッドには、愛する夫が待っているのだ。