週末。
ブルマは仕事で出かけてしまい、トランクスは いつの間にかどこかへ行ってしまった。
退屈なブラは、父親にせがむ。
「ねぇ、 久しぶりにパンちゃんのおうちに行きたい。」
同じ幼稚園に通っていた それまでとは違い、
小学生になってからは なかなか行き来できなくなっていた。
渋る父親に、ブラは言った。
「一緒じゃなくても別にいいけど。 わたし、もう一人で飛んで行けるわ。」
その言葉で、仕方なくベジータは重い腰を上げた。
孫家に着くと、家の前に見知った青年の姿があった。
この家の次男坊、 悟天だ。
「悟天!!」 ブラが駆け寄る。
「ブラちゃん。 久し振りだね。 あ、 ベジータさんも・・・。 こんにちは。」
きちんと頭を下げて挨拶をしたというのに、ベジータはひどく苦々しげだ。
「あいにく、みんな買いものに出ちゃったんだよ。電話してくれればよかったのに。」
ブラは、わざと電話をしなかった。
都合が悪いと言われたくなかったからだ。
何故だかわからないけれど、悟天は家にいるような気がしていた。
「誰もいないなら仕方ない。 ブラ、帰るぞ。」
「えーっ、 イヤよ。 帰ったって、つまらないもの。」
見る見るうちに表情が険しくなる父親に、まるで臆することがない。
「まぁ、 せっかく来たんだし・・・ ちょっとゲームでもしていく?」
気を遣った悟天の提案に、ブラは満面の笑みを浮かべて頷いた。
そして振り返ると、父親に向かって言い放った。
「パパ、 退屈だったら先に帰ってもいいわよ。」
少しの間 裏山で体を動かして、その後で迎えに来る。
そう言い残して、ベジータさんは飛び去った。
お父さんや兄さん、そしておれが修業をした、思い出深い裏山は
今日、根こそぎ吹っ飛ばされて、跡かたもなくなってしまうかもしれない。
そんなことを思いながら ブラちゃんを家の中に招いた。
「何して遊ぼうか。」
「何にもしなくていいわ。 悟天と、おしゃべりがしたいの。」
ふーん?
そうだ。 おれは、前から気になっていたことを話してみた。
「あのさ、おれの方がずーっと年上なんだからさ、
呼び捨てっていうのはちょっと・・・ 。」
「じゃあ、何て呼べばいいの?」
うーん。 悟天さんじゃ堅苦しいし、悟天くんってのも・・・。
「パンと同じく、悟天おにいちゃんでいいよ。」
「でも、パンちゃんは前に言ってたわ。
ほんとは叔父さんだけど、まだ若いから おにいちゃんって呼んでるって。」
そして、こう付け加えた。
「悟天は わたしのお兄ちゃんじゃないのに、おかしいわ。」
そうかなぁ・・・。
「じゃ、別にいいよ。 悟天でも。」
「わたしのことも、ブラ、って呼んでいいのよ。」
「えーっ・・・。」
ベジータさんの視線がコワイんだけどな・・。
「呼んでみて。 ねぇ、 いいでしょ。」
大きな、青い瞳がおれをじっと見つめている。
同じ色の長いまつ毛に縁取られているから、より一層、青が濃い。
「ブラ。」 口に出してみた。
小さな彼女は、おれの顔を、口元をじっと見ている。
おしゃべりをしていないブラちゃんは、何かに似ている。
ああ、 そうだ。
パンの部屋に飾ってある人形だ。
兄さんが、仕事で行った遠い町で作られたという、きれいな人形。
どうして、他のと一緒におもちゃ箱にしまわないのかと聞いた時、
パンはこんなふうに答えていた。
『この子は、お姫様だからよ。』
お姫様。 そうだった。 ブラちゃんは ・・・
その時。 携帯が鳴った。 学校の友達からだ。
「ごめん、 おれも出かけることになっちゃった。」
不満げなブラちゃんが 何かを言いかけた ちょうどその時、
ベジータさんの気が、家の玄関のすぐそばにあるのを感じた。
帰り道、誰にともなくブラはつぶやいた。
「わたし、もっと早く生まれてきたかったわ。 神龍に頼んだら、叶えてもらえるのかしら・・・。」
C.C. に戻ったベジータが、娘に決して見つけられないように
ドラゴンレーダーを厳重に隠したことは 言うまでもない。