170.『彼女がビキニに着替えたら』

[ 16歳、微妙な年頃のブラ目線にベジブルの過去エピソードを混ぜました。

天ブラ感が強めですので、お許しくださるかたのみ お願い致します。]

「もうっ、遅いなあ。 いつまで待たせるのよ!」

試着室のカーテンを掴んで、勢いよく開く。 すると、

「キャッ、何すんのよ!」 

中にいたママが、悲鳴と抗議の声を上げた。

でも すぐに、わたしに向かってポーズをとる。

「どう?」

ご自慢のバストを、特に強調するようにして。

 

今は夏。 来週から家族で、ビーチに出かける。

だから今日はママと二人で、新しい水着を買いに来た。

ママが選んだのは もちろん、大胆なカットのビキニだ。

「パパが怒りそうなデザインね。 ケンカで せっかくの旅行が台無し、なんて やめてね。」

わたしの皮肉に、ママは笑顔で言葉を返す。

「平気 平気、あいつも もう わかってるもの。 昔は、慣れてなかったのよ。」

昔、ね。

ママが何のことを言っているかは わかっている。

それは お兄ちゃんが、まだ小学生だった頃の話だ。

当然 わたしは まだ、この世に生まれてきてはいない。

でも いろんな人から聞かされて、知っている。

 

うちと孫家、それに パンちゃんのママであるビーデルさん。

当時は まだ、悟飯さんの恋人だったんだけど…

とにかく、その他にも 仲間が何人も集まり、皆で海に出かけたことがあった。

その中にはパパもいた。

お兄ちゃんとママによる説得の末、どうにか同行させることができた。

今は そんなでもないんだけど、当時は いろいろと大変だったらしい。

それなのにパパときたら、すぐに飛んで帰ってしまった。

ただし一人でではなく、ママを連れてだ。

羽織っていたパーカーを脱いで水着… もちろんビキニなんだけど、

ママの その姿に目をむいたパパは、怒るよりも先に、ママを抱えて飛び去ってしまったのだ。

 

この話をする時は、みんな あまり歯を見せないでクスクス笑う。

置いてきぼりにされたことを思い出すためか、

お兄ちゃんだけは少し、ふてくされた顔をするけど。

その件について、ママは こう説明する。

『前の晩、あいつの前で ちゃんと着て見せたのよ。 でも その時は、フン、としか言わなかったの。

 それが どうやらね、下着だと思ってたみたい。 外で着る物だとは思わなかったのね。』

「… フン。」 

思い出したら まるで、パパみたいな声が出た。

 

ママが ようやく、試着室から出てきた。

「さっきのやつに決めるわ。 ブラ、あんたはどうするの?」

「来た時に見た、あれでいい。」

お店の入口近くに飾られていた物で、ワンピースでもビキニでもない、いわゆるセパレーツだ。

案の定、ママはケチをつけ始める。

「えー、あれ? かわいいけど あれじゃ普通の服みたいよ。 もうちょっと思いきったのにしたら?」

「じゃあ いらない。 去年のを着るわ。」

悲しいことに、サイズは ちっとも変わっていない。

ああ もう16だっていうのに、いったい わたしは、いつになったらママみたいになれるの?

 

「何よ、せっかく来たんじゃない。 ねえ、あんたもビキニにしたら どう?

 フリルがいっぱいついたやつにすればさ、胸が小さくたってOKよ。」

「… いらないってば!!」

ふんっ、大きなお世話よ。 わたしが何を着ようが関係ないでしょ。

それに、ママと いちいち見比べられる身にも、なってほしいのよね!

 

踵を返して店を出る。

「ブラ! 待ってよ!」

追いかけてくるママの声に、構わず ずんずん歩いて行く。

すると、「!」 

大きな気を感じた。

強いだけじゃない、わたしにとっては なつかしくて、ひどく優しい気。

「やあ、ブラちゃん。 久しぶりだね。 ショッピングかい?」

「そうよ。 …」

「悟天くんじゃない、久しぶりね! その格好は、仕事ね? 暑い中 大変ねえ。」

追いついたママが、全て 先に言ってしまう。 でも、

「ねえ、時間ある? 今ね、お茶でも飲もうって話してたとこなの。 どう?一緒に。」

「じゃあ、ちょっとだけ。 ちょうどよかった、おれ 昼 あまり食べられなかったんですよ。」

やった。

ママの強引さが、功を奏した。

 

三人で、すぐ そばにあるファミリーレストランに入った。

席に着いてママは すぐ、来週から行くビーチの話を始めた。

「そういうわけでね、C.C.社が手を入れて、施設が ぜーんぶ新しくなったんだから。」

「へえー いいなあ、楽しみですね。 海かあ、しばらく行ってないなあ。」

「まあっ、若者らしくないわね。 仕事が忙しいのはわかるけどさ…。

 ねえ、悟天くんもいらっしゃいよ。 昔は よく みんなで集まったり、出かけたりしたじゃないの。」

「えっ、でも… 」

「トランクスも週末には来る、ううん、来させるわ。

 そうだわ、パンちゃんにも しばらく会ってないわね。 一緒に連れて来てよ。」

「ママったら。」

口を挟もうとする わたしに構わず、ママはこう続けた。

「時間っていうのは作るものよ。

 それに、あんたたちは体力があるし、空も飛べる。 もっと人生を楽しみなさいよ。」

 

「仕事のない日は、恋人に会うんでしょ?」

隣に座る悟天に向かって、わたしは やっと口を開いた。

「海へも、その人と行くのよね。 だったら わざわざ、わたしたちとなんて、」

「いや、違うよ。」

わたしの言葉を遮るように、やけにきっぱりと否定する。

「たぶん、無い。」

「え…?」   どういう意味?

 

その時。 ママの携帯電話が、にぎやかな音を奏でた。

「はい。 はい… ちょっと 失礼するわ。 ごめんね。」

席を立ち、そそくさと移動する。

何よ、あれ。 もしかして、気をきかせてくれたつもり?

だって 今の着信音は、電話じゃなくてメールのはずだわ。

 

ちょうど食事を終えた悟天が、空いた椅子に置かれている、ショップの紙袋に目を向けた。

「もしかして、水着を買ったの?」

「うん。 パパのだけどね。」

そう。 来てすぐに、パパの物を買った。

さっき わたしが店を出てしまったから、ママは水着を買えなかった。

「ママったら おかしいのよ。 派手好みのくせして、パパには地味な物ばかり選ぶの。

 理由を聞いたらね、他の女の人に注目されたくないからなんだって。」

「あはっ、思い出すなあ。 あのね、昔ね… 」

また あの話を聞かされると思った。

けれど違った。 悟天の話は、それの続きのようなものだった。

 

「おれは中学… いや、高校生か。パンとブラちゃんが、まだ2〜3歳の頃だよ。

 あの時も、うちのみんなと誘い合って 海に出かけたんだ。

 海岸で上着を脱いだブルマさんは予想通り、そりゃあ大胆なビキニを着ていた。

 それで全員が、ベジータさんを見た。 でもね、特に何にも言わなかったんだ。

 どうしてだと思う?」

悟天からの問いかけに、わたしは首を横に振った。

「わかんない。 どうして?」

「ちっちゃな ブラちゃんの水着と ブルマさんのビキニが、まるっきり おそろいだったからだよ。 

 あれは ちょっと、怒れないよなあ。」

そういえば、家に写真が ちゃんと ある。

記憶は全然残ってないけど、見ると何だか、優しい気持ちになる…。

 

「さ、 そろそろ戻らないと。 楽しくて、ちょっと ゆっくりしすぎちゃったよ。」

そう言って席を立とうとした悟天に、わたしは改めて言葉をかけた。

「ねえ、来週、いつでもいいから来て。」

もちろん 海、旅行先のビーチにだ。

「ちょっとだけでもいいの。 ほとんどプライベートビーチだから、のびのび泳げるわ。

 その代わり、若い女の子なんかはいないけど…。」

「ブラちゃんも、ビキニ着るの?」

思いがけない質問に、わたしは ほとんど、反射みたいに頷く。

「うん、着る。 だから、来て。」

 

「そうだな。 海なんて ほんと、久しぶりだよ。」

レストランの窓越しに、四角い空を見上げながら悟天は続ける。

「さっき、ブルマさんに言われてハッとしたよ。 どこにだって自由に行けるんだよね。」

だって おれたち、飛べるんだもの。

付け加えた一言は、わたしの目を見て言ってくれた。

今日の空は、あいにく曇りだ。

でも来週は、ずっと お天気だといいな。

きれいな海に負けないくらいの青空が広がればいい。

 

出入口で悟天を見送り、席に戻ると、ママも戻ってきていた。

「新しい水着、やっぱり買って。 今年はわたしも、ビキニにしてみる。」

そう告げるとママの瞳はキラキラと輝いた。

まるで、真夏の日差しを受けた海みたいに。